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ノベルゲーム感想と思考出力

『グリザイア:ファントムトリガー』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『グリザイア:ファントムトリガー』


 果実・迷宮・楽園の三部作で、エロゲ媒体に留まらずアニメ媒体でまで成功を収めた『グリザイア』シリーズ。本作はその後継作となります。2017年に発売されたVol.1から分割で売られ始めた本作は、ついに先日(2022年3月)発売されたVol.8で完結したとのこと。改めて振り返ると、ファントムトリガーだけでも5年続いたんですね……。果実から考えると、10年クラスのシリーズです。よく続いたなぁ……。
 グリザイアシリーズに関して、私はこれまで楽園まではプレイしていたものの、本作には手を出しておりませんでした。というのも、正直グリザイアシリーズは風見雄二という主人公ありきという考えを持っていたので、なかなか食指が動かなかった次第です。ただそんな矢先、半年ほど前にDLsiteでFrontWing作品がそれなりにお得にセールされているのが目に入りました。それがきっかけで、やっとこさ本作に手を伸ばすに至ったというワケです。
 はてさて、果実・迷宮・楽園から主人公や登場キャラクターが一新された本作は、いったいどのような物語を魅せてくれるのでしょうか?

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 日米合同対テロ組織「防衛省中央調査部諜報第2課分室」通称CIRS、海上油田爆発事故が引き金となりその存在は公のものとなった。
 秘匿組織としてのCIRSは刷新されて以降、極秘活動を引き継ぐ形で新組織SORDが発足された。
 将来的に国防を担う人材の育成を目的として設立されたSORDは、全国各地の学園組織に間借りする形で展開していった。
 廃校後、施設の解体費用もままならぬまま放置されていた『美浜学園』は個人に買い取られ、新たに「特殊技能訓練校」としての役目を得た。
 そんな学園で、様々な理由で行き場を失くした少女達に与えられたのは銃と実弾。
 国防の名目のもとに、彼女達は命すらも顧みられることのない危険な超法規的活動を繰り返す。

 「────私達は、この世界に生かしてもらっているんですよ…。
  でも、生かしてもらっているだけではダメなんです、
  それじゃあ生きている意味がない。
  だから、生かされるだけではなく、自分の力で生きるんです、
  戦い抜けて、生き残るんです。
  そして生き残った子だけが、生きることを許されるんです────」

 どうせ磨り潰される命なら、銃を手にして戦うことを選んだ少女達の未来は…?

 引用元

所感


 とても面白かったです。
 分割だからこそメリハリがついているといいますか……各Volの纏まりが良いからこそ最後まで面白くプレイすることが出来ました。
 また、展開的にも、期待以上のものを魅せてくれたシーンも多々あったため、その点でも満足度の高い作品となっておりました。

 グリザイアの果実~楽園とはまたテーマ的な部分でも違っておりますが、『グリザイア』というシリーズタイトルを引き継ぐ意味は確実にあった作品と言えます。そのため、楽園まではプレイしたけどファントムトリガーは未プレイという方にはぜひプレイしてみて欲しいですね。
 また、本作には銃器やバイクに関する専門知識が大量に登場します。そういったジャンルを好む方とは相性の良い作品かと思いますので、少しでも興味を持たれましたら是非。

~以下ネタバレ有~











各パート感想


Vol.1

●シナリオについて
 プロローグとしては比較的よく出来ていて面白かったです。

 新任教師であり学園についてほぼ何も知らないキャラクター(有坂秋桜里)を主観者とすることで、自然に『世界観・設定の説明』や『キャラクターの紹介』を成し遂げていたと思います。
 役割的な観点で見た本パートは上述の通りですが、展開的にも本パートのみで、『有坂秋桜里が美浜学園で働くにあたって名実共にスタートラインに立つまでを描いた物語』として纏まっていましたね。分割だからと投げやりにならず、単品としても纏めている点はとても良いと感じました。

 個人的に本パートで印象に残ったのは、一般人と学園関係者の間における価値観・感性のズレに関する描写に力が入っていた点です。本パートでは一般人代表のようなキャラクターが主観者だったという話は上述しましたが、その実ものの見事に学園では主観者の価値観が通用しないワケです。しかし、それらズレがただ意味も無く描写されているだけかと言えばそうではなく、それらズレは明確に各キャラクターの背景に紐づいていることが窺えます。本パートで全てが明かされるワケではないにしろ、各キャラクターに『強い意志』や『明確な死生観』が宿っていることはありありと感じられたワケですね。それはつまり、本作において『ズレの描写に力が入っていた』ということは、それだけ『キャラクターの魅力を活かすことに力が入っていた』ということになるんです。だからこそ、本パートでは導入であるにも関わらず、各キャラクターに魅力を感じることが出来たワケです。掴みでキャラクターの魅力を引き出すことは非常に難しいワケですが、本作ではそれが上手く実現されていたあたり、導入としてのクオリティは高かったものと言えるでしょう。
 今後はきっと、様々なキャラクターの背景に焦点が当たっていくことでしょう。先が楽しみですね。

Vol.2

●シナリオについて
 面白かったです。京船桜が丘組、大好き……!

