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ノベルゲーム感想と思考出力

『G線上の魔王』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

G線上の魔王
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 エロゲの名作として名高い作品ですね。エロゲーマーであればほとんどがタイトルは知っているレベルの知名度を誇っています。
 「さすがにそろそろ崩さねば……」と思い、この度積んでいた本作に手を付けました。冬ゲーでもありますからね。時期的にもぴったりでしょう。
 それはそうと私、本作ライター『るーすぼーい』先生の作品といえば、『無能なナナ』のアニメ版にしか触れたことがありません。そのため、実質直にるーすぼーい先生の作品に触れるのは初めてということになります。そういった意味でも楽しみですね。るーすぼーい先生の作品は、果たしてどのような作風なのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 真冬。
 粉雪の舞う大都市に”魔王”が出没した。
 望みは、無論、人間社会の崩壊である。

 主人公・浅井京介は、学園に通うかたわら、養父のビジネスを手伝って、
 存外な大金を動かしていた。
 傲岸な養父に影響を受けた彼は、才能を余すところなく発揮して、
 ついには有名企業のブレインとしての顔を持つようになっていた。
 けれど、彼は普段はクラシックを愛するひょうきんで明るい青年である。
 クラスメイトの椿姫と義理の妹の花音、親友の栄一に囲まれながら、
 楽しい学園生活を送っている。

 そんな京介の平凡な日常にも、危機が迫っていた。
 花音の出場するフィギュアスケートの全国大会が脅迫され、
 椿姫はずっと守ってきた住居から立ち退かされる。
 学園では謎の集団が人質を取って立て篭り、
 市内でも富裕層の子供たちが次々と失踪していく。
 一連の事件はすべて、地下都市を根城とする”魔王”の仕業だという。

 そんなとき、一人の少女が訪ねてくる。
 少女は、正体不明の”魔王”をあぶりだすべく、
 頭脳を駆使した心理戦をしかけていった。
 流れるような長髪の美少女、宇佐美ハル。
 彼女こそが、京介の忌まわしき少年時代を、ともに戦ってくれた”勇者”だった。

 十年ぶりの再会────
 いま、命をかけた純愛ドラマの幕が上がる────

 引用元

所感


 道中では度々文句を吐いたり悪態をついたりしましたが、終わってみれば良作だったなと感じております。
 典型的な尻上がりタイプの作品であり、完走することで初めて本作を評すことが出来るのかなとも。
 頭脳戦としては少々見劣りする部分やシナリオを成立させるために少々根拠や展開が強引になっている部分もたしかに見受けられました。しかしそれはそれとして、シナリオに読み応えがあったこともまた確かです。結局のところは、長所と短所のどちらに強く焦点を当てるかによって、評価が大きく変わる作品なのでしょう。
 一先ず私から言えることは、本作は『純愛』を謳う物語としてそれを全うしてくれたということ。これに尽きます。……嘘です。尽きません。本パート以降のネタバレゾーンで大量に語っています。まぁ、色々と想うところがある作品ってことですね。

 まだ未プレイの方、季節もちょうど良いので、ぜひプレイしてみてくださいね。

~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通りです。
 椿姫√➡花音√➡水羽√➡ハル√

 ※各ルート感想は、対象ルートを完走する度に記述しています。そのため、ハル√に至るまでは感想上でも完全にミスリードに引っかかっておりますが、どうか温かい目で見守ってやってください。……いや、超恥ずかしい……。

 

共通パート

 厳密にはどこまでを共通パートと言っていいのかが分からないので、とりあえず魔王の正体が主人公であることが判明するところまでを共通パートとして扱います。

 正直、共通パートだけだとお世辞にも面白いと言うことは出来ませんね。引き込まれません。
 特に、魔王とハルの頭脳戦レベルが低かったのは残念でした。魔王の口ぶりからして軽いジャブのつもりではあったのでしょうが、それにしてはたかだかあのレベルの謎を解けたくらいでハルを『無視できない敵』と認めていますし……。いや、作中で示された解法よりも遥かに簡単な方法でプレイヤーの私は解けましたけど……? こんな思考レベル”下”の私ですら解ける謎で敵のレベルを推し測るのは如何なものかと……。魔王さん、貴方大層な黒幕なんでしょ……?

