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『贖罪と命』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『贖罪と命』
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 ティラノゲームフェス2019参加作品で、フリーゲームです。ノベルゲームコレクションおよびBOOTHからインストールすることが出来ます(リンクは所感に貼ってあります)。

 全く知らない作品だったのですが、Twitterにてフォロワーのお一人がプレイされていたのを目にし、興味を持ちました。
 見るからにダークな雰囲気の作品ですが、そういうの好きなので期待しています。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 忘れるはずもない2011年8月6日、僕は弟を殺した。

 4つの手記(+補記)からなる主人公の回想録。
 主人公は世界との正しい接し方を見失ったことで弟を殺すまでに至った。しかし彼が殺したということは誰にもばれず、彼は罪を隠しながら生きることを選んだ。
 人殺しであることを常に意識し、殺したはずの弟の視線に苛まれる彼は死のうとするが、なにかが邪魔をして死にきれない。
 生きることに意味はあるのか。

 引用元

所感


 面白かったというよりは、見入ったという表現の方が近いかもしれません(或いは"読み入った"という表現の方が正しい……?)。
 『手記』という形で綴られる主人公の独白によって構成された作品で、まるで一般小説を読んでいるかのようでした。
 内容は非常にダークなもので、精神的にどんどん悪い方向へと進んでしまう人間の心理状態を描いているような感じ。
 そんな中で、主人公の死生観の成り行きが描かれるという物語になっております。

 刺さる人には刺さる作品だと思います。
 死生観系やダークな雰囲気系を好む方にはもちろんオススメしますが、『主人公のような境遇からの視点』だからこその気づきもありましたので、前述に該当しない方にも手に取ってみて欲しい一品です。

 ノベルゲームコレクションおよびBOOTHよりインストールできますので、興味のある方はぜひ。
novelgame.jp jeuxdeau.booth.pm

~以下ネタバレ有~











総評


 正直、本作を掘り下げて語れる程の力量を私は持ち合わせていません。
 そのため、かなり自分にとっても満足のいかない総評になってしまうかとは思われますが、お付き合いいただけると幸いです。

●シナリオについて
 とても良い作品だったと思います。
 所感でも記述しましたが、面白いというよりは思わず見入ってしまうような作品でした。

 まず、本作は一貫して主人公の独白が『手記』という形で綴られる内容だったワケですが、主人公への没入感が凄まじい。
 これはもちろんライターさんの文章力が非常に高いことも理由の一つではあるのでしょうが、何よりも本作の『主人公像』が精密であることが最大の理由に挙げられると考えております。
 本作の主人公は、目の前で亡くなった弟を自身が殺したのだと考えることでだんだんと追い詰められていきます。直接的に描写されたワケでも主人公が意図的に殺したワケでもありませんが、そのような前提で物語は進みます(主人公の独白ですので)。
 異常な程の自責の念。しかし主人公の思考がどんどん自分を責める方向へ進んでしまうことには明確な根拠があります。というのも、主人公は子供の頃に手酷い虐待を両親から受けていたのです。中盤のいわば『施設編』でも施設長が若干触れますが、虐待を受けていた子供たちは何でも悪いことの責任は自分にあると考える傾向にあるそうで、作中(主人公の視点)では少なくとも明示されませんでしたが、主人公もその気があったのだろうなと考えています。故に、私はそもそも主人公が弟を殺したということ自体が勘違いであると考えているワケですが……。
 話が少し横道に逸れたので軌道修正します。そんなこんなで、苦しい過去と特有の考え方を持つ主人公だったワケですが、本作のライターさんはこの主人公像を精密に物語へと昇華しているワケです。それはもう、主人公とは明らかに境遇の異なる私のような読者が、主人公視点に立って思考出来るレベルのクオリティで。あとがきで本作のライターさんは、「自身の心理状態が形になったのが本作」というニュアンスの旨を書き綴っておりましたが、おそらくはそれが『主人公像』の精密さへと繋がった秘訣だったのかもしれません。
 上述は、「シナリオについて」においては若干スレ違いな評価点ではあると思いますが、まずはこれを評価しておきたかった次第でした。

 というワケで晴れてシナリオについてですが、少なくとも『展開』についてはほとんど語ることはありません。本作はあくまでも『主人公の手記』による構成であって、大きく物語が流動するワケではありません。ただひたすらに、主人公の辿った負の軌跡が描かれるだけです。そこに展開的な面白味は無く、だからこそより主人公の心理状態や作品としてのメッセージ性が際立ったのだろうと考えております(よって、「面白味が無い」はここでは悪評ではない)。
 ただ、どこまでも自身を責め続けて追い詰められていく中で、生と死の意味を掘り下げ、やがては答えを掴み、主人公なりの『生きる』という結論に至る過程は、一種の美しさのようなものすら感じられました。そういう意味では、「面白さ」ではなく「感嘆」の領域で本作を"感じられた"ことは、ある種正解であったのかもしれないです。

