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ノベルゲーム感想と思考出力

『D.C.P.C.』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

D.C.P.C.』


 『CIRCUS』さんによる伝説の始まり────『初代D.C.』の完全版です。
 D.C.シリーズといえば、私が初めてプレイしたエロゲは『D.C.II P.C.』なのですよ。そのため、非常に思い入れの深いシリーズとなっております。ただ、アニメで視聴した際の記憶を辿ると、初代はあまり面白くなかった覚えがあるので、今回は期待半分/不安半分という心持ちですかね……。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 しんしんと桜が舞っている。
 狂ったように舞っている。
 驚くほどゆったりと。
 音もなく。
 天使の羽のような花びらの散りざまは、まるで永遠を思わせる一瞬。

 ──それはダ・カーポのように繰り返す世界──

 1年中、絶えることなく桜が咲きつづける不思議な島『初音島』。
 薄桃色に染められた、『枯れない桜』のある世界。

 その中心にある風見学園に、
 手のひらから和菓子を生み出し、
 他人の夢を垣間見てしまう、
 とても何かの役に立ちそうもない、ふたつのささやかな力を持つ男子学生がいました。
 平凡とはほど遠く、非凡にもほど遠い……。

 そんな彼は、卒業間近の『学園』で、さまざまな女の子達に出会います。

 学園のアイドルや、ぽけぽけした先輩、

 転校生の巫女さんに、お人形のような少女……。

 たくさんの出会いが紡ぎ出す、
 ちょっとこそばゆくて、ちょっとせつない
 恋物語のはじまりです。

 引用元

所感


 ヒロインが多い!!!!!!
 いや、分かりきっていたことではあるんですよ。購入する際にちゃんと調べたんで、完全版にはヒロインがこんだけたくさんいて、それだけルートの数も多いのだということは知っていたんです。でもやはり完走してみると、改めて実感と共に叫びたくなったのです。それほどまでに”大変だった”というのが率直な感想です。

 シナリオについては、正直あまり自分の肌には合いませんでしたね。どちらかと言えば、シナリオに力を入れるよりも、ギャルゲとしてヒロインを攻略するという側面に力の入った作品だったという印象を受けました。シナリオの面白さを求めてプレイする作品ではないことは確かです。あくまでも恋愛シミュレーションゲームとして、本作ヒロインの大半に対して「萌え!」を貫ける方や青春の追体験を求めている方であれば、楽しめると思います。

 まさしく『こそばゆい学園恋愛アドベンチャー』。そのコンセプトには嘘偽り無し。

~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 ことり√➡萌√➡眞子√➡環√➡アリス√➡ななこ√➡和泉子√➡叶√➡音夢√➡美春√➡さくら√➡頼子√➡香澄√➡ノーマル√➡D.C.

白河 ことり√

●シナリオについて
 面白さは程々。展開的要点を抑えているあたり悪くはありませんが、突出して良くもないって感じでしょうか。

 個人的には『D.C.II』で白河ななか√をプレイ済みだったので、シナリオに関してもそう驚きや新鮮味を感じることもありませんでした。
 ただそれはそれとして、最終的に示された結論は良かったですね。人の考えを汲み取れず、必要以上に不安を抱えていたからこそ心を読む能力を得たヒロイン────白河ことり。そんな彼女に焦点を当てたルートだったからこそ、『絶対なんてない不安だらけの人間関係の中で生きていく勇気』を示す結論(ある種の”当たり前”)が映えたのだろうなと。

 そういえば、ことりがここまで可愛いと感じられるとは想定外でした。初代に関してはアニメ版のみ履修していたのですが、アニメ版ではここまで可愛いと感じた覚えが無かったので……。これは良い収穫でしたね。

