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『MECHANICA -うさぎと水星のバラッド-』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『MECHANICA -うさぎと水星のバラッド-』


 本ブログでもおなじみの同人サークル『Loser/s』さんが、2020年に世に送り出した作品です。個人的にはLoser/sさんの作品はどれも大好きなので、本作にも非常に期待を寄せております。
 ジャンルは『セクハラ×サイバーパンク 音楽×RPG』とのことで、一風変わっておりますが、一体どのような内容となっているのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 『MECHANICA―――うさぎと水星のバラッド』の世界は時折陰鬱で、同時に希望に溢れています。
 遠い未来の世界はあなたの知らない物ばかりで、奇妙さを覚える事もあるでしょう。

 しかしこれは、世界の崩壊を愛と勇気で食い止める、伝統的な物語です。
 日常を愛して下さい。目の前に居るあなたに忠実な従者と、彼女を取り巻く人々を愛して下さい。

 ―――古臭いサイバーパンクと、うさみみのメイドは好きですか?

 水星へようこそ! あなたの旅を楽しんで。

 引用元

所感


 素晴らしい作品でした……!
 没入出来る世界観、魅力的なキャラクター、メリハリのある展開、退屈さを感じさせない日常パートシナリオ、豊富なエロシーン、RPGとしての面白さ、雰囲気溢れる演出、そして『Loser/s』作品ファンへのサービス。何を取っても高水準な作品だったと言えます。同人作品としてのレベルを遥かに凌駕した作品だったと言っても過言ではない。それほどまでにクオリティの高い作品でした。

 ただ本作、正直なところ『Loser/s』作品初見の方には決してオススメ出来る作品ではありません。もちろん続きものではない以上、単体作品としても成立しています。しかし本作、個人的には『Loser/s作品の集大成』というか、「Loser/s作品シリーズ第一部・完!」というイメージの作品なんですよね……。それほどまでに本作以前の作品との親和性が強い。要は、本作以前の作品を履修しているか否かによって、本作の評価には数倍レベルの差異が発生するものと考えられるのです。そのため、本作に興味をお持ちの方は、ぜひ本作以前の作品に触れてから本作を手に取っていただきたく思います。……皆さんも、どうせなら最大限の面白さを享受したいですよね?

~以下ネタバレ有~
~LOSER/S作品全てのネタバレを含みます~











総評


●シナリオについて
 <所感>にも記述しましたが、あらゆる要素において極めて高水準な作品であると感じました。
 そんなあらゆる要素の中でも私は特に、『退屈さを感じさせない日常パートシナリオ』を評価したい。退屈さを感じさせない日常パートを書くのって、非常に難しいんですよね。まぁその原因としては、ワンパターンだったり冗長だったりシンプルに滑っていたりという要因が挙がるワケですが……。しかし本作は、RPGという特性も上手く利用することで、前述したような退屈になりがちな要因をほぼほぼ潰しています。テキストが地続きではなく、基本的に移動と会話イベントの繰り返しになるので、冗長になりにくく日常会話のテンポも良くなる。さらに、イベントも多種多様で、イチャイチャするだけでもイベントごとにちゃんと主題が用意されている(イベント名に明示されている通り)。非常に巧みな構成だと感じました。というか、エロシーンですらシチュエーション数の暴力ですからね。性癖の博覧会かと思いましたよ。よく考えられている。捻くれた性癖を数多く持つ私もこれには満足でした。
 あとは、やはりRPGだったこともあって、最初から最後までずっと『楽しい状態』が続いたのも本作の大きな魅力でしょうか。本作、基本的には日常を満喫しつつも、様々な住人とのイベントを熟していくことによって宇宙崩壊の謎を追う作品となっているのですよね。この二面性もまたポイントというか……。日常シーンが面白いということは上述した通りですが、本作は謎を追うパートもまた面白いんですよね。おそらく完全ノベルゲーム形式であったとしてもある程度面白いシナリオではあったのでしょうが、それはそれとして本作の謎を追うパートはRPGとの親和性も高く、上手くマッチした構成になっているなと。本当によく作られている。また、キャラクターも魅力的なんですよね。本作では謎を追う中で一人一人のキャラクター(住人)の身の上話を聞いていくことにもなるのですが、これが一人一人ちゃんと何かしら特有の悩みが用意されている。モブに取って付けたような悩みでは決して無い(最終的な展開を見ればそれも納得なのですが)。こういう、『捨てるキャラが一人もいない作品』ってとても良いんですよね……。私は大好きです。

 展開については、相も変わらず終盤の怒涛の盛り上げが凄かったなと。さすがにアツさでは『うさみみボウケンタン』に軍配が上がりますが、それでも本作も関わってきたキャラクター達の想いと共に巨大な敵を打ち倒すという展開で非常にアツかったなと思っております。ただまぁ、ラストバトルの〆方は若干あっさりしすぎていたのかなぁとも思ったり。少々スッキリした終わり方とは言えませんでした。

