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『こなたよりかなたまで』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

こなたよりかなたまで
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 老舗ブランド『F&C』から2003年に発売された作品ですね。『冬ゲー』の一角としても名高い名作でしょう。
 数年前に購入してそのまま積んでいたのですが、今年は12月に入ったらプレイしようと決めていました。未だに名作として名が上がる本作、期待せずにはいられません。季節感も味わいつつ、読み耽ろうと思います。
 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 あまり大きくない地方都市。そこにある一軒家に1人で住んでいる遥彼方。
 両親は他界し天涯孤独の身だったが、そのことにめげる事無く丘の上の小さな学園に通いながら友達に囲まれ楽しく過ごしていた。

 ある時、彼方の身の上に思ってもみない事実が圧し掛かる。 驚愕し混乱するものの、何とか心の平静を取り戻した彼方は1つの決断を下す。可能な限りこの現実を守ろう、と。

 朝、彼方が目を覚ますと、なぜか目の前に青い顔をして倒れている金髪の少女が居た。とりあえず看病を始める彼方。 やがて目を醒ました少女クリスはとんでもない事を口走る。自分は吸血鬼なのだ、と。 普通ならそんな話、一笑に付す所だったが、彼方は違った。何故かそれを信じ、受け入れてしまう。

 それ以来、彼女と過ごすことになった彼方。成り行きで始まったとはいえ、彼女との生活の中で、今の自分がやろうとしている事について考えさせられていく。

 今をどう生きるのか、そして何を成し遂げるのか?

 本来起こらないはずの出逢い、そして共有される時。
 相反する性質を抱えた2人が、ほんの一時寄り添って歩む。
 これはそんなささやかな物語。

 引用元

所感


 ダイレクトな面白さを感じられるタイプの作品ではありませんでしたが、心に染み入る心地の良い作品ではありました。
 文章の上手さもさることながら、没入することが出来ました。
 展開もあまり類を見ないものでしたし、その点も飽きなかったポイントでしょうね。
 けっこう考えさせられる『死生観』をメインテーマとして取り扱っているので、そういう系統の物語が好きな方には強くオススメします。

~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 クリス√(Normal end) ➡ 二十重√ ➡ いずみ&優√ ➡ 佳苗√ ➡ クリス√(True end)
 

共通パート

●シナリオについて
 色々と共通パートから驚かされました。というのも、私が想像していた『こなたよりかなたまで』の物語と実際の物語ではタイプが全く異なっていたワケですよ。私の想像上での『こなたよりかなたまで』は、ゆったりとしつつも染み入るような雰囲気で魅せる学園恋愛モノでした。しかし蓋を開けてみれば、実際のこなかなは、死を目の前にしたキャラクターを主人公に添えることで『死生観』に焦点を当てた物語だったんですね。オカルト要素も想像以上に強く、その点でも驚かされました。
 物語序盤でいきなり抗がん剤治療に苦しむ主人公をまざまざと見せつけてくるワケですから、こりゃもう姿勢を正してドシリアスに備えなければな、と。
 ……いや、むしろ大歓迎なんですけどね。文章も心に染み入るような表現で構成されていますし、これは今後の展開に期待出来そうです。

クリステル=V=マリー√(Normal end)

●シナリオについて
 圧巻です。
 まさか、1周目強制のNormal√でここまで魅せてくれるとは思いませんでした。並の作品のグランド√に匹敵するレベルのシナリオだと感じましたね。

 主人公とクリスのキャラ造形と関係性が非常に深い。正直、本ルートプレイ後の段階では自分の中でも掘り下げきれているとは言えません。
 彼らの内面は何層にもなっています。本ルートは、そんな彼らが最終的には自身の最も深い場所にいる『本当の自分』を曝け出し、そして『在りたい自分』を貫こうとする物語でした。
 最初に感嘆したのは、やはり主人公とクリスの利害関係のようなものが成立した時でしょうか。片や主人公は、あと3ヵ月も生きられるか分からない身。片やクリスは、人間の何倍もの時間を生きる吸血鬼。要は、クリスにとっての主人公は、クリスの存命中に必ず寿命を全うするという意味で他の人間と変わらないワケです。だからこそ主人公は、他の”もしかしたら最期まで一緒に生きられたかもしれない人間”との関係を清算する上で、唯一クリスを頼ることが出来るワケですね。じゃあクリスの方はというと、クリスにとっての主人公は、これまで自分が幾度となくしてきたことを実行しようとしている存在です(この後に語る交友関係の清算ですね)。だからこそ、クリスと主人公はこの点で互いの苦しみを理解し合えるワケです。以上を以て成立した、一蓮托生の関係。一種の依存関係とも言えるでしょうか。言わば傷の舐め合いです。しかし、そういう歪な関係性が、私は好きなのです。