水越 萌√

●シナリオについて
 終盤は面白かったです。
 アニメ視聴当時は、萌先輩のことをおっとりしていてちょっと抜けている先輩キャラくらいにしか思っていなかったんですが、まさかこんな過去を抱えていたとは……。しょっちゅう寝ている原因が睡眠薬を常用しているからという事実が判明した際には驚きを隠せませんでした。
 最終的な結論は、ありきたりながらも好みですね。『大切な人の死は乗り越えなければならない』という結論に留まらず、『しかし、大切な人を忘れる必要はない』という結論にまで至ってくれたあたりは評価点です。

水越 眞子√

●シナリオについて
 良くも悪くもベッタベタな恋愛劇ですね。”こそばゆさ”はとても感じられました。
 眞子はおそらくサブヒロインの位置付けだったのでしょうね。それ故か、本ルートのシナリオボリュームも非常に小さかったですし、これまでプレイしてきたルートのように何かシリアス展開が始まるといったこともありませんでした。良く言えば『等身大の恋愛劇』ですし、悪く言えば『ありきたりで退屈などこにでもある恋愛劇』です。加えて、スタートラインから眞子は主人公に想いを寄せている状態なのですが、当の核となる『恋愛感情の発端』が語られることは一切無いので、その点は何とも不満だなぁと。恋愛感情の発露エピソードくらいは回想として入れてくれても良かったのではありませんか……?

胡ノ宮 環√

●シナリオについて
 面白かったかと問われれば肯定は出来ませんが、ヒロインの精神状態に関する問題解決の流れは良く出来ていたのかなと感じました。
 能力や巫女という役職でばかり見られてきたが故に他者からありのままの自分を見てもらえなかったヒロイン────胡ノ宮環。そんな彼女だからこそ、巫女以外の自分ははたして”自分”たりえるのかと不安だったワケですね。そんな彼女に対し、彼女のありのままを捉え続けた主人公だったからこそ、彼女を夢から連れ戻すために発したセリフに説得力が生まれたのだろうなと。
 ただ、設定面で若干頭に疑問符が浮かんだ要素もありました。それが、『”巫女の力の弱体化理由”と”問題解決方法”のギャップ』についてです。環が昏睡状態に陥った際、さくらはその原因を「本来神に捧げなければならない心を主人公に捧げたが故に、巫女の力が弱まって予知を制御出来なくなったから」と述べました。つまりは、ある種の防衛反応として、脳が予知でオーバーヒートしたからこそ予知をする相手のいない夢に閉じこもったということでしょう。要は、主人公に恋したことが暴走の原因なんですよね。しかし本ルートでは、最終的に『巫女としての自分』と『恋する普通の自分』とで迷っていた環が心の迷いを晴らすことで問題を解決しました。たしかに主人公の独白上では「巫女は清廉潔白でなければならない」とした上で「少なくとも迷いが生まれていれば清廉潔白とは言えない」みたいな考察が展開されていましたが、それは少し無理がありませんかね……? だって現に、迷いを晴らした環は恋する自身をも受け入れました。それって結局、神に捧げるハズの心を主人公に捧げることに変わりありませんよね? 巫女の力が弱体化したことの根底には「本来神に捧げなければならない心を主人公に捧げること」という原因があるのに、それはそのままに「迷いを晴らしたから暴走していた予知能力も収まった」という解決に持っていくのはさすがに納得出来ませんでした。

月城 アリス√

●シナリオについて
 うー--ん……。ロマンチックな話ではありましたし、シリアスが程よく展開の抑揚にも繋がっていた点は良かったです。ただ、それはそれとして、シナリオ自体にいろいろとツッコみどころがあるのが気になりました。
 まず、アリスの問題解決のために活躍していたのがほぼ杉並であって、主人公はただアリスに寄り添うだけだった点が何ともなぁと。これはあくまでも個人的な好みの話ですが、基本的に活躍しないくせになぜかヒロインに好かれる系の主人公ってあまり好きじゃないんですよ。んで、本ルートでは主人公がそれに該当していたので不満だった次第です。
 次に、アリスが自身の口から本心を発せるようになるきっかけについては、本当にそれで良かったのか?と思いました。本ルートでは荒療治でアリスから本心を引き出すことで問題解決としていましたが……。そもそもアリスが本心を口に出せなくなったきっかけって、本心を言葉として発したら両親が亡くなってしまったという出来事なんですよね。つまり、本来アリスの問題を解決するには「両親の死はアリスのせいじゃない。本心を言葉として発したからといって相手が不幸に見舞われることなんてないんだ」ということを実感させることで、慢性的な安心感を与える以外に無いハズなのですが……。本ルートではその辺が放り投げられていたので何ともモヤモヤとした気持ちになりました。