 ……というか本作、『Loser/s』作品ファンへのサービスシーン多すぎませんか……? ラストバトルのあの一枚絵のシーンとか、本作以前の作品を全て履修している人間にとってはもう……ヤババですよ……? 私とか涙と汗でヤババでしたよ……? 今も思い出して語彙力溶けてますよ……? ……いやまぁ、本作で私の感情が限界を迎えるなどということは今に始まったことではなく、私はそもそも本作再序盤の城に存在した墓を見ただけでいきなり感情がぐちゃぐちゃになっていましたけれどもね。
 とまぁ、本作って<所感>でも表現した通り『Loser/s作品の集大成』という側面もあったのかなぁなどと考察したレベルで過去作ネタが多かったワケなのですが、逆にLoser/s作品初見の方々は一連のソレを見せられて一体何を感じたのでしょう。興味深いですね。

●キャラクターについて
※多すぎるので、主要キャラクターと+@のみ。

■『主人公』について。魔法の音楽家。上位存在であるユーザーと同調することが出来る『主人公』。
 ちゃんと我を持った主人公でとても好感を持てます。自身で意志決定を下し、罪を背負う覚悟を決め、弱いなりに力とは別の方法によって第一線で貢献する。素晴らしいです。
 作中では何度か「『陰気臭い探偵』と似ている」と言及されていましたが、やはり養老青葉の要素を継承しているキャラクターだったりするのでしょうか。

 あと、『主人公』という概念は、『探偵』や『笛吹』、『狂客』のような異常と同様の属性なんでしょうかね? ラストバトルで『主人公』というキーワードと共に椎名宗吾や養老青葉、桐原龍平が力を貸したあたり、本作以前の作品で主人公を務めたキャラクターはみんな『主人公』という異常を保有していそうです。であれば、本作の主人公が養老青葉という『主人公』属性持ちをベースとして産まれた存在であったとしてもおかしくはない……のか?
 まぁ、特に言及はありませんでしたが、最もコストの高い曲のポエムが明らかに養老青葉の人生を詩っているので間違いないと言えば間違いないんですがね(天使を破壊した下りも、うさみみボウケンタン外伝小説で言及があったハズ)。カラスとも呼ばれていますし。


■『カニ』について。高性能メイドロボ。主人公のメイド。うなさかが作り出した主人公のガーディアン兼ビーコン。
 好感度ごとの態度の差が凄いけれど、そこに魅力を感じます。というか、本来エロゲではこういう態度の移り変わりを描いて欲しいんですよね。
 こんなメイドさんが欲しい~~~~。

■『サニィ・ラブグッド』について。基幹次元の概念を破壊した夫妻の娘。
 貧乳ヤッター。
 メカニカ以外のヒロイン3人の中では最も重い悩みを背負っているヒロインでしょう。
 ループの度に、3日目に何度も何度も人知れず死んでいたことを知った際は、とても心が苦しくなりました。
 だからこそ、主人公がカタを付けた後に街を出る決心をした彼女は、どこか吹っ切れた様子で輝いて見えましたね。

■『スズキ』について。サキュバス
 ドエロイ。
 サキュバスとしての悩みを持っているだけあって、色気の暴力のような存在です。しかしそれだけでなく、どことなくあどけない点がギャップとなっており、さらなる魅力を生んでいます。
 こんな娘に誘われたら辛抱ならんぞ。

■『ケルフィ』について。主人公の幼馴染。
 こういう、気の置ける悪友ポジションの女性って良いですよね。そんな十数年もの付き合いの友人と肉体関係の仲になった際のあの何とも言えない距離感もまた良い。

■『マスター・メメメメ』について。獅童宗谷でありバナナ・オイル。『狂客』の異常者。黄金の獅子。不死のギフトホルダー。
 相も変わらず皆勤賞。本作でもかなり重要なポジションにいますね。というか、彼がいなければ普通に宇宙滅んで終わりでしたよね。
 電信柱協会の面々を見るに、『うさみみボウケンタン』後に彼が旧友たちと再会するエピソードもあるハズなので、ぜひ読んでみたいですね。周囲の友人がどんどんと先に死んでいく彼にとって、電信柱協会の面々との再会はどれほど嬉しいことだったのか。その反応を見たいのです。
 それはそうと、彼を表現したポエムも泣けるんですよね……。


■『アサガオ』について。電信柱協会の最後の生き残り。養老朝顔。『笛吹』の異常者。本作における影の功労者であり英雄。
 正直、彼が登場するのは完全に予想外でした。Sessionsの頃からすると考えられない程の大出世です。何があって彼はここまでの力を持つに至ったのでしょうか……。兄である養老青葉に憧れて、気が付けばここまで来ていたとのことですが……。となると、少なくとも朝顔は青葉が天使を破壊する場面にも立ち会っていたりしたのでしょうかね。
 例の如く、彼を表現したポエムも泣けます。おやすみ。いい夢みてね……。