 本パートは、『深見 玲奈』に焦点を当てたシナリオとなっていました。深見玲奈の人となりや価値観に関しては、他のキャラクターよりも気持ち多めにVol.1で明かされていたワケですが、本パートではそれがより明確に語られたカタチですね。生き別れとなった妹分(井ノ原真紀)との対比関係を用いて、『大切な物を作り、それを愚直に守ろうとすることで生まれる”強さ”』を上手く描写していたように感じます。また、妹分をただの対比要員として使い捨てず、引き上げる形で彼女にも先を示した点も良かったと思います。

 個人的には、本パートはVol.1よりもドンパチ展開が多くて盛り上がりましたね。特に、玲奈と真紀による近距離銃弾戦からの殴り合いはとても熱かったです。やはり少年心を燃え上がらせるのは留まることを知らないドンパチ展開ですよ。
 ただ、展開的には若干不満点もあります。どこに不満を感じたかというと、春人があっさりと警察に心臓を渡してしまった展開ですね。あれほど物語中でも「怪しい」と言われていたのに、軽率が過ぎます。何かしらの意図があったようにも見えましたが、結局のところあの判断がゆくゆくは玲奈の大怪我に繋がったワケですから、いくら玲奈が命令違反をしたのだとしても責めることは出来ないでしょう。まぁ実際、責めてはいなかったものの、怪我をしたことに関しては少し苦言を呈していましたからね。あのシーンだけは正直「どの口が言っているんだろう」と思って読んでいました……。

 そういえば、アレクセイが真紀に渡した時計は何を暗示しているのでしょう。『死に逝く主人(アレクセイ自身)』に見立てて、「主人への忠誠を捨てるか持ち続けるかは自分で決めろ」と言っているのでしょうか。それとも、『高値が買われ、戦いの中で磨り切れていく殺し屋(真紀)』に見立てて、「どのように使われたとしても真紀には価値がある」と言っているのでしょうか。

Vol.3

●シナリオについて
 安定して面白いですね。キャラクターもどんどん増えてきて嬉しい限りです。

 本パートは、『獅子ヶ谷 桐花』に焦点を当てたシナリオとなっていました。彼女の”毒舌で気難しいながらも気遣いが細かく優しい性格”はVol.1やVol.2でも示唆されていましたが、本パートでは特にその性格を印象付ける場面が散りばめられていましたね。
 また本パートでは、『誰かに背中を見せて引っ張っていく立場』へのトーカの成長が描写されました。これによって、また一段と魅力の増したキャラになったのではないでしょうか。Vol.1序盤では好きになれるか心配だったトーカも、今では好きなキャラクターの一人になってくれて良かったです。それはそうと、トーカは『誰かに背中を見せて引っ張っていく立場』の人物の一例としてハルトを挙げていましたが、レナも当てはまるよなぁと思いました。というか、居残り組としてレナがマキを学園外に連れ回すパートが複数回挟まれたのって、明らかに素で『誰かに背中を見せて引っ張っていく立場』を体現しているレナを描写する意図が働いているよなぁと気付きましたね。

 展開的には、Vol.2ほどドンパチバトル要素は強くなかったものの、その分コメディ的な要素が面白かったなと。普段の生活区域から離れた合宿イベントだったという点でも新鮮味を感じられました。ヘリからの降下シーン好き。「庭には2羽ニワトリが必要なのです!」
 それと、有坂秋桜里が着々と美浜学園の雰囲気に慣れてきている点でも笑えましたね。有坂先生もついに、戦闘の最中に逃げたニワトリを探しに行けるほど図太くなりましたか……。

 個人的に印象に残ったシーンとしては、待機中のトーカとムラサキによる談議シーンが挙げられます。『人生がつまらないか否か』『つまらないとすれば誰のせいか』などを語り合っている場面ですね。純粋に「たしかになぁ」と思わされたからという理由もありますが、この場面では今まで雲を掴むようだったムラサキの本質の片鱗が垣間見えたような気がしたため、特に印象に残りました。パッケージデザインを見るにムラサキに関してはVol.5で掘り下げられると考えられるため、Vol.5が楽しみですね。まぁその前にクリスの掘り下げであろうVol.4を挟むんですがね。

