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ノベルゲーム感想と思考出力

『無限夜行』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『無限夜行』


 同人サークル『ウミユリクラゲ』さんが2010年8月に世に送り出した作品です。パッケージ版はプレミアがついているので、一部界隈では有名作かもしれないですね。
 恥ずかしながら私、数年前に本作を知ってからずっと本作がフリーゲームとして公開されていることを知らず、パッケージ版を入手することでしかプレイすることが出来ないと勘違いしておりました。そんな矢先、先日やっとこさ本作がフリーゲームとして公開されていることを知ったため、今回着手しようと思い立った次第です。

 本作に向けて他のウミユリクラゲ作品は(おそらく)全てプレイ済みなのですが、ウミユリクラゲ作品が持つ特有の雰囲気は非常に好きなので、本作にも期待を寄せています。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

 ※ 本作はフリーゲームです。興味のある方はぜひ以下リンクからダウンロードし、プレイしてみてくださいね。
www.freem.ne.jp

あらすじ


 うだるように熱い夏の夕暮れ。

 十歳の悠太は兄と二人、祖父母の田舎へ行くために列車に乗った。

 だが、
 幼い兄弟の乗ってしまったのは
 「無限夜行(むげんやこう)」と呼ばれる奇妙な列車。

 常闇のように黒い列車は生き物のように意志を持って、
 夜から夜へと気まぐれに走り、
 二人を見知らぬ異界へと連れて行く。

 眠らず雑多にきらめく市場街「烏の街」。
 浮かばれないホタル達の浮かぶ「蛍の辻」。
 そして、誰もいない夕焼けの住宅街「路地迷宮」……。

 「切符泥棒」に切符を盗まれてしまった兄弟は、幼馴染の少女・千夏と再会する。

 「忘れること」と「思い出すこと」
 少年達はどちらを選ぶのか。
 そしてこの奇妙な旅の終着駅は―――

 引用元

所感




~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 展開的な面白さが突出しているワケではないものの、ひたすらに没入度の高い作品でした。完走時の余韻が非常に心地良かったです。
 設定から受ける印象としては『銀河鉄道の夜』が近いですが、作品の纏う空気感から受ける印象としては『千と千尋の神隠し』が近いでしょうか。日常と少しズレた幻想的な見知らぬ土地。そういう場所に対して抱く期待と不安のせめぎ合いのような感覚。そういったものを本作からは感じられたのかなぁと思っています。ウミユリクラゲ作品としての持ち味を最大限に活かした作品に仕上がっていたと言えるでしょう。

 とはいえ本作、なにもただただ幻想的で美しかったというだけの作品ではありません。むしろ根底にあったのは、そんな要素とは真反対に位置するであろう『非情な現実』です。個人的に思う本作の凄いところはここなんですよね。『容赦なく牙を剥く現実的要素』と『設定・雰囲気から醸し出される幻想的要素』の両方を兼ね備えた作品でありながら、本作ではそれらが決して喧嘩をしていないんですよ。それでいて、しっかりと物語として成立している。現実と幻想が良い塩梅のバランスで調和し、互いに補完し合っているのだろうなと感じました。私は本作のここが大きな魅力であると考えています。

 『非情な現実』の要素としては、裏の主人公であった深川啓介を取り巻く環境が挙げられます。学者肌で周囲とはズレた存在だった啓介は、小学校ではイジメられ、家では弟である悠太からぞんざいに扱われるような環境で育ちました。多様性などという価値感とは程遠い子供の排斥志向は恐ろしいものですが、啓介は絶好の的となってしまったようですね。両親もあまり干渉はしていないようであったため、終ぞ啓介には味方と呼べる存在がほぼいない印象を受けました。ここまででも充分に現実に蔓延る背景であると言えるでしょうが、本作のリアリティをより強固にしたのはやはりキャラクターたちの言動でしょう。特に悠太に関しては、フィクションのキャラクターとは思えない程にクソガキ感が満載でした。”着飾っていない”とも言い換える事が出来ます。要は、まるでユーザーに好かれることを放棄したかの如くリアルなクソガキ性を発揮していたというワケです。いるよね、こういう子供……。悠太に限らず、目の前のことで周りが見えなくなって明らかな危険すらも回避できなかった千夏の行動や、イジメで捻くれてしまった啓介の思想など、本作には良い意味でも悪い意味でも着飾らないリアルな子供らしさが描かれていました。そういう細々とした『リアルな子供らしさ』という要素が、本作のリアリティをより強固にしたのではないかと考えております。