 そもそもの話、魔王の正体が主人公であることも、本作最序盤の主人公起床シーンで予想出来てしまいましたからね。人格が分かれていることまで含めて。むしろ隠す気ないでしょとも思っていたんですが、それにしてはけっこう長く引っ張りましたし……。その点でも微妙な感情を抱かずにはいられませんでした。

 個別ルートでは頑張って欲しいですね。

三輪 椿姫√

●シナリオについて
 面白い部分とそうでない部分が両極端でしたが、本ルート全体としては満足しています。地獄のような主人公の家庭的境遇と幸福で温かな椿姫の家庭的境遇の対比が良く表現されていたのが印象的でした。

 終盤に差し掛かるまでは、『強者に尻尾を振る事しか出来ない主人公』と『社会の闇を知らないままにぬるい発言をする椿姫』のどちらにもイライラさせられたものでした。しかし、主人公は最後の最後でしっかりと権三に抗って"魅"せましたし、椿姫はその突き抜けた『善』を最後まで貫いて"魅"せました。積もり積もったマイナスがひっくり返る瞬間は、何とも心地よいモノですね。終盤は本当に盛り上がりました。

 権三に対する主人公の抗い方が非常に良かったんですよね。
 あそこで『親の良心』みたいなモノが発動して権三が折れるみたいな生温い展開を見せられていたら、私はきっとブチギレていたでしょう。本作の評価も、最初のルートからして取り返しのつかないほどにドン底だったに違いありません。
 しかし権三は期待通りに冷酷な極道を貫いてくれましたし、主人公は期待を越えた手法で権三に抗ってくれました。展開として素晴らしいのはもちろんのこと、この展開があったからこそ今までの『強者に尻尾を振る事しか出来ない主人公』とのギャップが生まれ、今まで主人公に抱いていたマイナスがプラスに転じたワケです。納得の〆でした。

 椿姫の性格に対しては、あまりにも綺麗事すぎて本当にイライラさせられてばかりでしたが、逆にそれを貫き通したからこそ好感を持てました。それも、ただ貫き通しただけではありませんからね。誘拐事件後に一度は堕ちかけて、それでも立ち直ったワケですから。自身が『本物の善』であることを証明したワケです。何の障害も悪意も経験せずに善人面を顔に貼り付けているそこいらの善人キャラとはワケが違う。彼女を描ききったるーすぼーい先生の手腕に脱帽です。

 ちなみに中盤展開では、やはり魔王への身代金受け渡しパートが面白かったですね。共通パートで魅せられたチンケな頭脳戦とは打って変わってどんでん返しの連続でしたし、魔王の戦法も良く練られていたと思います。警察巡回の多い南区で魔王が待機することには私も疑問を抱いていましたが、あれもちゃんと仕込んでのことでしたからね。

 ただまぁ、本ルートも良い点ばかりではありません。疑問点や不満点も残ります。
 疑問点としては、魔王が誘拐事件以降に出てこなくなった点とか、京介人格と魔王人格の切り替わりがあまりにも都合良すぎる点とか、京介人格と魔王人格間で引き継がれる記憶と引き継がれない記憶のラインが曖昧な点とかが挙げられますね。今後のルートで明言されてくれるといいんですが……。
 不満点としては、魔王が本ルートで行ったことが、実力に比べて遥かに小物臭い点が挙げられます。あれだけの存在でありながら、彼が本ルートでやったことと言えば、宇佐美と椿姫に対する”いびり”だけですからね。その点では肩透かしも良いところです。あらすじを見る限り、今後はもっとスケールの大きな目的が明らかになると思うので、それを信じて先のルートへ進みます。