 印象に残っているシーンとして、子供時代の主人公がいた孤児施設にボランティアの大学生がやってきたパートがあります。
 本パートこそが、最も私が『主人公に没入している自分』と『ライターさんの力量』をハッキリと認識したパートです。というのも、本パートにおけるボランティアの大学生が非常に気持ち悪く思えたのです。特に何か大きくヘイトを感じるような描写がされていたワケではありません(一人例外はいますが)。ただひたすらに、"明るい子供時代を過ごした理解の無い幸福者たちが、偽善からか孤児に手を伸ばそうとしている光景"に不快感を覚えたのです。  軽く先述もしましたが、私は主人公とは全く境遇が異なります。それどころか、非常に幸福で温かい子供時代を過ごしたと自負しております。そういう意味では私は、ボランティアに来た大学生たちとの方が明らかに近しい存在と言えるのです。
 しかし、そうであっても本作プレイ中の私は完全に主人公側に寄っていた。ある種、主人公に取り憑かれていたと言っても良いのかもしれません。
 この現象を自覚した際には、鳥肌が立ちました。だからこそ、本作を評価する理由に繋がったワケです。

 名作とは時として人々を物語へと没入させ、感動を与えてくれるものではありますが、それはそれとしてここまで境遇の異なる主人公に没入することが出来るというのは本当に凄いことです。しつこく再三言いましたが、それだけこの部分を評価しているということなのです。
 巷では、エロゲ・ギャルゲにはなるべくユーザーが自身を投影しやすいように無個性主人公が適用されるみたいな噂を耳にしたことがあります。そういう話を聞くと、尚更本作の強さが全俺の中で際立つワケなのですよ。

●キャラクターについて
 『主人公』について。虐待被害者。自称弟殺しの殺人犯。
 造形が複雑すぎて、且つ境遇が異なりすぎて、私程度では語り得ません。
 自責の念は常軌を逸するモノで、虐待を受けた人々の心理状況とはここまでなのかとまざまざと見せつけられました。
 彼は自身を『悪』と称しますが、真実か否かも定かではない弟殺しに充分に苦しみ自身を罰している様子からは、強い悪性は感じられません(タイムリーですが、現実で凄まじい悪性が報道されていますからね……)。まぁ、これもおそらくは的外れな言及なのでしょうが……。
 彼の好悪の話で、『生き物の生々しさが苦手』という話題がありました。限りなく明確に言及はしていましたが、これって一種の同族嫌悪或いは共感性だと思うんですよね。"内面と外面があって、内面を守る殻がある。隠れている内面を見る行為には吐き気すら生じる。" 自身の内面に隠したい物事があるからこそ、自身以外の何かしらの中身が暴かれることに嫌悪感を覚える。そういうロジックなのかなと推察します。
 最後、彼は生きる決意をすると共に自首すると手記に書き綴っていましたが、その後どうなったのかは気になりますね。

 『佳奈』について。主人公が大人になってから出会った彼女。周囲でよく人が死ぬという体質。弟を想起させるような善人。
 主人公にとっては『救い』であり『苦しみ』でもあったという立ち位置は好きでした。いい人ではありましたが、おそらく主人公との関係は依存関係でしたよね。

●テーマ・メッセージについて
自身の本当の声に耳を傾けること
 心で思ったことと本能の乖離。心(意識)は死にたいと願っても、身体(無意識)が生きたいとそれを拒否する。
 ならばこそ、本能こそが自身の本当の声であり、人間は本当の声にこそ知覚すべきであると。

僕たちは生きることを追い求める。美しくしかし毒を孕んだものと知りながら。人生とは毒に侵され、苦しむことが予め定められた負け戦なのだ
毒は場合によっては快楽をもたらす
人間は、一瞬の快楽のために苦しみを受け入れる
人間には生しか道がない。生に逆らえば、快楽すら存在しない絶望の深淵に落ちるから
僕たちは生きるという行為に狂わされているのだろう。でも全ての人々が狂っているから、それを狂っているのdあと認識できないだけなんだ。しかし、一部の、生に逆らった人間だけは、更に狂ってしまうから、その狂いが分かるようになってしまうのだと思う
 生に抗う行為をして初めて知覚できる狂い。長き苦しみと一瞬の快楽。毒に満ちた人生。これはおそらくは全人類の共通事項であって、大多数が知覚出来ていないコト。
 非日常が日常となってしまうかのように、狂いが正常となってしまっている状態。
 大罪を犯すような『生への反逆』があったものにこそ知覚出来る狂いと猛毒。
 だからこそ、死ぬことよりも生きることの方が『罰』なのだと。大罪を背負ったならばこそ、罰として生きるべきなのだと。

おわりに


 『贖罪と命』感想、いかかだったでしょうか。

 非常に興味深い作品でした。スピンオフであるという『慈愛と祈り』も近々プレイしたいと考えております。

 次にプレイする作品は、『じごくのインターネッツ』もしくは『Session────真実嫌いの探偵は、』を予定しております。

 それでは✋