彩珠 ななこ√

●シナリオについて
 面白さ的には可もなく不可もなし。面白かったかと問われれば肯定出来ないけれど、かといってマイナスとして語るほどの不満点も特には無いという感じです。
 ただ、ボリューム的に仕方がないとはいえ、『漫画家のヒロイン』という題材を用いるのであればもう少し踏み込んだシナリオを読みたかったなぁという気持ちはあります。まぁ、あえて意図的にそういう『深い部分』を描かず、あくまでも『漫画家のヒロインとの恋愛劇』という地点で留めている可能性も大いに考えられますがね。
 シナリオの構成としては、無難ながらもよく仕上がっていたのかなと。本ルートでは珍しくファンタジーが介入してこないので、”普通”のこそばゆい恋愛劇を描く上では作りやすいシナリオだったのかもしれませんね。
 ツッコミどころも数点生じましたが、後々ちゃんと回収してくれていたので文句なしです。眼鏡ヒロインが眼鏡じゃなくなった時とか、どうしようかと思いましたよ。誘い込んだ眼鏡フェチを一斉に殺すような所業じゃん、と。まぁ私は眼鏡フェチではないので気になりませんでしたが……。

紫 和泉子√

●シナリオについて
 愉快だった和泉子の性格や、クマの着ぐるみを着た宇宙人という奇天烈設定も影響してか、程よく面白かったです。
 ただ、展開的には若干不満もありますね。立ちはだかった壁がどれも流れで何となく解決してしまう展開は拍子抜けで残念だったなぁと。もう少し主人公の活躍で壁を乗り越えていく展開が見たかったです。

 それにしても、表示されているルートヒロインのビジュアルがほぼずっとクマの着ぐるみってのもまた斬新ですよね。ただ、それでもけっこう序盤からヒロインに好感は持てたので、純粋にヒロインの魅せ方が上手かったのだろうなと。その点は評価したいですね。

工藤 叶√

●シナリオについて
 面白かったです。
 主人公がヒロインに心惹かれていく過程が、今までプレイしたルートの中で最も丁寧に描かれていたシナリオだったと考えられます。エロゲでは『なんかよく分からんけど流れで互いに好きになっていたパターン』も度々見受けられますし、本作の今までにプレイしてきたルートがまさにそんな感じだったので、個人的にはここで程良く”まとも”な『恋愛劇』を見せてくれたのは嬉しい限りでした。
 ただ、終盤の展開は残念でしたね。本ルートの終盤では、貞操観念の厳しい家の娘であるが故に男装までさせられていた叶が、男性として振る舞い続けることに限界を来します。叶は自身が女性であることが知れ渡ったら転校させられるという事情を抱えていました。そのため、このタイミングで主人公とヒロインの前には『①一緒にいるために叶が卒業まで無理を通す』『②叶の健康のためにあえて離れる』『③一緒にいられる別の道を模索する』という3つの選択肢が立ちはだかることとなったワケです。結果としては本命だった③が選ばれることとなったため、その点は嬉しかったのですがね。問題は展開ですよ。主人公、またしても何もしないんですよね。心配しているだけ。あとは全て裏でヒロインが頑張ってくれました~的な。いや、厳密には、主人公が電話を一本かけたことで最大の壁だった工藤祖母を打破出来たというのも重要なピースなのですが……。……ショボい!! 圧倒的に主人公の活躍の場がショボい!! 工藤祖母もやたらと叶に厳しい貞操観念を課していたにしては『普段ぐーたらなのにいざという時には真剣にモノを言うところ』だとか『一途なところ』だとかを気に入った程度で二人の仲を許すって……チョロい!! 見応えが全く無い!! だってこれって、言うなれば「不良が捨て犬に餌をやっていた」だとか「ヒモ彼氏が日雇いのバイトをしていた」だとか程度の美化でしかないワケですよ。だからこそ、それが決め手になることには納得出来ませんでした。叶が説得の際に主人公のことを過剰に美化して工藤祖母に伝えた可能性ももちろんありますが、どちらにせよ説得パートなんてオールカットでしたからね。神のみぞ知る。到底納得するための材料としては使えそうもありません。そんなこんなで、本ルートの終盤展開は残念だった次第でした。

