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『いきなりあなたに恋してる』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『いきなりあなたに恋してる』
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 かの名作『サクラノ詩』で有名な商業ブランド『枕』さんから、2011年に発売された作品です。
 制作スタッフから鑑みるに本作、ケロQメインスタッフがサブに回っている点からしても、『枕』設立時の理念(すかぢ先生に創れない作品を作る)に最も近い作品であるのではないかと考えております。

 ちなみに個人的な話ですが、私本作を完走することで、やっとこさケロQ/枕/すかぢ作品はオールクリアとなります。
 晴れて胸を張ってケロQ/枕ファンを名乗れるワケですね。感慨深い。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

 ※今回、かなり評価の上げ下げが激しい感想となっております。それに伴い、ネガティブな感想も多めです。本作を好きな方にとってはご気分を害される可能性のある記事となっておりますので、その点ご了承ください。

あらすじ


 はしゃぐ鬼ヶ瀬胤。
 苦笑いの柳瀬詠歌。
 冷たい視線の湯川涼。
 そして新しい住人の養老紡。
 いつもと変わらない……あ、いや、
 この俺、柳瀬重耳の家の庭が
 ベルサイユ宮殿になっていた日。
 俺の事件性の乏しい、平々凡々な日常。
 そんな日が始まる。

 事件性と平々凡々な日常と言うのは
 俺の願望である事は言うまでもない……。

 神がいるとしたら、
 神に問う。
 俺の平凡をどこにしまい込んだ!

 引用元

所感


 うーーーん、評価が難しい……。
 オーソドックスなイチャラブ系エロゲ・ギャルゲという印象。ジャンル的な要点は押さえていましたし、ケロQ/枕作品らしさも感じられはしました。
 個人的には、『ヒロインの可愛さを楽しむ』という楽しみ方を開拓することも出来た一作ですので、素直に「プレイして良かったな」と思えております。
 しかし、普遍的に突出して良いと言える要素が無い上に、イラっとする場面がゴロゴロと転がっている作品であるのもまた事実なんですよね。
 細かい部分が気になる方には正直オススメ出来ません。
 ただ、『ヒロインの可愛さ』を楽しめる方、或いはケロQ/枕作品をコンプリートしたい方にとってはプレイ価値のある作品でしょう。
 機会があればぜひ手に取ってみてください。

~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 湯川涼√ ➡ 柳瀬詠歌√ ➡ 鬼ヶ瀬胤√ ➡ 養老紡√
 

共通パート

●シナリオについて
 うーーーーーーん、正直あまりよろしくないです。

 エロゲ・ギャルゲの共通パートで最も重要といっても過言ではないヒロイン紹介。これに関しては、今までプレイしてきたどのエロゲ・ギャルゲよりもスピーディ且つ分かりやすい紹介だなぁとは思いました。この点はとりあえず良点と言えます。
 ただ、それ以外の部分が何とも……。
 短いスパンで同じやりとりを繰り返すクドい会話劇。これでもかと言わんばかりに理不尽な主人公の扱い。それ以外にネタが無いのか?と首を傾げてしまう程にしつこく擦られる『変態弄り』と『ゴキブリ弄り』。etc...。とまぁ、日常会話シーンはほとんどイライラとの戦いになりましたね。特に、涼と詠歌に対する嫌悪感は大きく、「メインヒロイン4人中2人にここまで嫌悪感を抱かせるシナリオってどうなの……?」とも思いました。まぁ、残りの2人(紡と胤)は好感を持てるヒロインだったので良かったのですが……。

 展開的には一応、歌木布袋学園の怪談をリサーチするパートは面白かったです。怪談という題材におけるダブルミーニング的な言語トリックには、ケロQ/枕作品らしさを感じました。

 さて、各ヒロイン√に入っていくワケですが……。
 ……不安だなぁ……。

湯川 涼√

●シナリオについて
 ケロQ/枕作品らしさを感じられる√ではあったのかなぁと思います。
 本ルートの肝であった『旧い村の風習による伝奇ホラー』や『ダブルミーニング的言語トリック』からは、過去作である『二重影』や『灯穂奇譚』が思い起こされました。
 残念ながらクオリティ自体は上述した二作には劣りますが、納得のいくトリックではあったため、その点では満足ですね。

