目次
はじめに
ちゃすちゃす✋
どーも、永澄拓夢です。
てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!
『雨の日と雨の日の次の日』
同人サークル『人工くらげ』さんの処女作です。
先日プレイした同サークルの『アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ』という作品がとても満足出来る作品だったため、そのままの流れで他作品もプレイしてみようと思った次第です。
「読み応えがあり、読後感も良い」という感想も寄せられている本作。大変期待しております。
というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!
あらすじ
大学の農学部に在学する主人公のまわりで、不思議な出来事が次々と起こり始める。
奇妙な夢に現れる友人。
何かを見透かしたような、博士課程の女性。
ふわふわと、とらえどころのない言動をとる恋人。
そして……。
現実と夢、日常と非日常、安定点と不安定点は交錯する。
引用元
所感
面白かったです。
3つエンディングが存在しましたが、どの√も読後の余韻はピカイチでした。
また、本作は雰囲気作りがとても上手いなと感じました。気づけば読み入っているような、そんな魅力のある作品です。
展開的に大きく盛り上がる系の作品ではありませんが、心にじんわりと染み渡る作品をプレイしたい方にはオススメです。
本作はフリーゲームです。以下の公式ページからダウンロードすることが出来ますので是非。
jnc-klg.sakura.ne.jp
~以下ネタバレ有~
総評
●シナリオについて
※ルートは3つありましたが、本筋は変わらないため、総合して記述します。
奇抜で個性的な物語であり、シナリオも面白くはありましたが、基本的には『雰囲気でプレイヤーを虜にする系統の作品』であるという印象を受けました。
途中までは本当に何がしたいのか全く分からない作品でしたし、完走後でも「極めて抽象的だった」という感想は変わりませんしね。
しかしそんな「よくわからない物語」であっても尚、プレイヤーを惹きつけることが出来る魅力(何とも説明し難いモノ)を持っている作品ですから、ポテンシャルを感じずにはいられないワケです。物語に触れるにあたって、『没入』出来るか否かは重要なピースなのでね。その点、大きな評価ポイントです。
設定・説明面に関して。『アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ』の方でも記述しましたが、本作もまた中途半端ではあります。現代ファンタジーを謳っているワケですが、それを差し引いても説明義務が発生すると思われる点を、説明せずに終わったワケですからね。奈央子の分裂の真相とか、そもそも安定世界・不安定世界の境界と相対的立ち位置、相互的影響はどうなっているのかとか。
その点、『アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ』で有耶無耶になった設定・真相以上に根幹に関わってくる設定・真相だったため、なんともモヤモヤは大きいです。いちおう考察の余地自体はありますが……。
結局、安定世界と不安定世界は互いに重なり合っていて、どちらかと言えば各人が持つ認識フィルター(観念)に依存した区分になっているという認識でいいのでしょうか……。まぁさすがに片岡教授のような非現実そのものには、安定世界に出るにあたって世界の修正力的なモノが働いたということなのでしょうが。
3つのエンディングはそれぞれ、『何も解決しないEND(Normal End)』、『解決こそするが、今までの日常(異常)が続くEND(Good End)』、『全てが解決し、全員で安定世界へ跳び出すEND(Happy End)』という風に命名出来るかと思われます。
どのエンディングも読後の余韻は抜群でした。名作を読み終えたかのような読後感とまで言えます。そう考えると本作は、『終わり良ければ総て良し』の典型的なパターンとも言える作品かもしれませんね。〆方の重要性を思い知らされました。
個人的にはやはりHappy Endが好みです。このエンディングでは何よりもまず、『非現実そのもの』を自称するほどに安定世界に出られない理由があり、長年孤独に苛まれてきた片岡教授が、その孤独を解消出来る。またそれに伴って、木魚さんも停滞の苦しみから解放されるワケです。
