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ノベルゲーム感想と思考出力

『夜の中に浮く花たちの片側』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『夜の中に浮く花たちの片側』
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 同人サークル『人工くらげ』さんの二作目です。
 同サークルの作品である『アルティメット・ノベルゲーム・ギャラクティカ』や『雨の日と雨の日の次の日』が面白かったため、本作も期待しております。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 8月、夏。
 幽霊に取り憑かれてしまった主人公は、彼女を成仏させるために奔走することとなる。

 そのための方法はひとつしかない。
 送り火
 “大文字”・“妙法”・“舟形”・“左大文字”・“鳥居”
 この町を囲んでいる五山の送り火を、火がついている間に全て見ること。

 にぎやかな幽霊にふりまわされながら、死と生をみつめるひと夏の物語。

 引用元

所感


 展開的に面白かったかと問われれば肯定は出来ませんが、テーマ的には良い作品であったと思います。
 他の人工くらげ作品と比較すると若干見劣りしてしまうかもしれませんが、雰囲気の良さやテーマの良さ、日常描写等の『人工くらげ作品らしさ』はしっかりと本作でも活かされていましたね。
 個人的には、『アルティメット・ノベル・ゲーム・ギャラクティカ』や『雨の日と雨の日の次の日』よりもテーマが読み取りやすかったと感じました。そういう意味では、人工くらげ作品の入門としては最適な作品かもしれませんね。

 本作はフリーゲームです。以下の公式ページよりダウンロードすることが出来ますので、興味のある方は是非プレイしてみてくださいね。
jnc-klg.sakura.ne.jp

~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 ※正直、本作のシナリオについて語るとなると、わりかし辛辣な物言いになってしまいます。そのため、本作がシナリオ的にも好きだという方は読まないことをお勧めします。
 ※エンディングは2つ存在しますが、総合して感想を記述します。

 所感でも述べましたが、テーマに関しては良かったかと思われます(テーマについては後述)。しかし、展開的にはお世辞にも良かったとは言えません。
 私が本作をプレイして受けた印象は、『テーマのためだけに装飾された作品』です。たしかにテーマとしては一貫しています。しかし、テーマを作品としてカタチ作るのに力を入れすぎたあまり、展開的な面白さにまでは手が回らなかったのだろうなと感じました。

 具体的にどういった点が気になったのか。
 まず私が気になったのは、『オチの弱さ』です。テーマとしての結論が出るシーンはいいとして、問題はまひるの正体ですね。
 まひるの正体は、主人公の家の近所に住んでいる寝たきりのお婆さんでした。そしてそれが一応テーマ完遂の役割をも担った真相になるワケなのですが……。
 基本的にそういう真相解明シーンって大なり小なり盛り上がるものなのですが、本作該当シーンでは困惑しかありませんでした。最後の最後まで引っ張って、正体はぽっと出のお婆さん。しかも初対面って……。
 まぁ、難しいテーマではありますから、テーマ完遂のためにはこういう真相しか用意出来なかったという理由もあったりするのでしょうがね。

 次に私が気になったのは、『五山の送り火って結局意味あった?』という点です。
 あれだけガッツリとシナリオの中で準備とリハーサルを重ね、いざ終盤に強く意味を成す展開になるんだろうな~とか思っていたんですがね。蓋を開けてみれば、True endと思われる方のシナリオではそもそも本番で送り火を見ることすらなかったんですよね。
 一応もう片方のエンディングでは、送り火をちゃんと見たからこそ命が助かったみたいな演出にはなっていましたがね。まぁでもそういう意味では、少なくとも展開的にはNormal End(佐見の方)の方が気持ちよく終わった気がしますね。
 ともあれ、あの巡回ルート決めてる時間なんだったん? という疑問は拭えないワケです。『準備編』的パートが結局あまり意味をなさないで終わる展開は個人的にも嫌いな部類なので尚更……。

 総括すると、悪い意味での予想の裏切りで、ひたすらに悪い部分が目立ってしまったという感じです。
 同サークル作品の『雨の日と雨の日の次の日』の感想記事ではたしか、「『終わり良ければ総て良し』の体現作品とも言える」みたいなことを記述した覚えがあるのですが、本作はまさにその逆で、『終わりダメなら総て(とは言わないまでも)ダメ』の体現だったと言えるのではないでしょうか。