 ただ、言ってしまえば本ルート、良点はそこだけなんですよね。
 シナリオの流れ的にも色々突飛ですし、何より過去編に対する「は?? え、結局何を見せられたの?」感があまりにも大きい。
 幼少期の血気盛んな主人公が涼と出会い、涼と共に武道に努める────という過去エピソードが語られたワケですが……。
 その中で涼はまず、初対面の主人公に対して「最低なヤツ」という判断を下します。判断理由は、主人公が一般人に暴力を振るったからであると。しかし主人公にも暴力を振るう理由がありました。なんでもその一般人とやらは、主人公の妹である詠歌をイジメていたとのこと。つまり、詠歌のイジメを解決するために主人公は、一般人とやらに喧嘩を売ったワケですね。しかも最初から暴力を振るったワケではない。口で言って反省しなかったから戦ったワケです。ちゃんと順序は踏んでいます。
 しかし、そんな背景を知りつつも尚、涼は主人公に対する「最低なヤツ」という判断を曲げません。この時点で、どないせーっちゅーねんって感じではあったのですが、話はまだまだ続きます。
 時を経たある日、主人公は討伐隊なる大群から襲撃を受けます。詠歌を助けるために暴力を振るった件に対して、詠歌をイジメていた連中からは逆恨みされていたんですね。村近隣の暴走族までもが討伐隊として名を連ねている始末。健闘しますが、主人公はボロクソに敗けてしまいます。そんなボロクソ状態の主人公を助けに来た涼ですが、討伐隊によって飼い犬を人質に取られ、身動きが取れなくなります。その結果、謝罪も虚しく涼は辱めを受けそうになり、主人公は永遠と暴行を加え続けられる惨状に……。最終的に、主人公がケジメとして自分の頭をカチ割ることでその場は収まりました。
 とまぁ、展開的には特に問題は無いのですが、私にとって問題だったのはこの一件に対する涼の見解。涼はこの一件に対し、「全て主人公のせい。犬が人質として苦しんだのも主人公の責任。あの一般人たちに暴力を振るわなければこんなことは起こらなかった。もう少し利口になれ」というニュアンスのセリフを主人公に吐きます。
 「は????」という声が、思わず喉から飛び出しましたね。
 確かに討伐隊とは主人公を倒す目的で組織されたモノですから、この一件のトリガーは主人公の暴力でしょう。涼のセリフからしても、本ルートを書いたライターさんはおそらく「暴力は巡り巡って大切なモノを巻き込むような大惨事に発展する」みたいなことを伝えたかったのでしょう。
 しかし、もしもこの結論を認めるのであれば、主人公にとっては『イジメられている詠歌を見捨てること』が最適解だったことになりませんか?
 相手は口で言っても聞かない連中。加えて討伐隊を組織する程に逆恨みを募らせる連中でもあります。仮に大人に相談して彼らに注意を施したとしても、それで言うことを聞き入れるなら苦労はありませんし、結局のところ「恥をかかされた」だとか「怒られた」だとかで逆恨みを募らせるのが関の山です。
 また、柳瀬家は村にとってもそれなりに中枢寄りの位置にある以上、引っ越す等の『逃げ』も気軽に実行出来ないでしょう。
 そして、街であれば児童相談所的な機関もあるでしょうが、旧い風習が残っているような村にそのような機関が存在する可能性も低いです。
 つまり、主人公や詠歌の置かれている状況におけるイジメっ子への対抗策は、徹底的に暴力で蹂躙することで格付けを行うくらいしか無いワケですよ。今回討伐隊による襲撃にまで発展したのは、イジメっ子連中に逆恨みを募らせるレベルの余力を与えてしまったことが原因であって、むしろ戦犯は「所詮は子供の喧嘩」と軽い判断で止めに入った涼の爺さんとまで言えます。
 そんなこんなで逆説的に、あの場面で暴力を振るわない選択を行うということは、『イジメられている詠歌を見捨てること』を意味するワケです。そして本作は遠回しにそれを最適解と言っているワケですね。ふざけんな。……まぁ、おそらくは意図的じゃないのでしょうが……。
 過去編に対するメイン的不満点は以上ですが、付属的な不満点は他にもあります。
 結局、主人公がどのような行動をとるべきだったのかの代案を最後まで涼が口にしなかった点もそうですし、そんな過去編がありつつも何だかんだ現代では主人公に理不尽な暴力を浴びせたり不良を暴力で撃退している点も気になりました。特に後者は過去編と明らかに矛盾する行動の数々なので、尚更嫌悪感を引き立てる要素となりました。
 涼が主人公に理不尽な言動をしていたのは、要石の役割を自分の代で終わらせることを目的に、主人公を好きにならないようにするためだったという事実が最終的に判明しましたが……。うーん、それでもやはり『好感』とまではいきませんね。良くて±0か。マイナスが大きすぎましたし、過去編の彼女自身を曲げてまで取る手法じゃなかったようにも思えるので。もっとやりようがあったでしょ。代案は挙げませんけど(ブーメラン)。ちなみに、問題が解決して付き合い始めてからも涼の暴力癖は治らないので、その点もイマイチ好感に繋がらない原因になってそうです。