 主人公とクリスが本ルートで主に行ったことと言えば、主人公の交友関係の清算です。焦点が当たるのは佳苗ですね。彼女が自身に想いを寄せていることを主人公は知っているからこそ、彼女の悲しみを軽減するために突き放そうとする。彼女に自身を諦めさせようとする。そのために、クリスに彼女のフリをしてもらう。……良いですね。他では類を見ないシナリオです。悲しくはありますが、主人公────というよりも、『遥 彼方』というキャラクターとしての役割をしっかりと果たしているようで、主人公には好感が持てました。ただまぁ、最終的には本来佳苗のいるハズだった立ち位置にクリスが立っているような状況になっており、若干本末転倒感は否めませんでした。もしかしたらその可能性も見越して、主人公はクリスに「酷いことをしている」と言っていたのかもしれませんね。

 終盤の展開も圧倒されました。クリスの眷属となることで寿命を延ばす選択肢が与えられても、主人公はその選択を跳ね除けます。『在りたい自分(居場所と思い出を捨てない自分)』を貫くために、『本当の自分(もっと生きたいと弱音を吐く自分)』を抑え込んだワケです。吸血鬼の眷属ともなれば、魔獣という追っ手のことも考えると、今の居場所を捨てなければなりませんからね。『命と未来』を取るか、『居場所と今』を取るか。主人公に与えられていたのはこんな選択肢だったんです。以下のセリフは、これに対する主人公の結論になります。

「未来の全てと引き換えに、今と思い出と君達を選ぶ」

 このセリフを読んだ時、ブワッと感情が昂るのが分かりました。主人公の『本当の自分』や、クリスの願いを知っているから尚更です。『在りたい自分』を貫く主人公はカッコいい……。また、これに感化されてかクリスも『本来の自分』ではなく『在りたい自分』を貫きます。主人公だけでなくヒロインも同様に魅せてくれたからこそ、さらに感動出来たのでしょうね。

 以下の画像は、本作プロローグと本ルート終盤で登場した文章です。『在りたい自分』と『本来の自分』について書かれています。おそらくは本作のメインテーマであり、且つ本ルートでも体現された死生観であったと考えられます。これに尽きるので、添付しておきますね。

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九重 二十重√

●シナリオについて
 1周目のクリスNormal√ほどではありませんでしたが、こちらもほどほどに面白かったです。
 おそらく本ルートは、『在りたい自分』を二十重に見つけさせる物語だったのだろうなと感じました。より具体的に言えば、主人公が二十重の『本当の自分』を見出し、その雁字搦めの心を紐解くことで、「こう在っていいんだよ」と二十重に伝える物語って感じですね。
 彼女の本質は『嫌悪や恐怖を与えてもらわなければ自分の行いを肯定出来ない。しかし本当に嫌われたいワケでもない』という難儀なモノでしたが、主人公は見事に彼女に『在りたい自分』を与え、拠り所になってくれました。さすが主人公。行為シーン名が『救済』なのも印象的ですね。

 また、二十重はギャップのあるヒロインでしたが、本ルートはそのギャップを活かしたシナリオとなっていました。彼女の内面を少しずつ紐解いていく過程は丁寧だったと感じています。

 それはそうと、本ルートを〆る主人公と二十重のやり取りが詩的で印象的でした。クライマックスに相応しいやり取りだったと思います。せっかくなので添付。

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 世界をダンスパーティ、各人の人生をダンスに例えているワケですね。
 あぁ~~~~文章が心に染み入る~~~~。

 ただ、件の組織に入っている理由やきっかけ等、二十重の詳細的な背景は語られないので、その点は残念でした。語られていればもっと感情移入出来たかもしれませんね。

鹿島 いずみ&朝倉 優√

●シナリオについて
 気付けば没入して読んでいました。良かったです。
 ほぼ完全に過去編であって、恋愛劇というよりは前日譚的な救済劇でしたね。恋愛感情はたしかに介在しているのだけれども、あえて彼女たちと恋仲になる未来は描かないというのは、エロゲ/ギャルゲにおいてはなかなかに大胆なシナリオだなぁと感じました。