 『個性の否定』という社会通念を本作から感じ取り、一度は「それを肯定する気じゃないだろうな」と不安にもなりましたが、なんとか納得する形で着地してくれてよかったなぁという気持ちです。あの展開からよくぞハッピーエンドに持って行ってくれた。

●キャラクターについて
■『深川 悠太』:主人公。啓介の弟。
 空想に耽る癖を持つ少年。他者の顔色を窺って要領よく生きるというタイプは長兄よりも末弟に多い印象を受けます。彼もまた例に漏れずといった感じか。
 絵に描いたようなクソガキであり、非常に利己的な子供であるため、将来が心配ですね……。でもこういう子供って実際けっこういますよねぇ……。
 最後に啓介に謝ろうと思った動機ってなんなんでしょうね。潜在意識から無限夜行に千夏を呼んだことにしてもそうですが、無意識下では啓介に対する罪悪感もあったということなのでしょうか。

■『深川 啓介(醒ヶ井)』:裏の主人公。悠太の兄。
 ひたすらに可哀想な存在。個性を否定する社会の被害者。どうしても私は彼に肩入れしてしまいます。
 小学生の身で世界からつまはじきにされておきながら、よくもまぁあそこまで精神を成長させることが出来たものだと感心しました。
 彼の旅の続きも、何かの機会に観てみたいですね。

■『浅田 千夏』:悠太の幼馴染。故人。啓介との口論が原因で亡くなった娘。
 悠太から啓介に関する愚痴を聞かされておきながら、決して悠太に引っ張られることなく啓介を人の輪に加えようとし続けた聖人。とはいえ、悩みを突かれて涙目になったり、リスクマネジメント無しに行動して亡くなってしまったりと、子供らしさも兼ね備えていました。
 蛍の共鳴の話は、今思えばきっと彼女の人間関係に関する価値観に強く紐付いた話だったのでしょうね。啓介は元居た世界の外側とはいえ人の輪には入れているようですから、きっと千夏の願いは果たされたのだろうなと。

■『』:悠太の空想上の兄。悠太にとっての兄の理想像。
 本作で唯一無念なままに終わってしまった存在。自らの存在理由に拘ったが故に自らの存在理由からかけ離れてしまったという結末はあまりにも皮肉が過ぎる。自らの存在確立のために殺そうとした啓介からのみ”理解”され、手心を加えられるというのもまた皮肉ですよね……。
 そういえば、キャラクター紹介で悠太以外との関係に関する記述が伝聞系なあたり、これも伏線だったのかなぁとか思ってみたり。

■『無限夜行』:数多の世界の夜を駆ける不思議な列車。
 あえてキャラクターとして言及します。
 意志を持った列車。有する特性や作中における挙動からして、人情深い性格のキャラクターであることが推察出来ます。その背中にはきっと、多くの人の願いを背負って奔っているのでしょう。しかしきっとその旅は楽しいものなのだろうなと。

おわりに


 『無限夜行』感想、いかかだったでしょうか。

 ウミユリクラゲさんの作品はどれも特有の雰囲気を醸し出していて良いですね。既に解散されているのが惜しい。
 それはそうと本作、配信開始日が8/13────つまりお盆シーズンとなっておりますが、これは意図したものなのでしょうかね。

 次にプレイする作品は、『Delete』を予定しております。感想記事を書くかは分かりません。

 それでは✋