朝倉 音夢

●シナリオについて
 うー---ん……。True√の一つではあった本ルートですが、正直あまり面白いとは思えませんでした……。
 主人公に対する音夢の想いの強さがとても明確に描写されていた点は良かったと思います。主人公への恋愛感情に繋がる記憶を消されようが、自らの生存が危ぶまれようが、決して主人公への想いは捨てないあたり、ヒロイン力はズバ抜けていたでしょう。しかし、それに対する主人公の行動が弱い。結局有効打にはならなかったものの、音夢の問題に最も尽力したのは間違いなく芳乃さくらです。主人公ってぶっちゃけ、何も出来ずに傍にいただけなんですよね。いやまぁ、最後に学園で音夢を見つけた点に関しては評価していますが……。でもそれ以外では基本的に音夢を救うための行動を起こすことさえ出来ず、それどころかせっかくさくらが整えてくれた仮初の安寧を「音夢への想いを捨てられない」という利己的な理由(これも都合良く音夢の望みと合致していましたが)で壊すか否かを葛藤していたのが本ルートの主人公でした。これに対する私の率直な感想は、「とりあえず何か有効的な手段でも講じてみろ。お前主人公だろ」でした。そんな感想を抱きつつ、まぁさすがに最終的に音夢の問題は主人公が解決するだろうなどと楽観視していたら、まさかまさかの問題解決パートはごっそりカット。主人公への想いを頑なに抱え続け、最終的にあんなに思わせぶりに別れを告げて倒れた音夢が、エンディング後のエピローグでは何の説明も無く復活しているという始末……。何が起こってあの状態から助かったのか? なぜエピローグでは体調に問題が発生していないのか? そこいらの疑問に対する説明は全てぶん投げ。所謂『ご都合主義展開』なるものをさらに超越した〆方に、さすがの私も驚きを隠せませんでした。ここらへんの疑問が他ルートで払拭されることを願います。ちょっと、終わり良ければ総て良しにも限度があるかと。

天枷 美春√

●シナリオについて
 とても面白かったです。音夢√で不満を爆発させた直後にここまで感動させられるとは思いませんでした……。
 事故に遭った美春の代理を務めるためにやってきたロボットの美春。彼女との短く儚い恋物語に仕上がっている本ルート。必ず訪れる別れが分かっていつつも、いざその場面で感動させられるに足る要素が詰まっていたように思います。