Vol.4

●シナリオについて
 面白かったです。やはり安定していますね。

 本パートは、『鯨瀬・クリスティナ・桜子』に焦点を当てたシナリオとなっていました。彼女は今までムラサキ同様にイマイチ背景を掴めないキャラクターだったワケですが、本パートでは今まで触れられることのなかった彼女の過去や思想が明かされたカタチになります。
 以前から皆のお母さん的ポジションだった彼女ですが、本パートを経て『自身を守って亡くなった母親』の追体験のようなモノを経験したことにより、改めてさらに強固に皆のお母さん的ポジションとして定着することが出来たのではないかなと感じました。

 展開的には、今回もそう突出して盛り上がる展開だったかと言われればそうではありませんでしたが、終盤展開におけるテロリスト戦では楽しめるポイントがありましたね。特に、Vol.2とVol.3で仲間に加わったマキとグミの加わった編成を見ることが出来たという点が大きな楽しみポイントでした。彼女たちが編成に加わることによる有用性は本パート中でもタイガのレポートで示された通りですが、やはり実際にそれが実戦として描かれると心が昂りますね。今回は敵が素人同然の宗教団体だったので、正直若干味気無かったのですが、今後より強大な敵と戦う際に再びこの編成での戦いっぷりを拝みたいものです。

 さて。ここまでプレイしてきて、本作では基本的にキャラクターの成長を描く上で、『誰かの背中を追う立場から誰かに背中を追われる立場への遷移』というフレームワークを採用しているのだろうなという考えに至りました。現に、レナはマキに、トーカはグミに、クリスはタイガに、それぞれ自身の背中を見せることで、各人を引っ張っていく存在に成長していることが分かります。しかしだからこそ、今後の展開が読めなくて逆に楽しみなんですよね。次パート(Vol.5)で絡んでくるキャラクターがムラサキの姉なあたり、ほぼ間違いなくこのフレームワーク通りの成長はしないことが予想されますし、加えてVol.6からはハルトに焦点が当たると仮定すると、 既に背中を見せて引っ張る立場であるハルトには間違いなくこのフレームワークは採用されないでしょうからね。
 今後はどのような展開を見せてくれるのか、非常に楽しみです。それはそれとして、一先ずは目先のVol.5ですね。Vol.5で焦点が当たるムラサキは、最初からいるヒロイン4人の中で最も背景や人となりを掴めないキャラクターですから。いったい何を抱えているキャラクターなのか……プレイするのが楽しみです。

Vol.5

●シナリオについて
 少々今までのパートからすると見劣りするかなぁという感想です。題材というか、描きたかったこと自体は良かったと思います。

 本パートは、『狗駒 邑沙季』に焦点を当てたシナリオとなっていました。彼女は本当に今まで掴めないキャラクターだったので、やっとこさ背景が明かされたかという感じでしたね。本パートで初登場した姉(狗駒 悠季)との遠いようで近い距離感がとても印象的でした。客観的に見ればよそよそしく見えるし、現によそよそしいのだけれど、心はちゃんと互いに繋がっているという関係性、とても良いですよね……。下手に関係を修復して自他共認める仲良し姉妹になるのではなく、狗駒姉妹のありのままのカタチを貫き通してくれた点は個人的に評価したい点です。

 本パートであまり盛り上がることが出来なかった原因は、やはり本パートの展開構成にあるのかなぁと考えられます。今までのパートは、『導入➡過去編での掘り下げ➡本編時系列での事件を経た成長描写』という展開構成になっていたのですが、本パートはその大半が『導入』と『過去編での掘り下げ』によって構成されており、最も盛り上がる部分である『本編時系列での事件を経た成長描写』がありませんでした。その点で展開的な弱さが出てしまったことは否めないのかなぁと感じております。

Vol.5.5

●シナリオについて
 展開的には『箸休め』、役割的には『補完』という印象のパートでした。
 面白いか否かと問われればお世辞にも面白いとは言えませんが、これまでに登場したキャラクター(サブキャラ含む)についての理解度が向上したという点では良いパートだったと思っています。

 これまでに焦点が当たってきたヒロイン4人(レナ、トーカ・クリス・ムラサキ)およびサブ的に焦点が当たった3人(マキ、グミ、タイガ様)に関しては、本当に展開の都合上各パートで語れなかったことの補完でしたが、それ以外のキャラクターに関してはけっこうちゃんと掘り下げていたように感じました。Vol.6からはシナリオ的にも佳境に入ると考えられるため、ここで仙石一縷学園長や野上教頭、山本さんについて掘り下げてくれたのは非常に有難かったです。
 また、本パートは、Vol.1で主観者を務めた有坂秋桜里に再び焦点を当てたパートという側面も有する内容となっており、ついにこれまで話題に挙がることのなかった有坂先生の過去が明らかになりました。それを踏まえて、有坂先生が次のステージへ進む決意を固めるパートでもあったワケですが……。この選択が後にどのような形で影響してくるのか、はたまた今のポジションのままであり続けるのか。そんな観点からも、今後が楽しみですね。

