目次
はじめに
ちゃすちゃす✋
どーも、永澄拓夢です。
てなわけで、今回の感想対象はこちら!
『魔女魔少魔法魔』
『さよなら、うつつ』が代表作の同人ブランド『羊おじさん倶楽部』の6作目ですね。
私、本作で羊おじさん倶楽部作品は5作品目になるのですが、本ブランド作品の雰囲気が大好きなんですよね。決して明るくはないけど、されどダークかといえばそうでもない、言うなれば『灰色』って感じの雰囲気が素晴らしいのです。まぁそんなワケで、本作にも期待しているところです。
というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!
あらすじ
僕はそうではない。僕には幸せになる才能がない
突如として現れた魔法少女を自称する彼女は、僕と一緒に魔法相談部なんて部活を始めて――
のら猫と間違えて友達の猫を殺しちゃった、と一人目の相談者。
いじめられてる友達の不幸が続きますように、と二人目の相談者。
轢き逃げしちゃったお父さんの殺し方を教えて、と三人目の相談者。
かくいう僕は、誰にも聞こえない囁き声で
世界中で僕だけを幸福にできない魔法なんて、きっと心底陳腐でくだらないものだろう、と。
上等じゃん、なら本当に何も変わらないのか私と試してみようよ
引用元
所感
面白かったです。興味深い内容でもありました。
『人生観』ってヤツですね。言っていることは突き詰めれば『生きていれば当前』のことではあるのですが、あえてその部分を浮き彫りにする作品です。
ところどころにテーマに沿ったメッセージが散りばめられており、その影響か短いながらもカロリーの高い作品だったため、ゆっくりと物思いに耽られるタイミングでプレイするのがベストでしょうね。
~以下ネタバレ有~
総評
●シナリオについて
面白かったです。個人的に、同ブランドの他作品と比較しても特に力が入っていたという印象を受けました。
いつもの『灰色』の雰囲気を保ちつつ、それでいて前向きなテーマを掲げている作品だったのかなぁと。
加害することでしか幸福を得られない者たちが語る『人生観』。
展開的には、チャプターごとに物語がコンパクトにまとまっていたので、中だるみすることなく最後までプレイ出来ました。
羊おじさん倶楽部作品の主人公は、基本的には一般人と"ズレた"価値観を持つ人間なことが多いのですが、今回も例に漏れませんでしたね。そして、彼が主人公だからこそ成立する物語であったとも考えられます。いやまぁ、今回は他のキャラも大分ズレたメンツが揃っていましたが……。そういう意味では『世界の陰』色も強かったのかなと。まぁ、テーマ的にはそうなるよなぁ。
……正直、あまり展開的にこれ以上語ることはないですね……。どちらかと言えば、キャラやテーマの掘り下げが主体の作品でもありましたから。
●キャラクターについて
『佐鳥』について。主人公。人間一般に対する異端。加害者としてしか生きられない者。やっぱりさすがは羊おじさん倶楽部作品の主人公というか。倫理観・価値観共に世間一般からはハズれていますね。同級生の自殺現場に遭遇しても全く動じませんし、他者が亡くなることに関してもあまり抵抗感を抱いていない。思えば、テーマからして、本作は佐鳥という主人公の、加害することでしか生きることの出来ない人生を肯定する作品だったんでしょうかね。
『のろいちゃん────呪井川いのり』について。魔法少女。正体は重傷入院患者。裏の主人公とも言えそう。自己犠牲精神が強いなぁと。元々が寡黙だったそうですし、これまでの人生の中でも譲り続けるばかりだったのでしょう。のろいちゃん状態はあくまでも分身であって、性格も反転していたとのことですが、これから先の人生はまさにのろいちゃん状態の時のように図々しく生きて欲しいものです。
『武藤』について。一人目の依頼人。猫殺しが趣味。幼馴染に対する劣等感の塊。誰かと自身を比較し続ける人生は、自身が劣っていれば劣っているほどに辛いです。その上、比較対象から何かを奪っても自分のモノに出来ない。溜まりに溜まって、猫殺しに発展したんでしょうね……。
『須賀宏明』について。二人目の依頼人(正確には経緯が異なるが)。元いじめられっ子。恩人がいじめられたままになることを願う者。自分の代わりにいじめられるようになってから恩人の女の子が話しかけてくれる頻度が増えたので嬉しいって歪んでますよねぇ……。いじめっ子2人を半殺しどころか八分殺しにした矢先にその場で告白もなかなかサイコでしたが、それを承認する恩人の女の子────美波や祝福するクラスメイトたちもなかなか至ってましたね。