 個人的に特に良かったなと思う点が2点あります。
 まず1点目として挙げられるのは、やはり『物語構成』でしょうね。本ルートでは、代理であるロボット美春がオリジナル美春に成りきることを目的として、オリジナル美春の『記憶』を自身の内から呼び覚まそうと、『思い出』を探し求める展開がメインとなっています。ただ、ロボットの身で行う『思い出探し』は負担が大きく、寿命を縮める行為であることが物語中盤に判明するワケですね。しかしそれでもロボット美春は、オリジナル美春の代理を務め上げることに奔走するというような感じです。とはいえ何も、誰かに強要されてロボット美春はオリジナル美春を再現しようとしているワケではありません。むしろ当事者である先生も主人公も、あくまでもロボット美春とオリジナル美春は別の存在であるという体で接しています。オリジナルの美春を完璧に再現することに拘っているのは美春のみであるということですね。んで、結局後戻り出来ないレベルにまで損傷が達してしまったため、最終的にはロボット美春の自由にさせてやる方針になったワケなのですが……。最後の最後には『思い出探し』が実を結んで、オリジナル美春にとっても最も大切な『記憶』を思い出すまでに至ります。で、重要なのはこの経験から得た結論なワケですよ。ロボット美春が多大な損傷を受けながらも『思い出探し』を成し遂げた結果得た結論は、「思い出は誰かに作ってもらうものじゃない。思い出は自分で作るもの」なんですよ。要は、これまでオリジナル美春に成りきることに拘っていたロボット美春が、ここでやっと自身をオリジナル美春とは別の存在であって良いのだと肯定するんですよね。オリジナルに成りきること(=自身の存在の否定)を目的として始まった行為が、最終的には「自身は自身で良いのだ」という結論(=自身の存在の肯定)に結び付く物語構成には、思わず嘆息させられました。しかし、物語構成に関する評価ポイントはここに留まりません。本ルートではこのような結論に持っていた上でさらに、「思い出探しという行為自体が、ロボット美春にとっての『思い出』として昇華された」という点まで抑えています。たとえ目的とは反する結論を得た行為だったとしても、自身の寿命を大きく縮める行為だったとしても、その行為は期せずして最終的に得た結論に強く紐付く『ロボット美春個人にとっての思い出作り』となっていたのだと。ここまで踏まえて、私は本ルートの物語構成を大きく評価したいと思った次第でした。いやはや、素晴らしい……。

 さて、ここからは、良かったなと思う点の2点目についてです。
 2点目として挙げられるのは、『複数の立ち位置が描写されたこと』ですね。本ルートにおいて、ロボット美春の事情を知る当事者のほとんどは、ロボット美春がオリジナル美春の代理を務めることを受け入れています。まぁ、仕方のない事情ではありますからね。しかし本ルートでは、あえて事情を知りながらもそれを受け入れられない立ち位置のキャラクターが描写されています。それが、朝倉音夢なワケですね。最終的には音夢も説得の末に受け入れることにはなりますが、それはそれとして都合良く最初から全員が『天枷 美春』のすり替わりに肯定的なワケではなく、ちゃんと否定的な立場のキャラクターも描写することで、オリジナルの美春をも疎かにしない配慮がされているのは非常に良い点だなと感じました。

芳乃 さくら√

●シナリオについて
 程よく面白かったです。
 グランド√の一角だけあって、本作の根幹部分に位置する設定について掘り下げられるルートでしたね。正直、初代D.C.に関しては10年前にアニメを一度観たキリだったのであまり覚えておらず、今回は「初音島ってこんな設定だったんだ……」と初見のような反応をかましてしまいました。まぁ、だからこそ楽しめた節もあるので、むしろ僥倖ではあったのですが。

 本ルートの良さは、ちゃんと最後まで音夢の存在が際立っていた点でしょうね。音夢√におけるさくらはそれなりにあっさりと身を引いたので拍子抜けでしたが、本ルートではちゃんと三角関係の体を終盤近くまで保っています。……まぁ、だからこそ、主人公がさくらと付き合うことになる瞬間があっさりすぎた点は気になりましたが……。
 また、さくらの抱えている問題が良い感じに雁字搦めだった点も面白いと思えた点でしょうか。「自分の願いを何でも叶えてくれる世界」という言わば自身にとって最高に都合の良い世界において、むしろ”何でも願いが叶ってしまうからこそ”苦しんでいるというさくらの悩みが本ルートに内在している問題として魅力的でしたし、そこに「それでも主人公を諦めたくないからこの世界(夢)を終わらせたくない」という恋愛感情由来の年相応な『身勝手さ』が加わることでより味が出ていたなと感じました。