 ただまぁ本ルート、〆方は良かったですよね。涼と主人公の結婚を望む爺さんの想いが、他のルートで脳裏にちらつきそうではありますけど……。そういう意味では、亡霊による呪いと言っても過言では無いのかもしれませんね……?

柳瀬 詠歌√

●シナリオについて
 なんだろう……。普通に良かったんですが、上手く言葉に出来ません。
 一杯食わされたというか、一本取られたというか。
 とりあえず、本ルートをプレイすることで私は、エロゲーマーとして新境地に至ることが出来たという実感を得ました。
 というのも、今まで私はエロゲに対して、「『ヒロインが可愛い』という要素は『面白さ』や『楽しさ』には繋がらない」と決めつけていました。まぁ、今までが正にそうでしたし、そんな経験を根拠としている考え方ではありましたが……。そんな私の考え方を、本ルートはものの見事にぶち壊してくれたワケです。
 要は、本ルートを『ヒロインの可愛さ』或いは『ヒロインのエロさ』によって”楽しむ”ことが出来たということですね。普段ヒロインとイチャイチャしたくてエロゲプレイしているエロゲーマー各位が当然のように享受している楽しみ方を、エロゲ歴数年目にしてやっとこさ私は経験することが出来たのです。これを『新境地へと至った』と言わずして何と言えば良いのでしょうか。

 というワケで、改めて本ルートについて。
 素晴らしい経験をさせてくれたということで散々絶賛する文章を上述しましたが、実際のところシナリオ展開に関しては正直陳腐です。基本的にはどこにでもあるようなイチャラブ系エロゲ的展開ですね。
 何か突出して面白い展開が繰り広げられるワケではありませんし、実際私も本ルートのシナリオ展開自体に対して面白いという感情は抱きませんでした。
 それでもなぜか、ただひたすらに没入させられたんですよね。それも、以前感想を記した『MYTH』とは明らかに没入根拠のタイプが異なる。考えた限りでは、おそらく本ルートへの没入根拠は、純粋に魅惑的な『お兄ちゃん大好きド淫乱妹────柳瀬詠歌』に魅了されたことだったのだろうなと現段階では自己分析しております。

 さて。それではここからは、私による私のための私を対象とした完全なる個人的考察となります。具体的に言うと、『なぜ私は本ルートにのみここまで没入することが出来たのか』、『なぜ今までどのエロゲヒロインにも強く魅了されることは無かったのに、柳瀬詠歌には魅了されたのか』について考察していきます。