 ちなみになんですが、タイガ様はもうメイド服がデフォなんですね。とてもかわゆい。

Vol.6

●シナリオについて
 面白かったです。
 Vol.5.5同様、役割的には『補完』のパートでしょう。同シリーズでいえば『グリザイアの迷宮』と同じ位置付けだろうなと。

 待ちに待った『蒼井 春人』の過去編。ハルトおよび元ファントムトリガーの物語が描かれました。
 私、個人的に、『過去作キャラ』とか『作中における過去の何かしらの生き残り組』とか、所謂『レジェンド』的な枠組みのキャラクターが大好きなんですよ。なので、本パートはとても楽しんで読めましたね。
 改めて、これまで掘り下げの少なかった元ファントムトリガーの面々や、既に作中時系列では殉職していた『蒼井 碧』に関して掘り下げてくれたのは嬉しかったです。というかまぁ、シナリオを読むに掘り下げざるを得なかったのでしょうがね。
 想像以上に元ファントムトリガーのメンバーがハルトを温かく育てており、ほっこりさせられました。まぁ現場に連れていかれたり教えられることが物騒だったりと異常な環境ではありましたがね……。それでもあの空間は、ハルトにとっては『家庭』であり、元ファントムトリガーのメンバーは『家族』のような存在だったのだろうなということがひしひしと感じられました。だからこそ彼らの日常風景には心が温まりましたし、アオイを失った際の悲しみも強く伝わってきました。

 さて、いよいよラスボスの正体も明らかとなり、本作もついに終盤という雰囲気を醸し出してきました。
 Vol.2からのいざこざが実は全て繋がっているという構成、とても良い……。こういうの大好きです。過去からの因縁という感じで、終盤展開は今まで登場したキャラクター総出の総力戦になりそうな予感がしており、ワクワクが止まりませんね。ちなみに私は最終決戦でキャラクターが勢揃いする展開も好きなので、Vol.7やVol.8ではそうなってくれると嬉しいです。

 それはそうと、本パートでは『正義とは何か』というテーマが芯に置かれていた気がするのですが、結局答えはハッキリと出ないままでした。Vol.7やVol.8でハルトと共に答えに辿り着くことになるのでしょうかね。

Vol.7

●シナリオについて
 『決戦前夜』という感じですね。パートの役割的にも展開的にも『準備』の意味合いが強かったと感じました。
 それ故に、面白かったかと問われれば頷くことは出来ませんが、嵐の前の静けさという感じで先への期待は高まりました。

 これまでに登場したキャラクターが勢揃いしている辺り、やはり最終決戦は多くのキャラクターに活躍の機会がある総力戦になるのでしょう。Vol.6の感想でも述べましたが、最終決戦が総力戦になる展開は大好きなので、Vol.8が非常に楽しみです。
 Vol.6であれほどの因縁を見せてくれたワケですから、個人的には元ファントムトリガーのメンバーにこそ強く焦点を当てて欲しいですね。

 それはそれとして、本パートでは敵勢力の顔見せが行われる過程で、『どのキャラクター(CIRS側)がどの敵に相対するのか』というところまで示されました。これまでのパートで焦点が当たってきたキャラクター達の最終決戦における割り振りというか、担当が判明したカタチですね。
 タイマンとまではいきませんが、どの戦闘もキャラクターの心を激しく揺さぶるような展開になりそうで、その点でも期待は募るばかりです。本パートは緊張感が足りなかったので、Vol.8ではヒリつくような緊張感を感じられると良いのですが……。

 さて、物語もついに佳境。本作も遂に次のパートで完結です。
 終わりに近づき、テーマ的な側面もよりいっそう表面化し始めました。
 はたして本作は、いったいどのような結末へと辿り着くのでしょうか。

Vol.8

●シナリオについて
 とても面白かったです。完結編として相応しいパートでした。
 序盤こそ平坦で緊張感の無い展開が続いたため不安になりましたが、総力戦が始まってからはしっかりとシリアス且つ熱い展開を魅せてくれたので安心しました。
 それはそれとして、パトリック視点は安定して面白かったです。ずっと緊張感がありましたからね……。さながら、『グリザイアの果実』の周防天音√(エンジェリック・ハウル)に匹敵する凄惨さと理不尽を感じました。パトリックと共に全てを見届けたからこそ、ナタリーの死で一度は壊れかけたパトリックが最終的には再び自身を貫き直すに至れたことに脱帽でした。