 本ルートでは一気に二人のヒロインに触れられました。一方がナースのいずみ。もう一方ががん患者の優です。一つ一つのルートシナリオが短い本作ですが、本ルートではそのどちらに関するエピソードもしっかりと描かれていたので満足です。
 特に、優に関するエピソードは良かったですね。最初こそ「自分より先に亡くなる人だから、自分が死んでも悲しませなくて済む」という理由で主人公に心を開いた優ですが、そこから主人公と仲良くなる中で主人公という存在が自分の中で大きくなり、最後には主人公の死により自分が感じる悲しみを自覚して想いを爆発させる……。その過程となる彼女の胸中と、それを表現するかのような彼女の行動は、可愛らしくも儚げに映りました。
 また、優に関しては、主人公との対比も印象的です。主人公が優を救い、優もまた主人公を救っていたという相互関係ですね。主人公が最初に在ろうとした孤独な存在(誰も悲しませない存在)。それを体現していたのが出会った当初の優。主人公は、自分が成ろうとしている存在を客観視出来たからこそ思い直すことが出来た。そして、だからこそ主人公は、そんな存在になってはいけないことを優にも伝えられる。他の誰が言っても所詮は他人事にしかならないけれども、主人公は実際に同じ境遇で同じことをしようとしていたから説得力を以て彼女の心に訴えかけることが出来る。美しく整った相互関係です。最後に優を説得するシチュエーションも完璧でしたからね。主人公が優を見て孤独な存在を客観視出来た(孤独な人間に対する他者の気持ちを理解出来た)ように、優にも孤独になろうとする主人公を見せることで、孤独な存在を客観視させる……。いやぁ、上手く練られたシナリオだと思います。
 いずみちゃんに関しては、優ほど焦点が当たったワケではありませんが、それはそれとして充分に彼女の魅力が伝わるエピソードとなっていました。まぁ、明かされた彼女の『本当の自分』に関しては、共通パートの際から読み取れていたことではありましたがね。主人公を忘れず祈り続ける存在として彼女がいるからこそ、主人公は佳苗を突き放す決意を固めることが出来たのでしょうか……?

佐倉 佳苗√

●シナリオについて
 面白かったです。
 本ルートは、主人公の選択に関して、クリス√で焦点が当てられなかった要素に焦点を当てたシナリオとなっていました。クリスNormal√で描かれていたのはあくまでも主人公が『在りたい自分』を貫くことによるカッコいい一面でしたが、本ルートでは主人公が『在りたい自分』を貫く上での醜い一面がハッキリと描かれていたという感じですね。この点、本ルートは『クリスNormal√の裏面』という表現がしっくりと当てはまると考えられます。
 しかし、描かれたのが『醜い一面』だからと言って、主人公の魅力が下がるワケではありませんでした。というよりもむしろ、より魅力は上がりました。人間味が増したからであると考えられます。

 本ルートの展開は、特に見所が多かったように感じます。
 壊れていく佳苗の描写と罪悪感に苛まれる主人公の描写は1度や2度ではありませんでした。その度に主人公は葛藤しつつも、佳苗を悲しませないという目的のためだけに自分を貫きます。そういうシーンは本当に心を打つ。キャラクターの心理描写が躍動するように描写されていますからね。中でも、病院の前で佳苗の三つ編みを主人公が解くシーンは特に印象に残っています。三つ編みは2人にとっての特別であって、それを解くことは2人の関係性を断ち切ることを比喩しています。つまりこのシーンは、佳苗を自分の死で悲しませない為であれば、主人公はそれほどの覚悟を示せるのだということを証明するシーンでもあるワケですね。鳥肌モノです。また、最後のダンスパーティーで主人公が折れずに佳苗を突き放すシーンも印象に残っています。正直あのシーンでは、主人公は折れるものと思っていました。クリスが遺した「逃げるな」という言葉は、きっとそのような選択へ主人公を進ませるのだろうと。しかし主人公は、折れなかった。逃げずに、完全な拒絶というカタチで決着を付けようとした。佳苗を愛すればこそ、ですよね。主人公の意地の強さには脱帽です。
 しかし、その意地も最後には氷解します。ただそれはなにも主人公が折れたワケではなく、むしろ自身を貫いて終着点へと至った結果、とあることに気付いてしまったからなんですね。この時に気付いたことこそが、『在りたい自分』をはき違えていたという事実です。「佳苗を自分の死で悲しませたくない」という主人公の意志は本物でした。でも主人公は、自身の人生の最期に『別れの準備』をして過ごしたかったワケではない。そんなものは、主人公が全うしたかった人生ではない。主人公は、ただ今までの自分の行いを否定したくなかったから、意地を張っていただけだったのです。以下が実際の独白です。
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 実は主人公、クリスNormal√でも最終的に本当の『在りたい自分』に至っているんですよね。正直な話、クリスNormal√完走時にも、たしかに主人公のやっていた『別れの準備』とクリスNormal√終盤の選択における根拠(居場所を捨てられない云々)には若干矛盾が生じるなとは思っていました。本ルートではそこに対するアンサーを示してくれたので良かったです。
 さて、全てを失った主人公でしたが、ここでクリスが別れ際に遺したセリフが活きてきます。「やり直しは効く」というセリフです。これまでの人生の中で、何度も取り返しのつかない選択をしてきた彼女だからこそ説得力を持てる言葉。これがトリガーとなって佳苗を受け入れる展開は、納得せざるを得ませんでした。ホント、クリスはどのルートでもキーパーソンですよね。