 思い当たる節としては二点。
 まず一点目としては、主人公と柳瀬詠歌の関係性が特殊である点が挙げられます。というのも、主人公と詠歌は『実の兄妹』でもあるし、『従兄妹同士』でもあるワケです。より具体的に言うと、主人公と詠歌は、”血は繋がっている”けれど”戸籍上は従兄妹”なんです。面白い関係ですよね。
 なぜこのような関係性が成り立つのか。それは、何を隠そう主人公と詠歌の両親もまた実の兄妹だからです。なんでも、実の兄妹だから日本では結婚が認められず、子供二人もまた『互いの連れ子』というポジションに落ち着いたのだとか。故に、『実の兄妹』だけど『従兄妹同士』。新しいなぁと思いましたね。いや、2011年の作品ではありますけど。
 少々回り道になりましたが、要は何が言いたいのかというと、本作は『義妹オチ』を採用していないんですよね。その上で実の兄妹との恋愛での障壁をクリアしている。だからこそ晴れて実の兄妹同士での恋愛という『禁忌』を犯せる。
 長くなりましたが、私にとってのツボはおそらくここです。『禁忌』なんです。『禁忌的性描写』に興奮を覚えるんです。『禁忌的関係性』に魅力を感じるんです。
 しかも本ルート、焦らしが絶妙なんですよね。主人公と詠歌は互いを求めて止まないのに、互いに愛し合う事が『禁忌』であることを強く自覚しているからこそ我慢する。自慰行為や遠回しな行為で間に合わせる。そんな中、終盤ではついに欲望が決壊するかの如く互いを求めあう。熱く『禁忌』を犯し合う。これには私もニッコリですよ。シチュエーションや空気感、事への運び方に至るまで性癖にマッチしているワケですから。
 ついでに言えば、詠歌は貧乳で可愛いタイプですし、外見的にも私の好みにマッチしています。『姉』ではなく『妹』という点や、デフォルトでド淫乱という点も私の性癖に適合するんです。何から何まで私のストライクゾーンだったワケですね。
 これにはもう、お手上げです。共通パートでの嫌悪感なんざただのハリボテ。主人公へのキツい当たりも葛藤やらなんやらによるものでしたし、理不尽なことをしたことに対する罪悪感も持っていましたしで、着々と嫌悪感は浄化されました。
 さすがにただの生理現象を指してキツく変態認定してきたことについては最後まで引っかかる要素ではありましたが、そもそも詠歌自身がド淫乱だったので、最終的にはこの要素もむしろ微笑ましいと思えるようになりました。
 まぁ色々と書き散らしましたが、要は『柳瀬詠歌というヒロインの存在自体(主人公との関係性等設定含む)が私特攻の”魔性”だった』ということですね。

 思い当たる節の二点目としては、本ルートにおいて柳瀬詠歌の主観パートが多分に含まれていた点が挙げられます。
 普段エロゲをする中では、基本的にヒロインの可愛さやエロさを見るには『主人公の主観』というフィルターを介するしかありません。要は、主人公が知覚している範囲でしかヒロインの可愛さやエロさを見ることが出来ないワケですね。
 しかし本ルートでは、非常に多くのパートがヒロインである詠歌の主観であった。その上で、様々な葛藤の中、ド淫乱な行為に及ぶ姿が描写されていたワケです。これってつまりは『主人公の主観』を介さずダイレクトにヒロインの可愛さを享受出来ているってことなんですよね。
 どうしても『主人公の主観』上だけだと、ヒロインの可愛さを享受するには限度があるワケです。その点、本ルートではその制限が取っ払われている。だからこそ、普段は『ヒロインの可愛さ・エロさ』に対して強く頓着しない私が、本ルートでは深く没入して”楽しむ”ことが出来たのだろうな、と。
 ……え? 他のエロゲでだって、ヒロインの主観パートは存在する? ……うるへー!! ボリュームと密度が違ったんじゃい!(おそらく結局は性癖や好みの適合具合も強く関係するので、ヒロインの主観効果に関しては一概に立証出来ないものと思われます)

 まぁ何はともあれ、不安要素の一つだった詠歌√を満足出来る形で完走出来て安心しております。残すは最初から好感度の高いヒロイン二人の√ですし、このまま楽しんで本作を完走したいですね。

鬼ヶ瀬 胤√

●シナリオについて
 良くも悪くも、極めてオーソドックスなエロゲ・ギャルゲ的シナリオでした。
 ただひたすらに胤が可愛かったけど、展開的に起伏があるワケでは無し。不穏になったと思ったら、次の瞬間には解決している系です。
 また、特に突出した要素も無しって感じですね。これまで涼√➡詠歌√と何かしらルートに対して特別な要素を感じられる流れで来ていたので、その点は少々残念。
 ただ、オーソドックスなエロゲ・ギャルゲとして最低限無ければならないであろう要素はしっかりと踏襲されていました。ヒロインから主人公に対する恋愛感情のきっかけや、付き合うまでのこそばゆいイベント、そして恋愛関係における葛藤、等々……。このあたりがそれなりにちゃんと描写されていたので、大きく不満が残るといったことも無かったんですね。
 主人公に関しても、過去編・現代共にちゃんと『主人公』としての役割を務めていたと言えます。ちゃんとかっこよかったですよ。まぁ、既に最強という立ち位置が確定している都合上、正体さえ明かせば最初から敵に頭を下げられるような状況だったのは残念ですが。