 さて。本パートには、大きく分けて2つのエンディングが存在しました。『全滅end』と『true end』です。
 個人的には、『true end』の対比として『全滅end』をちゃんと用意してくれたことに感謝しかありません。これが仮に『true end』しか存在しなければ、私の評価はそう高くなかったでしょう。『全滅end』があったからこそ、私は『true end』、ひいては本作を高く評価出来たのだと考えております。というのも、これには最終局面以外での緊張感の無さやこれまでに見せつけられてきたSORDメンバーの有能さが起因しています。例として、かの名作漫画『ONE PIECE』における新世界入り後の麦わらの一味を挙げれば分かりやすいでしょうか……。バトルモノのキャラクターというものは、そのキャラクターが強くなりすぎれば強くなりすぎるほどに死の影からは縁遠くなります。キャラクターには常に死の間際にいて欲しいとまでは言いませんが、バトルモノにおいて死の臭いが薄いとイマイチ緊張感が出ませんし、「どうせどうにかなるんでしょ」と思えてしまって、勝っても感動が薄くなってしまいます。だからこそ最終決戦では死の臭いを濃くして欲しかったワケです。しかし、総力戦に至るまでのSORDメンバーにはこの死の臭いが著しく薄かった。あれだけ戦場を余裕の風格で駆け抜けていれば、そう思ってしまうのも無理はないでしょう。故に、『true end』だけ魅せられていた暁には、「まぁそりゃどうにかなるよね」というテンションでしかいられなかったと思います。でも本作は違った。あれだけの有能さを誇っていたSORDメンバーでも全滅するのだという『現実』をちゃんと見せつけてくれた。その点が本当に素晴らしいというか、これぞ『ルート分岐』を媒体的な強みとした『ノベルゲーム』における醍醐味だよなと感心しました。

 全滅endについて。
 全滅endの魅力の半分は上述しましたが、全滅endの魅力はこれだけではありません。私が全滅endで評価したいのは、SORDメンバー全滅後にも続いていく有坂先生や美浜学園の日常をしっかりと描写した点です。これにより全滅endは、『ただの使い捨てbad end』ではなく、『もう一つの正式な結末』として昇華されています。この点もまた、『true end』の魅力を底上げする要素となっております。ただ全滅してそこでプツンと終わってしまってはイマイチ味気有りませんからね。SORDメンバーが全滅しても物語は続くのだというある種の虚無感や無常感を感じられることこそが、よりSORDメンバーの『生存』に対する喜びや安堵感を底上げしてくれるのだと考えております。
 涙を見せなかった有坂先生が最後の最後で涙を見せるシーンや新旧SORDの写真の演出は、私の心にも何とも言えないやるせなさと寂寥感を去来させ、激しく涙腺を刺激してきました。平たく言えば、有坂先生にもらい泣きしました。全員生存ルートがtrueだと分かっていても、悲しいものは悲しいし、泣けるものは泣けるワケなのです。

 『true end』について。
 全滅endの効果もあって、こちらは安堵の連続でした。上述もしましたが、全滅を一度見ているからこそ、各キャラクターの生存に有難みを感じられるワケですからね。しかも、全滅endで最初に死んだトーカが助かったことで芋づる式に他のSORDメンバーも助かっていくという展開が何とも巧みな構成だなぁと感心しました。その上、トーカが生きるか死ぬかの分岐が、有坂先生が銃弾詰めを手伝うか否かという選択肢によるものだった点も良かったですね。意図的ではないにしろ、SORDメンバーの生死に有坂先生が関わっているという構図なワケですから。この点、Vol.1における有坂先生救出作戦との対比関係と考えるとさらに面白いですよね。
 各バトルに関しては、どれもアツかったですね。各々様々な因縁がありましたが、その全てが上手く収拾付けられていたため、不完全燃焼無く納得のいく〆へと繋がったのだと考えています。
 エピローグにパトリックのその後を持ってきたのもまた憎い構成ですよね。TFA側の有坂先生という印象を感じさせた彼が最終的には少年兵たちの『先生』という立ち位置に落ち着き、そこに生きる意味を見出していることもまた感慨深かったです。

総評


●シナリオについて
 余韻が心地良いのは名作の特徴ですね。
 物語構成も巧妙であり、綺麗に纏まった作品であったと感じております。不満点もほとんどありません。
 ただ、こればっかりはライターさんの作風と考えられるため仕方ないのですが、多少ウンチク語りや思想語りが過ぎた点は少々不満に感じました。一応作中でもそういった思想語りをするキャラクターは『語り癖があるキャラ』という位置付けなっていましたし、適度な思想語りはキャラクターの個性アピールになるためむしろ推奨したいのですが、それにしても本作ではそういった語りが多すぎる。中には「それこのタイミングで語る必要があった?」とツッコめてしまう程に唐突な語りも散見されました。そういった部分がちょくちょくクドく感じられたことは否めませんね。