 あ、ちなみに、中盤のらさちゃんとの日常シーンには全く文句ありません。父親を失い、『別の場所』を探すらさちゃんの機微がとても上手く描かれていたのはとても良かった。主人公が姉の家に泊まる最終日に、仕事終わりの母親を迎えに行って嬉しそうならさちゃんには、思わずウルっとしました。

●キャラクターについて
 『高見』について。主人公。大学院生。
 色々かんばってくれた主人公だったと思います。らさとの関わり合いを見るのが楽しかったですね。悲しみを背負っている主人公というのは何とも魅力的に映るなぁと。

 『らさ』について。主人公の姪。『別の場所』を探す本作の重要人物。
 テーマに直結するキャラクターですね。不安定な様子がありありと伝わる非常に造形の深いキャラクターだったかと思われます。彼女の機微の精巧さこそが本作の最大の注目点と言っても過言ではないかもしれません。
 別の場所などないことを知った彼女は、今後どのように人生を歩んでいくのでしょうかね。そういうアフターは読んでみたいです。

 『まひる』について。主人公に取り憑いた幽霊。正体は近所の寝たきりのお婆さん。
 正体はパッとしませんでしたね。実はあまり印象にも残っていません。
 無理矢理だったのか分からないですけど、True endのラストの行動(らさに取り憑くヤツ)もちょっと意味不明でしたし、ある種シナリオの被害者と言ってもいいキャラクターかもしれません。

 『』について。主人公の姉。らさの母親。未亡人。
 周囲を明るくするために無理して浮かべる笑顔。娘に対してどうしていいか分からずに弟を頼る様子。上手い具合に不安定さを滲ませたキャラクターになっていました。今後、らさと共にどのように人生を歩んでいくのでしょうか。

 『佐見』について。主人公の後輩。
 結局あまりよくわからないキャラでした。こういう芋臭い感じのメガネっ子ヒロインは、昨今なかなか見なくなりましたね。

●テーマ・メッセージについて
違う場所、違う世界など無い
 本作のテーマはおそらくこれかと。
 視点が変わったり別側面が見えたりしたことで、たとえそこが『違う場所』・『違う世界』に見えたとしても、実際には『同じ場所』であり『同じ世界』なのだということですね。ひたすらに父親が行ったであろう『違う場所』を探し続けたらさちゃんが、まひるの正体を知ったことで至る結論です。
 終盤のらさちゃんのセリフを少しだけ拝借した結果このような記述になりましたが、『場所』や『世界』の位置にはもっと広い言葉が入ると考えております。
 それは例えば『人』だったり、或いは『物』だったり、はたまた『現象』だったり。
 この世界のあらゆる『モノ』は複数の側面を持っています。そして人は、関わる『モノ』の全ての側面を把握できているワケではありません。
 だから例えば、仕事先の上司と電話している時の親が、子供の視点からは別人に見えることもあるでしょう。日中しか街を出歩いたことの無い人が、夜中に街を出歩くことで、まるで異世界に迷い込んだような感覚に陥ることもあるでしょう。しかしそれらは『同じモノ』なのです。違うように"見える"だけ。
 そして、そういった様々なモノの様々な側面を知っては『同じモノ』だと擦り合わせること、そうすることで世界を識っていくことこそが、『人生』とも言えるではないかなと考察しました。

おわりに


 『夜の中に浮く花たちの片側』感想、いかかだったでしょうか。

 期待しすぎたことも物足りなさの原因の一つだったのかぁ……とか思っております。反省。

 次にプレイする作品は、かの名シリーズの一作目である『Rance -光を求めて-』を予定しております。
 また、並行して『かけぬけ★青春スパーキング』も進めておりますので、どちらが先に感想記事として投稿されるかは分かりません。ご了承ください。

 盆休みまでに終わらなかったので『ビフォー・アライビング・アット・ザ・ターミナル』やります。

 それでは✋