 ちなみに、「咲っていろ」と書いて「わらっていろ」と読ませるセンスは個人的に好きです。

養老 紡√

●シナリオについて
 総てのルートの中で、最も無味無臭なルートだったと言っても過言では無いやもしれません。
 突出した悪点はありませんでしたし、逆に突出した良点もありませんでした。こう言ってしまうと胤√と似た印象を受けてしまいますが、本ルートでは胤√にあったような『溢れんばかりのヒロインの可愛さ』という要素もあまり強くありません。要は、本当にただただ要点だけ押さえたルートだったという感じです。

 シナリオ構成からしても、”無駄に”と言っても過言では無いほどに過去回想だらけの構成となっていたため、物語の流れにノり切ることが出来ませんでしたし。
 主人公と紡の会話劇に関しても、個別ルートに入るまでは楽しんで読めていたのですが、本ルートに入った途端になぜか味のしない会話劇となってしまいましたしね。いやホント、本ルートに入るまではさながら『暁の護衛』の朝霧海斗とツキによる会話劇を彷彿とさせるモノだったんですよ? だからこそ期待して紡√を最後に持ってきたまであるのに……。どうして……。

 ただまぁ、エピローグは良かったんですよねぇ……。
 個人的には、エピローグで主人公とヒロインの子供が出てくる展開がとても好きなのですが、本ルートはまさしくソレでしたし。
 加えて、主人公が紡との子供を肩車していたのも良いと思えた理由です。紡は、早くに両親を亡くした影響で肩車をしてもらった経験が無いのだと語っていましたから。二人の子供が肩車をしてもらっている状況は、そんな不幸だった紡の境遇との対比になっているのだと考えられるワケです。
 こういうあたり、細々とした部分で作中における過去要素を回収していたのが見受けられた本ルートの集大成とも言えるでしょう。

総評


●シナリオについて
 <所感>でも述べましたが、何とも評価が難しい作品です。
 個人的な話をすればプレイして良かった作品なのは確かですが、「じゃあ良作か?」と問われればなかなか首を縦に振ることが出来ません。

 本作の良かった点としては、『ヒロインの可愛さを引き出し尽くした点』が挙げられるでしょう。
 エロゲをプレイしていると偶に遭遇する現象として、『第一印象で可愛いと思えなかったヒロインを可愛いと思えている現象』があります。覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか? 本作は正にこの現象が如実に体現された作品でした。なにせ、初見で可愛いと思えるヒロインが一人もいませんでしたからね。それが、最終的には涼以外の全員を可愛いと思えるようになったワケですよ。これは凄い。
 それに加えて、本作ではその発揮された可愛さが一部『楽しさ』に繋がっていました。柳瀬詠歌√の<感想>パートで熱く語った”ソレ”ですね。いや、これはあくまでも個人的な話でしょうし、何なら特別取り上げる程珍しいことでも無いのかもしれませんが(けっこうそういう楽しみ方をしているユーザーは見受けられるので)。ただ、個人的には初めての経験だったので、とても感銘を受けました。これが、本作をプレイして良かったと思える最大の理由ですね。

 本作の悪かった点としては、全パート通して『日常会話がワンパターン且つ腹立たしい点』が挙げられるでしょう。これがあまりにもマイナス要素として大きすぎました。
 というのも本作、主人公とヒロインズが集結して会話を繰り広げる場面が全体を通して多いのですが、その内容が大抵『主人公を理不尽にイジる』というモノなんですよね。しかも毎度の如くイジり方が『ゴキブリ弄り』か『変態弄り』かの2パターン。前者は単純に面白くない上に不快ですし、後者に至っては『男として当然の生理現象』をネタにこっぴどく変態扱いされている惨状。主人公があまりにも聖人だからこそ成り立っているようなモノですが、普通ならブチギレてもおかしくない程に理不尽です。その光景を眺めているだけの私ですら始終イライラしていましたからね。
 身内ネタと言えば聞こえは良いですが、ユーザーそっちのけのただただ気分の悪い身内ネタは悪手かと……。
 ちなみにこのネタを率先して行うのが涼と詠歌だったため、個別ルートをプレイするまでは二人のことが嫌いだったワケです。逆に、胤は故意に主人公をイジるようなことはしませんでしたし、紡は引き際を弁えていたため、その二人には序盤から好感を持っていました。