 展開に対する感想については既にほぼ<各パート感想>で記述してしまっているため、ここでは省略します。

 結局のところ本作は、『戦争』や『正義』といったインパクトの強い題材を使った上で、それでも尚『”現実臭さ”在りのまま落とし込んだ作品』であったという認識で良いのでしょうかね。思い返せば、『言われてみれば当前のこと』とも言えることばかりがメッセージとして伝わってきたような気がしますし、最終的なテーマの終着点もハッキリと答えの出るものではなかったような気がします。その点、むしろ本作は、壮大なテーマそのものに対して答えを導き出すことよりも、そんなテーマについて考え悩み続けるキャラクターたちの『生き様』に焦点を当てることに徹した作品だったのだろうなと考えております。

●キャラクターについて
■『蒼井 春人』について。通称:ハルト。元ファントムトリガー。アオイの弟子。
 本作において最も主人公に近い存在と言ってもいいでしょう。彼こそが本作における中心人物であったといっても過言ではありません。
 生粋の女たらしである点はシリーズ前作主人公の風見雄二と同じですが、雄二よりは軟派な印象を受ける美形です。しかし、時折見せる陰や子供らしさ、そして本気の際の真剣な様子など様々なギャップを併せ持っているキャラクターであり、男性である私から見てもモテることに納得出来てしまいました。実力者でもありますからね。
 ……そういえば彼、仙石一縷の話を聞く限りでは風見雄二と日下部麻子の子供って位置付けになるんですよね……。遺伝子が強すぎる。というか、道理でどこか雄二に似ているワケですよ。

■『有坂 秋桜』について。美浜学園Aクラスの担当教員。
 ハルトに次ぐ第二の主人公ですが、どちらかといえばテーマの体現者としての側面が強いキャラクターだと感じました。というのも、彼女が目立って活躍する機会はあまり無かったワケですが、その分彼女は自身を含めたあらゆる『正義』に常に懐疑的であり続けました。もちろん心理的に美浜学園SORDメンバーを支えたという実績もありますが、それはそれとしてどちらかと言えばほぼ見ていることしか出来ないユーザーに近しく、『観測者』という印象を強く感じられる存在であったのかなぁと。その点、有坂先生の『選択』が最終的に全員生存か全員死亡かを決定付ける分岐になっていたのも感慨深いですよね。ライターさんが意図したのかどうかは分かりませんが、意図していたのだとすれば上手い仕様です。
 ただまぁ、一点不満なのは、結局彼女周りの出来事は目に見えて解決することなく有耶無耶になってしまったことです。話の流れを見るに、彼女は未だに父親を殺した自身と向き合えていないワケですからね。そこだけどこかで回収してほしいなと。

■『深見 玲奈』について。通称:レナ。ホロゥ・ハウス出身者。ハルトの番犬。
 出自としては風見雄二の後輩にあたるんですよね。責任者が変わったとはいえ、相変わらずあそこの出身者は強い。
 基本的には馬鹿ながらも戦闘観が研ぎ澄まされている点はさすが。戦法にも理屈が備わっていて好感を持てます。作中でも様々なキャラから「レナはただの馬鹿ではない」という評価を受けていますが、まさにその通りなワケですね。
 シンプルながらも確固たる『芯』を有している点もまた良いです。強い決意はキャラクターの魅力に繋がりますから。
 全滅endで死後もハルトを守ってくれたシーンでは、思わず涙腺が緩みました。忠犬、ここにあり。

■『獅子ヶ谷 桐花』について。通称:トーカ。スナイパー。
 最初こそ好きになれるか心配だったキャラクターですが、最終的にはトップクラスに好きなキャラクターへと昇華しました。
 誰よりも気難しい皮肉屋だけれども、その実誰よりも周囲への気遣いが丁寧な彼女。仲良くなるための境界線の見定めについては作中でも言及されましたが、そういった人間臭さもまた彼女の魅力の一つでしょう。
 グミちゃんが美浜に来てからは本当に良い師匠(というかお姉さん?)に成長しましたね。
 全滅endで最初に亡くなるのが彼女だったワケですが、その死に様は実に彼女らしかったと言えるでしょう。自身を貫いたが故の死に様であると感じ取ることが出来ました。

■『鯨瀬・クリスティナ・桜子』について。通称:クリス。みんなのお母さん。
 全体を通して戦闘面ではほぼ活躍の場はありませんでしたが、ひたすらに裏方として無くてはならない存在であることを示していました。
 一見クールでありながらも、一定レベル以上の何がが発生した際の思い切りの良さはずば抜けているという点もギャップですよね。Vol.4ではそんな行動に驚かされながらもより好感を持つことが出来ました。