 最終盤では「『さくらの願いを何でも叶える世界(初音島)』で主人公が抱いたさくらへの恋心は果たして本物か?」という疑問に焦点が当たり、結果として主人公は「本物である」と結論付けることによって物語は解決へと至りましたが、私もこの点には納得というか、主人公と同意見ですね。
 たしかに他ヒロインとくっつくルート(可能性)が存在する以上は、ことさくら√における主人公の想いはさくらの願い由来の恋心(≒偽りの想い)であるとも考えられます。しかしもう一歩踏み込んで逆に考えると、さくらって以前からずっと主人公のことが好きだったワケで、出来ることなら他ヒロインになんて主人公を渡したくなかったハズなんですよ(音夢意外となら許すみたいな発言もしてはいますが)。これってつまり、「さくらの願いを叶える世界でありながら、これだけ多くの他ヒロインと主人公がくっつくルート(可能性)が存在していること自体が、ひいてはさくら√での主人公の恋心が本物であることの証明」であるとも言えるのではないのかなと私は考えております。

 ……こっちの方が音夢√よりもグランド√感が強いものの、D.C.IIを見る限りではあくまでも音夢√が正史なんですよね……。若干やるせないな……。

鷺澤 頼子√

●シナリオについて
 面白いかと問われれば肯定は出来ませんが、ほのぼのとしていて癒されるシナリオだったと思います。拾ったネコ耳メイドさんと過ごす日常……。いいですね、憧れます。ただまぁそんなシナリオの関係上、あまり展開に関して言及することはありません。ただ頼子さんに癒されるシナリオだった。それだけです。
 頼子さんとの別れが確定的であると判明した際、もう少し足掻く展開も見てみたかったかもしれないですね。あそこで主人公がスパッと頼子さんとの別れを受け入れてしまったことが、本ルートの『あっさり感』に拍車をかけてしまったのかなと考察しております。主人公が足掻いた末の別れという描写がされれば、エピローグにおける頼子(美咲)との再会ももう少し感動的になっていたのだろうなと。

霧羽 香澄√

●シナリオについて
 完全にオマケ√って感じです。同じ隠しヒロイン枠でも、頼子√と比較するとボリュームが全く足りていませんね。
 とにかくハイスピードな展開なので、もはや感情移入する余地もありません。磨けば光るような感動系のシナリオだとは思ったので、尚のこと惜しいですね。もしかしたら、これの反省を基に作られたのが『D.C.II P.C.』における小鳥遊まひる√だったのかもしれません。

ノーマル√

●シナリオについて
 実質杉並√。こういう男同士の友情エンディングみたいなの、地味に好きです。

D.C.

●シナリオについて
 本作自体のエピローグ的な立ち位置ですね。本作シナリオ全体に根強く影響していた『枯れない桜』の本体と主人公が最後に語らうだけの短いシナリオ。
 正直、面白いか否かを測るパートではないと思っていますが、このパートがあったことによって本作を気持ち良い読後感と共に終わらせることが出来ました。『空の境界』の終章然り、『素晴らしき日々』の終ノ空II然り、”最も根幹に近しい何かしら”と主要キャラクターが1対1で語り合うだけのシナリオが作品のラストに配置されている構成って、個人的にはとても好きなんですよね。本作についても例に漏れず、本パートは作品の〆に相応しいパートだと思いました。

総評


●シナリオについて
 こと『こそばゆい学園恋愛アドベンチャー』というコンセプトからすると、本作は完成度の高い作品であったのかなと思っております。今はほとんど見なくなってしまった『マップセレクト』や『起床時間選択』によるADV要素をふんだんに用いることでユーザーに学園生活を追体験させ、行く先々で発生する取り留めのないイベントによってヒロインとの仲を深めていく……。古き良き恋愛ADVゲームとしての本作がそこにはありました。この点に関しては大きな評価対象ですし、当時のユーザーが多大な影響を受けたということにも納得出来ます。