 まぁ総じて、突出した良点は無いのに対してマイナス要素がデカすぎたからこそこのような評価に落ち着いたって感じです。

 ちなみに以下は、個別ルートを一つもプレイしていない時点で怒りに身を任せて書いたメモです。後半に関しては完走した時点で既に少々考えを改めていますが、消すのも勿体ないので原文ママで置いておきますね。おまけってヤツです。

『主人公が弄られる作品』や『特定キャラに嫌悪感を抱く作品』で良作であると認められる作品もそれなりに存在するが、それら作品に共通しているのは、”そう在ること”が納得出来るという点。『アぺイリアの主人公』や『ぬきたしの主人公』は作中でも変態の代名詞だが、それは彼らが変態と呼ばれるに足る所業をしているから納得出来た。『ホワルバ2の大半のキャラ』や『サクラノ詩・刻の長山や麗華』には強い嫌悪感を抱いたが、それらも物語において必要な行動がトリガーであったり、”自分”を貫き通すが故に敵を作ってしまう性格が理由であったりしたため、同時に好感も抱いた上で納得出来た。しかし本作には、例に挙げた作品のような『納得出来る要素』が無い。主人公は”当然”の生理現象をネタにヒロイン達から『変態』としつこく弄られるし、涼や詠歌に対する嫌悪感の理由である『理不尽さ』は本作において必須と言える要素ではない。全く納得出来ないし、だからこそ嫌悪感しか残らない。


●キャラクターについて
 『柳瀬 重耳』について。主人公。初代鬼ヶ瀬。最強でありながら優しいハンサム。
 基本的に共通パートでも個別ルートでも主人公の役割をきっちり果たしていたので好感を持てました。胤√で過去鬼ヶ瀬だった片鱗を魅せるシーンがお気に入りです。
 藤倉作品の主人公の中でも最も好きと言えます。しゅぷれ主人公やH2O主人公の良い部分だけ抽出してチューニングしたような主人公でしたからね。
 そういえば、本作ほどに高頻度で立ち絵が表示される主人公もエロゲではなかなか珍しいですよね。
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 『養老 紡』について。校務員。主人公専属メイド。天涯孤独の身。
 序盤から最も好きだったヒロインです。彼女と主人公との会話劇は、さながら『暁の護衛』の朝霧海斗とツキの会話のようでしたからね。他ヒロインと比較しても主人公を弄る際の引き際を弁えていた点が好感の最大の理由です。
 ルートエピローグでは心が温まりました。幸せになって欲しいです。
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 『鬼ヶ瀬 胤』について。二代目鬼ヶ瀬。『衝撃』の使い手。お嬢様。
 始終安定して可愛いヒロインでした。
 『衝撃』という謎設定も、シリアス・コミカルどちらでもそれなりにちゃんと使われていて良かったです。
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 『柳瀬 詠歌』について。主人公の妹。実妹と従姉妹(義妹)の両属性を持つハイブリッド。スーパーお兄ちゃん大好きド変態。
 序盤は嫌いだったのに個別ルートを完走する頃には好きになっていましたね。あまりにも魔性の女でした。
 兄成分の欠乏で色素が抜ける設定には思わず笑いましたね。
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 『湯川 涼』について。完璧超人的立ち位置。巫女。従姉妹。ドSでありドM。
 唯一「好き」と言えるまでに好感度が向上しなかったヒロインです。まぁ、うん……しょうがない……。
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 『恋桜 可憐』について。ろり先生。
 準レギュラーでしたね。普通に好きです。個別ルートをよこせ。
 結局、紡との関係は明かされませんでしたが、あの馴染みようからして昔からの友達だったりするんでしょうかね。
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おわりに


 『いきなりあなたに恋してる』感想、いかかだったでしょうか。

 上述はしませんでしたが、本作はさりげなく『しゅぷれ~むキャンディ』と全く同じ舞台でした。その点はブランドファンとして嬉しかったですね。
 あ、実は私、本作にてPCノベルゲ媒体のケロQ/枕/すかぢ作品を全タイトルクリアしたことになります。これでやっと胸を張ってファンを名乗れる……。

 次にプレイする作品は、『アインシュタインより愛を込めてAPOLLOCRISIS』を予定しております。

 それでは✋