■『狗駒 邑沙季』について。通称:ムラサキ。ニンジャ・マスター
 過去編で掘り下げられるまでは本当に奥底を掴めないキャラクターでしたが、その実劣等感と恋慕という人間臭さを備えた可愛い女の子だと分かって尚ヨシという感じ。
 能力は現実離れしていますが、そういえばあまり使用機会はありませんでしたね。ホムラ戦でも実質全カットでしたし、本当に能力の見せ場は過去編でしか無かったことになるんですね……。

■『井ノ原 真紀』について。通称:マキ。元マフィアの殺し屋。ホロゥ・ハウス出身者。レナの義妹。
 気難しく荒々しい反面、繊細で優しい性格のキャラクター。性質としてはトーカや野上先生に近いタイプ。
 タイガ様が来てからは良い保護者さんになってほっこりしました。彼女にはタイガ様のようなキャラクターが必要だったのです……。
 役目を終えた時計との決別シーンは胸に来るものがありましたね。

■『九真城 恵』について。通称:グミ。元聖エールスナイパー。
 個人的に”ヒロイン”としては最も好きなタイプのキャラクターです。髪型から性格まで好みドストライクですね。
 若干旧時代的ではありますが、彼女も強い『芯』を持ったキャラクターと言えるでしょう。
 オウムのモノマネは笑いました。
 それはそうと、全滅endの”アレ”はエロゲで見たかったですね……。

■『仙石 大雅』について。通称:タイガ様。救護の虎。
 トーカ同様、第一印象では好きになれるか不安でしたが、物語を進める毎に好きになれたキャラクターです。
 年相応の子供らしさを持ちつつ、大人顔負けの客観的視点と自己分析能力をも持っている点が非常に好みですね。
 彼女の決意が巡り巡って最終的に敵だったジョナを魅了するにまで至ったという流れは、さながら彼女の決意を肯定しているようで、とても良かったなと。
 全滅endで彼女が亡くなる際にはさすがに胸が痛くなりました。

■『狗駒 悠季』について。通称:ユーキ。ニンジャ・マスター。ムラサキの姉。
 長期記憶能力の欠損という、わりかし激重な体質を抱えている彼女ですが、そんな体質でありながらも妹であるムラサキに対する愛情は伝わってくるあたりが感慨深いです。
 彼女に関しては美浜のサブキャラとは別枠で、どちらかといえば元ファントムトリガーという枠組みなんですよね。
 全滅endでは酷い死に方でしたが、true endでは後遺症も残らなかったようで良かった……。

■『蒼井 碧』について。通称:アオイ。ホロゥ・ハウス出身者。ハルトの師匠。
 呼吸をするように名言を吐くキャラクターです。どうしてグリザイアシリーズの『師匠』ポジションキャラクターはこうも魅力的であり、そして儚いのか……。主に登場したのがVol.6のみな上に亡くなる結末が確定していたにも関わらず、散り際には泣かせてきやがるから卑怯ですよね。
 アオイを殺したクロエを、最終的にハルトがアオイの技で倒すという構図があまりにも好きでした。
 そういえばアオイ、一見馬鹿のようですが、レナ同様にただの馬鹿ではないんですよね。何事にもしっかりと理屈を有していますし、他者へのリスペクトもふんだんで一般人への人当たりも実はいい方。明らかに世渡りが上手いタイプです。殺し屋じゃなくても生きていけそうなタイプだと感じました。

■『漆原 縁』について。元ファントムトリガーのハンドラー。黒幕。
 子供のような八つ当たりと死にたがりで世界を戦争の渦へと巻き込んだ張本人。
 はた迷惑が過ぎるキャラクターではありましたが、動機を考えるに彼を憎み切ることは出来ません。
 彼は、妻同様に戦争の中で死ぬことが出来て、満足だったのでしょうか。

■『パトリック』について。TFAの戦場泥棒。
 最終パート(Vol.8)でまさかの初登場を果たした第三主人公。『とある魔術の禁書目録』でいうと浜面仕上ポジションというかなんというか……。しかしてその実態は『TFA側の有坂先生』であったと解釈しております。有坂先生ほどでは無いにしろ、彼もまた『正義とは何か』を考え続けたキャラクターであったからです。有坂先生と異なるのは、最終的に明確な答えを出したか否かという点でしょうか。彼は少なくとも、「戦わないという決意から逃げないこと」という答えの元、争いのない世の中を目指して歩き出した一例となっております。
 有坂先生との対比関係だった彼が、最終的には成り行きで『センセイ』と称される立場に落ち着いているのも綺麗な構図だと感じました。