 ここまでは特に主人公の『醜い一面』については語りませんでした。強いて語ったと言えば、『在りたい自分』をはき違えていたことくらいでしょうか。ともあれ、肝心なことについては語っていないので、ここからは本ルートで示された主人公の『醜い一面』について語っていこうと思います。
 とは言え、以下のシーンから大体は読み取れるんですよね。
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 主人公は実は、様々なキャラクターを目的のために"利用"しています(協力してもらっているという表現では生ぬるい)。それも、酷い役割を押し付けることが大半です。特に負担が大きかったのは、クリスと耕介でしょう。クリスには佳苗を諦めさせるためのデコイをやらせ、耕介には佳苗との板挟みになってもらっている。そうすることで、自分でハッキリと決着を付けなくても良いような土壌を生成している。こういう点では『卑怯』とも言えてしまうのかもしれません。加えて他のキャラクターで言えば、いずみちゃんにも『主人公の死後、主人公を忘れない存在』という役割を押し付けています。佳苗を悲しませたくないあまり、いずみちゃんにそういう重い役割をも背負わせてしまっているんですね。総じて、『佳苗を悲しませない』という目的のためであれば、主人公はけっこう『冷酷』なんですよ。酷いヤツなんです。これが『醜い一面』ですね。
 でもこれ、根底にあるのは佳苗に対する底知れぬ優しさなんですよね。だからこそ嫌いになれないんですよこの主人公。人間味が増して魅力が上がったというのは、つまりはそういうことなんです(クリスとの関係性も、クリスNormal√感想で記述したように好きなままです)。

クリステル=V=マリー√(True end)

●シナリオについて
 展開はほぼクリスNormal√と同じであり、異なったのはあくまでも終盤展開のみだったため、基本的には上述しているクリスNormal√感想と同じ感想です。
 追記するとすれば、『在りたい自分』をはき違えていたことに気付いた件についてこちらのルートでは明言したことについてでしょうかね。佳苗√感想でも記述しましたが、主人公はクリスNormal√でも自身が『在りたい自分』をはき違えていたことに気付き、本当の『在りたい自分』を自覚するに至っていました。しかし、そのことを掘り下げた言及は、クリスNormal√の時点ではされていなかったワケです。それが本ルートではしっかりと言及されました。以下がその内容です。

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 True√で示してくれたことによって、スッキリはしましたね。

 本ルート最後の主人公の選択は、何とも本作を〆る上で相応しい選択であったと思いました。
 クリスNormal√ではどちらかしか選べなかった選択肢。『命と未来』か『居場所と今』か。本ルートでの主人公は、その全てを選択します。クリスの眷属となった上で、居場所も守るのだと。
 強欲ですが、それで良いのです。これが、”こころと折り合いを付けた結果”ですから。『在りたい自分』と『本来の自分』の折り合いを付けたことで至った結論なのですから。その末こそが────────

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総評


●シナリオについて
 心に染み入るようで、ひたすらに没入出来る作品でした。
 全体的に上手く纏まっているとも感じましたね。テーマは最初から明示されつつも全体を通して一貫しており、且つそれを『主人公の物語』として昇華している。その点では素晴らしい作品であると思います。
 というか、全体を通して一貫しすぎていて、逆にここで語ることがありません……。各ルート感想の方でほぼ語りきってしまっています……。明示的にルート間で相互作用していたのも要因の一つでしょうね。なので、詳しくは各ルート感想の方を読んでください。