 ただ、それはそれとして、やはり私が重視するのはシナリオなんですよね……。その観点からすると、少なくとも私の口からはお世辞にも本作を良い作品だったと評することは出来ません。いやまぁ、ルートの中には良いなと思えるシナリオも散見されたのですが、割合的には残念ながら少なかったですね……。
 とは言え本作、別にずっとシナリオがのっぺりしていたみたいなことは無かったんですよね。ちゃんとどのルートにもそれなりのシリアスパートがあって、そこが共通パートにおける明るさとのギャップになっていた点は起伏を感じられて良かったなと。
 ではなにが問題だったのか。私が思うに本作の問題は、偏に『ルートの多さに伴う各ルートのボリューム不足』であったと考えております。……普段の私を知っている方々の中には、「いや、普段お前、”ボリュームは少なくてもきっちり纏まった面白い作品はあるのだから、ボリューム自体で作品の良し悪しを語るのはナンセンス”みたいなこと言うとるやんけ」とツッコみたくなる方々もいらっしゃるかもしれませんが、どうか落ち着いてください。たしかにその言に嘘偽りは無いのですが、本作は本当に各ルートのボリュームが足りていないんですよ。だって、個別ルートだけでも13個あるのに、それが普通のフルプラよりも少し多いくらいのボリュームに収められているんですよ? しかもこれはプレイすれば分かりますが、ところどころディテールが曖昧で物足りない部分も散見されます。グランド√の一つである音夢√ですら終盤は描写も説明もすっ飛ばして「なんかよく分からないけどとりあえずハッピーエンドやしええやろ」みたいな〆方をしていました。また、せっかく発生したシリアス展開も、解決パートはかなりあっさりだったり、なんなら割愛されたりと拍子抜けだったことも何度か……。そこらへんもっと重厚にしてくれても良かったのではないのか?と思った次第です。

 総じて、シナリオ的にも面白くなるポテンシャルは持っていた作品だっただろうに、ヒロインの多さによって一つ一つのルートシナリオが若干疎かになってしまった感は否めないという感じですね。その点、シナリオライターさんこそ異なりますが、『D.C.II P.C.』は改善されていたのかなぁと思い返しながら考えております。
 まぁ、完全版になるにあたって追加されたヒロインとかの兼ね合いも考えると、少なくとも追加された個別ルートに関しては大層なことも出来なかったのかもしれませんね。致し方なし。

●キャラクターについて
■『朝倉 純一』について。主人公。魔法使いの血縁。かったるいが口癖。和菓子を出す能力と他者の夢を見る能力を所持。
 正直主人公としてはあまり好きなタイプではありません。能動的に展開を動かすタイプではない、典型的な『主観者』でしたからね。
 まぁただそれも、D.C.(エピローグ)にて枯れない桜本体から語られた彼の役割を聞いて一応納得はしました。あくまでも『みんなの背中を押す役』でしかないのであれば、そりゃ出しゃばれはしないですよね……。しょうがない……。

■『朝倉 音夢』について。純一の義妹。風紀委員所属。
 義兄である純一への愛が天元突破レベル。他の記憶や自身の命と引き換えに、義兄との記憶や想いを抱き続けようとしたワケですからね。ヒロイン力だけなら本作随一でしょう。
 巷では音夢を邪魔者扱いする風潮が見られますが、少なくとも本作からは邪魔者という印象は受けませんでした。アニメだと邪魔をする描写が目立ったんでしたっけ……? 思い出せない……。

■『芳乃 さくら』について。純一と音夢の幼馴染。魔法使いの血縁。
 個人的にはD.C.IIにおけるさくらさんの印象が強いので、本作で年相応の彼女を見ることが出来たのは嬉しかったです。グランド√としてはやはり彼女のルートの方が好みですが、D.C.IIへ繋がる正史はあくまでも音夢√なので、その点が心苦しいですね……。このもどかしさを抱くことが出来ただけでも、本作をプレイした価値はあったなと思えます。