正直、他二つのエンディングでは、主人公と竹田、奈央子の問題は解決こそすれ、教授と木魚さんの問題は放置ですからね。やはり全てが解決するエンディングを推したい。ラストシーンでの片岡教授の笑顔を見ると、尚更そう思います。
しかし読後の余韻が最も強かったのは意外にもNormal Endでした。多くの謎とモヤモヤを残した状態で、誰もいない早朝に彼女(奈央子)を待ち続ける主人公。幾数刻の後、彼女が姿を現してこちらに歩んでくるというラストシーン。それを背景差分のみのストップモーションで表現する演出。彼女が主人公の元に辿り着く前に突入するエンディング。ホント、雰囲気作りと演出、そして引き際が天才的だと感じましたね。
●キャラクターについて
『西 和行』について。主人公。安定と不安定、正常と異常を往復できる特殊体質。
主人公らしい主人公で満足です。特にHappy Endでの決断とそれをすぐさま実行に移す姿勢は好感を抱きましたね。主人公とはこうでなくては。
『竹田』について。主人公の親友。奈央子の幼馴染。主人公の記憶を改竄した者その1。
複雑な心境のキャラですよね。『変化』に抗う者とも言えるでしょう。
大好きな幼馴染と離れなければならないのが嫌で、主人公と奈央子を引きはがそうとした。しかしいつの間にか主人公の"友達"になってしまっていた。だからもう主人公を憎むことが出来ない。
物語の終盤、彼は悟りつつも認められないという状態でした。きっと、変化を受け入れるか否かの瀬戸際で不安定だったのでしょうね。
Happy Endのラストシーンで、憑き物が取れたかのようにサッパリとした様子で主人公と会話する彼の姿が印象深く心に残っております。
『奈央子』について。主人公の彼女。竹田の幼馴染。
実際に『変化』という概念を最も強く体現した存在ですね。変化前と変化後に分裂までしたワケですから。
しかし最終的には『変化』を受け入れ、分裂した自分との統合を果たしています。自己解決した形なんですよね。心の強いヒロインかと。
『片岡教授』について。教授。非現実そのものの存在。主人公の記憶を改竄した者その2。
最も孤独な存在とも言えるでしょう。異常の体現故に"教え子"を獲得できない。彼女の"教え子"になるということは、異常の中に身を置くことになるから。
中盤までは若干悪役として描かれていた節もありますが、事情を知れば同情しますね。孤独だからこそ誰かを求めたのでしょう……。
だからこそ、異常から解放されて安定世界で普通の人間になれた彼女がエンディング前に見せた笑顔は印象に残るワケです。
『木魚さん』について。博士課程。片岡教授の"教え子"。異常に囚われ続ける存在。
元はと言えば「文学部以外の世界で生きていけるか不安」という念を抱いたことが発端で異常に停滞してしまったんですよね。彼女の境遇もまた、環境の『変化』を恐れたからこそ陥った状況だったと言えるでしょう。
自身の境遇を後悔し、自分を捕らえている片岡教授を憎む素振りを見せていたからこそ、Good Endの方で「やっぱり好きなんだ」と本心を零すシーンは印象に残りましたね。彼女もHappy Endの方では元片岡教授の母親として上手く生活出来ている様子ですし、『変化』を受け入れて前に進めた結果なのでしょう。
●テーマ・メッセージについて
■「変化することへの恐怖心と、変化を受け入れて前に進むこと」
根底にあったテーマはこれかなと思います。完全に個人的な考察ではありますが、ね。
本作に登場するキャラクターはみんなどこか『変化』というモノに臆病になっている節を感じました。そして、本作の物語では最後にそのキャラクターたちが『変化』を受け入れて前に進んでいる様子も窺えました。
主人公自身に当てはまるかと言われればそうではありませんが、主人公が特異点として"彼ら"を前に進ませたことは確かです。
そういう意味では、少なくともプレイヤー視点(主人公視点)では「変化を受け入れて前に進むこと」というよりは「変化を受け入れ前に"進めさせる"こと」だったとも言えるかもしれませんね。
おわりに
『雨の日と雨の日の次の日』感想、いかかだったでしょうか。
実は私、恥ずかしながら今回、Normal endだけ見て完走だと勘違いするなどという早とちりをしてしまいました。てっきりルート分岐はないと踏んでいたためです、ハイ……。
まぁ、鑑賞モードが無い上に、一つでもエンディングまで到達するとタイトル画面が変わるという仕様だったことも、勘違いを助長した要因だったワケですがね!!!!!
皆さんはそんな早とちりしないよう気を付けましょうね。
次にプレイする作品は、『夜の中に浮く花たちの片側』を予定しております。
それでは✋