『床分』について。三人目の依頼人。虚言癖。他者に嘘を打ち砕いてもらうことで、失踪した父親の柵から解放されようとした少女。掘り下げられませんでしたが、並々ならぬ父親への恨みだけは嘘ではなかったんでしょう。彼女の幸福は、父親が死ぬことでしか得られないものだった。
『舟越』について。佐鳥の幼馴染であり親友。終盤で彼の口から『佐鳥はいつか自殺しそうに見えた』的なことが語られますが、おそらく彼がいなければ佐鳥はとっくに自殺していた可能性もあるのだろうな、と。周囲から反対されても佐鳥との友情を決して絶たなかったあたりに、人の良さを感じます。プレイ中に「どうせ黒幕か何かだろ」とか予想してゴメン……。
『喜多』について。新聞部部長。佐鳥とは因縁の仲。正直嫌い。自分のやったことは棚に上げて、佐鳥の"やり返し"に対しては一丁前に恨みを抱いているとかホント……。まぁでも、ある種本作のテーマを適度にその身に宿しているキャラでもあるんですよねぇ。自身の幸福(満足のいく新聞記事)を追求し、自身を不幸にする要因(佐鳥)には牙をむく。つまり、他者の不幸なんてそっちのけで自身の幸福を追求し、逆に自身が不幸になることに対しては責任を以て自衛を行うってことですから。
『至道巧』について。生徒会長。興味本位でしか動かない男。他者に過剰な危機感と疑惑を持つ臆病者。考えてみれば、彼もテーマの体現者ですね。喜多ほど過激じゃない代わりに、自衛に特化しているという感じでしょうか。結局、床分の件に一枚噛む件とか佐鳥絡みで生徒の中に新たな死者が出た件とか有耶無耶になりましたけど、佐鳥がいのりを捜している数ヵ月の間にひと騒動あったんですかね。
●テーマ・メッセージについて
■「自分以外の誰かの幸せのために自分が幸せになるのを諦めるって、たとえどんな理由があったとしても、きっとそれだけは絶対に選んじゃいけない選択肢なんだよ」
ラストシーン周辺において、佐鳥がいのりに向けて発したセリフです。おそらくこれが、最も本作の結論に近いメッセージだったかと。作中に散りばめられたメッセージの総まとめでもありますね。『人がきちんと生きていくためには、どうしようもなく自分の外側の存在が必要』とかモロに繋がってます。
自己犠牲の精神はたしかに美しいようにも思えるけれど、生まれた以上は自分の幸福を追求するべきなんですよね。たとえそれが誰かを不幸にするものであったとしても。……まぁ、あまりにもタガが外れてしまえば社会の平穏なんてものは容易に崩れ去るのでしょうが……むしろその先にあるものが、人間社会という虚構を超越した『人間らしい人間社会の姿』なのかもしれませんね。
それはそうと、『人間の幸福とは、個人的な欲求が満たされたから完結するものではない。社会全体が幸福でなければ、人間の幸福とは呼べない』ってセリフもあったけど、これも真実だとすれば、だからこそ最後の願いが『この世界が、みんなに等しく幸せな地獄でありますように』だったのかとも考えられますね。
■「僕たちが僕たち自身の幸せを諦める責任や、誰にも迷惑かけずに自殺する義務なんてまったくなくてさ────もしも僕らの生存が誰かの幸福の邪魔になるなら、その排除はその誰か自身が負うべき責だ」
自己中心的な暴論にも思えますが、いちおう自身の不幸な環境を両親のせいにしていた佐鳥が過去で母親と再び相対した後に導き出した答えなんですよね。不幸になったのは両親のせいでも環境のせいでもなく、自身のせいだと。不幸への対処の責任は自身にあるのだと。自衛大事。誰かのせいにしているだけでは変わりません。そして逆も然り。自身が幸福になることで不幸になる人がいても、それを懸念して道を譲る責任なんてものはありません。不幸への対処の責任なんてのは当人にぶん投げて、自分は幸福を追求するのです。
ここ好きポイント
■完走後のタイトル画面。やっぱり完走後にタイトル画面が変わるのっていいですよね。
おわりに
『魔女魔少魔法魔』感想、いかかだったでしょうか。
期待に応えてくれる作品で満足でした。羊おじさん倶楽部作品はあと『さよなら、うつつ』と『音無き世界その代わり』だけが未プレイなのですが、どちらも購入・インストール済みではありますので、頃合いを見てプレイしたいと考えております。
次にプレイする作品は、『しゅぷれ~むキャンディ』を予定しております。
それでは✋