■『白河 ことり』について。学園のアイドル。他者の心の声を聴く能力を所持。
 アニメを観ていた頃には気づきませんでしたが、彼女ってこんなに可愛かったんですね。全然そんな印象が無くて驚きました。……或いは、アニメ視聴当時の私に見る目が無かったのか……?
 絵に描いたような良い娘ですよね。外見からだけでなく内面からも『学園のアイドル』であることを納得出来るキャラクターだと思いました。

■『水越 萌』について。眞子の姉。一日の大半を睡眠に充てる。
 おっとりしてどこか抜けている先輩という外面の裏には、重い事情を抱えて睡眠薬を常用しているという顔があったというギャップに驚かされました。
 彼女の問題が彼女の個別√でしか解決されないのももどかしいですね。

■『水越 眞子』について。萌の妹。純一と杉並の悪友。
 なんだか一番等身大の恋愛をしていたような気もします。
 こういう娘が案外最も結婚相手として最適だったりするのです。

■『天枷 美春』について。機械工学の権威である博士の娘。ロボットのモデルでもある。風紀委員所属。
 オリジナルの美春もロボットの美春もどちらも良かったですね。天真爛漫で、こういう娘が友達だと学園生活が数段明るくなるのだろうなぁと。

■『胡ノ宮 環』について。純一の幼馴染。神社の巫女。予知能力を所持。
 学園内で巫女服を着て矢を放つキャラクターはなかなかに個性的です。
 自身の存在について考えるというのはあるあるですよね。

■『月城 アリス』について。お嬢様。友達が少ない。
 あまり表情に出さないながらも感情を伺えるのっていいですよね。

■『彩珠 ななこ』について。学生漫画家。
 現代ではほぼ絶滅してしまったように思える緑髪&メガネ枠です。
 描きたいジャンルを描かせてもらえないのはつらいよね。わかる。創作者としての悩みという点で共感できるキャラクターでした。

■『紫 和泉子』について。宇宙人。ピンク熊。
 中身がとても可愛らしくて驚きました。何気に中身を見たのは初めてだったんですよね。

■『工藤 叶』について。純一と杉並の悪友。男装した女性。
 男装時と本来の姿の際で口調や所作が変化するの、良いですよね。
 祖母を自身の力で説得しきったの凄い……。

■『鷺澤 頼子』について。おどおど気質のネコ耳メイド。
 嗜虐心と庇護欲をそそります。こんなメイドさんと暮らしたい人生だった……。
 おどおど気質のネコ耳メイドさんというのも属性として強いですよね。しかし本作が発売された時代の作品って、このような『The・属性』って感じのヒロインが多いような印象も受けます。その観点からすると、この時代においては頼子さんのキャラクター性もまた”普通”だったのかもしれませんね。

■『霧羽 香澄』について。幽霊。
 こういうさっぱりしたヒロインも良いですよね。属性的にもあんなオマケ程度のシナリオでしか登場しないのはもったいないと思いました。純一や杉並とも良い悪友としてつるめそうだったのに……。

■『杉並』について。純一や叶の悪友。オカルトマニア。非公式新聞部所属。トラブルメーカー。
 相変わらずの杉並。しかしD.C.IIの杉並とは大分性格も違うんですね。各ナンバリングにおいて、未だに同一人物か子孫かで意見の分かれる存在ではありますが、私はどちらでも面白いし通用もするなぁと思いました。

おわりに


 『D.C.P.C.』感想、いかかだったでしょうか。
 春だからと4月から始めた本作ですが、なんだかんだ7月までかかってしまいましたね……。もうすっかり夏です……。まぁ、それでもギリギリ初夏に終わらせられて良かった……。

 次にプレイする作品は、『MECHANICA -うさぎと水星のバラッド-』を予定しております。
 (次に投稿する記事は別作品の感想かもしれませんが……)

 それでは✋