■『インレの黒ウサギ』について。黒幕。別次元の生命体。4億強の人間の集合体。
 登場シーン自体が少なかったのであまり語ることはありませんが、草ちゃんへの想いは本物だったのでしょうね。彼女の内に残る、ほんの僅かな人間性がソレだったのでしょう。
 ちなみに、黒ウサギであることに何か意味はあったのでしょうか。黒い兎と聞くと、どうしても獅童宗谷の嫁だった宇佐美兎子が頭に浮かびますが……。あと、序盤の城の墓にも『黒ウサギ』という字面はありましたよね。その点、疑問が残ります……。

■『廃道響』について。恋愛探偵。
 養老青葉とはまたレベルや系統の異なる『探偵』の異常者でしょうね。彼の思い描いた真相自体がそのまま現実となってしまう異常。他人からしても自分からしても厄介な異常でしょう。まぁ実際、宇宙では煙たがられていたみたいですが……。
 廃道を匿っていたのは養老朝顔とのことですが、廃道についても可能であればもっと深く知りたいですね。やはり電信柱協会周りのエピソードは発表して欲しいなぁ……。
 そういえば、廃道のカラーリングというか、髪や服に模様の入ったデザインはどこか『少女を監禁する事情』の時代におけるキャラクターを彷彿とさせますね。廃道だけがこのようなデザインだったのですが、何か関係があるのでしょうか?

■『マサヨシ』について。正義揚羽であり正義葵。
 主要キャラクターではありませんが、個人的に言及したいので挙げました。
 おそらく『Sessions!! 少女を監禁する事情』をプレイしていなければまず気にも留まらないキャラクターでしょうが、既プレイユーザーだとそうはいかないというか、実は彼女の登場場面は感動ポイントだったりするワケなのですよね。
 おそらく彼女の傍にいた『カニだかヤドカリだかを名乗る生命体』は、カタツムリなのですよ。洞窟にいた生命体のセリフ的に間違いないと思います。んで、そこが肝なのです。彼女は『少女を監禁する事情』の時系列では敬愛する『蝸牛 朝日(カタツムリ アサヒ)』という人物と行動を共にしていました。しかし、『元強盗、探偵の助手をする』の時系列では、「大好きな人を探している」と言い残しています。要は、蝸牛朝日を何百年も探しているワケです。ちなみに、その後彼女が蝸牛朝日と再会出来たか否かは全く言及されていませんでした。

 そこに、本作におけるこれですよ。苦節何千年かかったのかは分かりません。次元だって超えたでしょう。その先で彼女は、成れの果てではあれど大好きな人と再会することが出来たのです。これが感動ポイント以外の何だと言うのでしょう。

 ちなみに、朝顔との会話後、カタツムリとは一度まともに会話することが出来ます。そこから、元々電信柱協会の面々と面識のあった人物であることが伺い知れます。……まぁ、あの年代の蝸牛朝日がどのタイミングで養老朝顔と知り合ったのかはよく分かりませんが。


●テーマ・メッセージについて
日常を愛せ
 これに尽きるでしょう。というか、作中でも度々登場するキーワードですからね。
 本作に登場するキャラクターは、モブ(ということも憚られるほど魅力的なキャラクター達)含めて全員何かしらの悩みを抱え、主人公とのイベントを重ねることで各々の何かに”納得”し、最終的には前に進みます。ただ楽しく過ごすことも『日常』だし、そうやって一度立ち止まりながらも再び前に進むこともまた『日常』なのだと。そして、そんな『日常』を愛し続けた先にあるのが、本作の結末にあるような『強さ』なのだと。
 ……本メッセージ、基本的には電信柱協会の面々が主人公にかけるメッセージなんですよね。ユーザー側としては、彼らが本作以前の作品で送っていた日常を知っているワケですから、尚更感じ入るモノがあります。もう、”あの日常”は無いんだなって……。もしかしたら、電信柱協会の面々は、既に自らが失ってしまっているからこそ、今を生きる面々に日常を失ってほしくなかったのかもしれませんね。

おわりに


 『MECHANICA -うさぎと水星のバラッド-』感想、いかかだったでしょうか。

 ちなみにこれで、ノベルゲーム媒体の『Loser/s』作品は全作完走となります。あとは小説の『シリアルキラーは振り向かない』が半分残っているのと、新作小説の『運命の人は、嫁の妹でした。』を積んでいるくらいですかね。それらも近々読了したいです。

 次にプレイする作品は、『そして明日の世界より────』を予定しております。

 それでは✋