●キャラクターについて
■『遥 彼方』について。主人公。末期ガン患者。
 申し分の無い『主人公』でした。本作は紛れもなく彼の物語であり、彼が主人公だからこそ成立した物語でもありました。
 彼の生き様はカッコ良さと共に醜さも兼ね備えていて、何とも人間臭い。だからこそ味がある。素晴らしい主人公であったと思います。

■『クリステル=V=マリー』について。ヒロイン。孤独な吸血鬼。
 メインヒロインに相応しい貫禄でした。その貫禄はクリス√以外のルートでも遺憾なく発揮されていましたね。主人公との対比や関係性もクセがあって、非常にヒロインとして強かったですね。
 深みのある魅力的なヒロインでした。

■『佐倉 佳苗』について。ヒロイン。主人公の幼馴染。
 主人公が最も大切にしていた存在であることが作品全体から伝わってきます。めちゃくちゃ可哀想だけれども、私のようなプレイヤーは主人公視点から「そうしなければならない」ということを分かって見ているので、何ともやるせなかったですね。憎むべきは病気……。
 壊れかけてはしまいましたが、とても強い精神力を持ったヒロインであることも彼女のルートからは伝わってきました。クリスに負けないくらいに魅力的なヒロインであったと言えるでしょう。

■『九重 二十重』について。ヒロイン。魔獣狩り
 本作で最もギャップを感じられたヒロインでしょう。『淡々と魔獣を狩るクール系ヒロイン』だと思っていたら、『普通の生活を望む無口なだけのヒロイン』だったという。そしてその裏には、『誰かに恐れられなければ自身を許せない』という難儀な呪いを自身に課していたワケで、尚更に驚きましたね。
 主人公の後押しを受けた彼女には、幸せになって欲しいです。

■『朝倉 優』について。ヒロイン。ガン患者。
 過去、主人公に救われた存在です。主人公との相互関係は見ていて美しかったですね。
 ただ、儚いもので、おそらくクリスTrue√でもこの娘は救われないんですよね。主人公はクリスの眷属となることで命も居場所も守りましたが、ガンで死に逝く優はどうにもなりません。眷属になれるのは、吸血鬼一人につき一人だけですからね。それだけが心残りです。

■『鹿島 いずみ』について。ヒロイン。看護師。
 天真爛漫でありながらそれは患者を元気づけるための表面。裏には感傷深い一面も持っており、患者が亡くなる度に時間を忘れて礼拝堂で祈っている、と……。彼女も魅力的なヒロインでした。
 ただ、それだけにクリスTrue√以外では最も主人公から重い呪いを背負わされたヒロインであるとも言えます。『主人公の死後、主人公を忘れないでいる』という呪いですからね……。

■『島田 耕介』について。親友枠。主人公の幼馴染。
 本作最高峰の苦労人です。それをやり遂げただけに、本当に良いヤツなんですよね……。
 いつも主人公に寄り添い、理解を示し、時には喝を入れる。最高の親友です。
 佳苗とは結ばれないまでも、幸せを掴み取って欲しいと切に願います。

●テーマ・メッセージについて
在りたいようにある、ということはとても難しい
 本作において、太く一貫していたテーマでしょう。ジャンルは『死生観』です。
 まぁ、大体のことは上述の感想の中で語ってしまっているのですが……。
 要は、『在りたい自分』を貫いて生きるのは様々な要因が絡むから難しいし、そもそも『在りたい自分』というもの自体をはき違えている可能性もあるから厄介だと言うことです。そんな中で私たちは、『本当の自分』と『在りたい自分』の折り合いを付け、幸福な人生を過ごしていかなければならないのです。
 クリスNormal√の感想パートでも添付しましたが、本テーマの原文をここにも載せておきますね。本作はまさしく、本テーマを充分に体現した作品でした。

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おわりに


 『こなたよりかなたまで』感想、いかかだったでしょうか。

 健速先生の作品をプレイするのは初めてでしたが、早くも健速先生の文章に魅入られてしまいました。これは近々『そして明日の世界より────』もプレイしなければなりませんね……。

 次にプレイする作品は、SWAN SONGG線上の魔王』を予定しております。

 それでは✋