■『浜学園関係者』について。仙石一縷や野上先生、山本さんあたりが該当。
 最初は本当に癖のあるサブキャラばかりだなぁという印象しかありませんでしたが、軒並みVol.6から魅力を盛大に発揮しましたね。特に一縷さんは、表向きあんな性格でありながら裏にはスケールの違う優しさを兼ね備えているとか……ギャップもここまでくると卑怯の領域です。優しさと言えば野上先生もそうですね。Vol.4で陰ながらクリスの出撃を許していたり、Vol.6でハルトを多分に気にかけていたりと、なかなか見えないながらもその片鱗はしかと感じられました。
 山本さんも職人気質というか、芯のあるキャラクターでよかったですね。ただ、全滅endの彼女を想うと胸が苦しいです。アオイの死でもあれほどに泣いていたワケですからね。SORD全員の死ともなれば、どれほど涙を流したのか想像を絶します。

■『京船桜が丘関係者』について。宇川と稲垣姉妹ですね。彼女たちの信頼関係がとても好きです。全滅endラストは助かったんでしょうか……?

■『聖エール関係者』について。アヤメ様と山岳猟兵部隊ですね。傲岸不遜であることに変わりはありませんが、それはそれとして筋が通っており生徒想いでもあるアヤメ様が好きです。きっと聖エールの学生たちも、アヤメ様のそんな本質を見抜いているからこそあれほど素直に付き従っているのでしょうね。

■『TFA関係者』について。正直あまり幹部連中には印象がありません。因縁深かったクロエやその後仲間になるジャヤとホムラはまだしも、アーサーとかハビエルとかレナードとかマジで顔出ししただけのレベルですからね。カリードは幾分かマシという感じ。ちなみに最も印象に残ったTFA関係者はジョナでした。『リンゴを食べるタイプの悪魔』で腹を抱えて笑いましたね。
 アーサーやハビエル、レナードあたりは逃げおおせてまた何かを企んでいるようですし、こういった点がイマイチスッキリ『決着』と言えない点なのかなと。あえてそうなるようにライターさんが狙ったのかもしれませんがね。

●テーマ・メッセージについて
結局戦争なんて灰色なんだ、白でもなければ黒でもない
 まさかのモブが回収したシリーズタイトル。『グリザイア』とは元々、フランス語で『灰色』という意味を示す『グリザイユ』からきているタイトルですが、それを踏まえると本作が『グリザイア』というシリーズ名を冠することに納得出来ます。
 傍から見れば、戦争には『正義=白』も『悪=黒』もありません。主観では誰もが『正義』をぶつけ合いながらも、相手からすればそれは『悪』となる。『正義』は同時に『悪』であって、故にこそそこにあるのは突き詰めれば『灰色』というワケです。

自身の正義を疑えない者ばかりだから戦争などというものが起こる
 「自身の正義を疑う」という在り方は漆原縁やハルトに限らず、様々なキャラクターの口から挙がった思想です。故にこそ本作の根幹に根付いているメッセージであると考えられるワケですね。
 かの名作漫画『BLEACH』には、「戦争なんて始めた瞬間からどっちも悪だよ」という名台詞が存在します。しかし、現実にはそうと割り切れず自身の正義を疑えない人間が非常に多い。自身が正しいと疑えないから押し付け合いになる。押し付け合いが高じれば争いへと発展する。『戦争』のメカニズムとはそんなところなのだと。
 しかし本作、だからと言って『確固たる正義』を持つことを否定しているワケでもないんですよね。というのも、Vol.1から暗に示されていたもう一つの思想として、「自身の芯を持つこと」が挙げられるんです。自身が戦いの中で迷った時に、自分を見失わずに戦い続ける方法として、レナが示したのが最初であったと記憶しています。本作のキャラクターはほとんどがその思想を基に戦っていたようにも感じました。
 要は、本作では、「正義を疑えないから戦争が起こる=自身の正義を常に疑え」という思想と、「生きて戦い続けるためには自身の正義を持つ必要がある=確固たる自身の正義を持て」という思想といった、相反する二つの思想が聳え立っているワケなのです。だからこそ本作では、あえて『戦争』に関しては決着感を薄めたり、『正義の在り方』というものについて明確な答えを示さなかったりと、マクロ的に少し濁した結末を迎えるに至ったのだと考えています。

おわりに


 『グリザイア:ファントムトリガー』感想、いかかだったでしょうか。

 全編出揃ってから一気に駆け抜けることが出来て良かったです。分割のデメリットは、各パートごとのスパンが長いことですからね……。私の記憶力では、前パートの内容など克明に記憶していられませんから……。

 次にプレイする作品は、『D.C.P.C.』を予定しております。

 それでは✋