浅井 花音√

●シナリオについて
 正直、少々気に喰わないシナリオでした。お世辞にも満足出来たとは言えません。

 本ルートは、『自尊心の塊であることに無自覚な母親』と『そんな母親の影響でワガママに育った娘』が、互いの在り方を見直す物語だったワケですが……。とりあえず物語構成という点では問題ありませんでした。ただ、どちらとも元々の在り方が極端すぎたんですよね。だからこそ上手く感情移入出来なかったというか。言ってしまえば本ルートは、『圧倒的に視野が狭く、自尊心のために無自覚ながらも娘を利用する母親』が自分の在り方を自覚して急に絶望・改心し、その一方で『全てにおいて自分は悪くないという考え方だったワガママ娘』が更生して人に感謝と謝罪を出来るようになる物語なワケです。たしかに母子ともに成長する話(或いは花音が成長して大人の対応を身に着ける話)ではありますが、成長する以前が何ともなぁと。キャラクターの成長に対して感情移入するためには、そもそも対象キャラクターが応援したくなるようなキャラクターじゃないと厳しいんですよね。応援したいとも思っていないキャラクターが成長したところで、「お、良かったね」で終わってしまいますから。
 たしかに母子ともに背景はしっかりあって、特に娘の花音は共通パート時点では想像だに出来ないレベルの深いキャラクターでした。花音に関しては、精神的な成長具合も目を見張るモノがあったとは思います。というか、本ルートはそれが肝だったのでしょう。しかし、彼女たちの境遇を知ったところで、私は同情することしか出来ませんでした。また、花音の成長を目の当たりにしたところで、「頑張ったね」とは思いつつも感動にまでは繋がりませんでした。それほどまでに、感情移入を拒んでしまうような母子だったワケなのです……。
 ただまぁ、それでも強いてこの母子に関して良かった点を挙げるならば、歪な母子としての相違点と共通点が上手く共存していた点が挙げられます。花音の母親は、自身の自尊心のために何でも利用する人でした。自分がよく見られるためには誰であれ何であれ媚び諂ったワケです。んで、花音はそんな母親の在り方を嫌い、極端に真逆の方針を徹底しました。これが、『誰にも頭を下げない』という在り方だったワケですね。これが、母親と花音の相違点であり、本ルートの根幹にあった軋轢でした。しかしそんな一見真逆の関係にも、共通点はあるもので……。ズバリ共通点は『視野が狭い点』と『互いを甘やかしていた点』です。どちらとも実際に本ルート終盤で明言されるため、分かりやすいといえば分かりやすいですね。そんなこんなで、反発しているハズなのに在り方として共通している部分もあるあたり、やはり母子なのだなぁと感じられたため、この点は良かったと思った次第でした。

 展開的に良いなと思ったシーンとしては、『ハルVS西条』、『最後の花音の演技』、『三章ラスト(四章へ進む方への分岐)における魔王の犯行の種明かし』の3つが挙げられます。
 ハルVS西条では、西条側(実質魔王)の周到なブラフには驚かされましたし、西条確保時のハルはカッコ良いと感じました。
 最後の花音の演技は、思わず魅入りましたね。さすがにラストシーンだけあって力が入っていたなと。花音の成長の集大成として、よく描写されていました。
 魔王の犯行の種明かしは痺れましたね。ここまでの違和感を全て納得させてくれる計画だったことに加え、二章(椿姫パート)でハルの友人である椿姫を狙ったという事実が上手く利用されている点も上手いなと思いました。そして、魔王の犯行を見破っていた権三もまた只者ではない……。頭脳戦のレベルが上がってきていて嬉しいです。

 さて……。ここいらで本ルートにおける最も不満な点を一つ。
 ズバリ、主人公、本ルートで何を成し遂げた????
 私の目には、本ルートでの主人公は主人公ではなくただの主観者だったように映りました。西条戦に貢献していたのはハルであって、主人公は騙されてばかりでしたし、花音の成長に関しても何だかんだ花音が自力で自身の殻を破った印象を受けました。たしかに主人公が温もりを与えていなければ花音は壊れていたのでしょうが、逆に言えばそれくらいしか本ルートでの見せ場はありません。そのくせ、最後は一丁前に権三にイキッていました。虎の威を借りる狐ならぬ花音の威を借りる京介ですね。椿姫√ラストのカッコ良さはどこへやら……。というか、三章ラストで魔王の犯行を見破っていた権三の聡明さを見るに、なんで椿姫√ラストで主人公如きが権三から一本取れたのか、本ルートをプレイしてから分からなくなりましたよ……。ホント、あまりガッカリさせないでくれ主人公……。

 それはそうと、魔王人格も含めて主人公と言った方が良いんですかね?
 イマイチ京介人格と魔王人格の相互的な立ち位置が分からないんですよねぇ。本作序盤で魔王が「最近、浅井と名乗る人格があることを知った」的なことを言っていたあたり完全に別人的な人格なのかと思えば、秋元氏との会話の中で京介人格から魔王人格に自然とシフトしたような場面もありましたし……。他にも人格切り替わりのタイミングがやたらと都合の良い場面は多いですし……。そのくせ互いに記憶は引き継いでいない様子で……。かと思えば、椿姫√では魔王人格が学園での京介人格の交友関係および彼らとの接し方を把握していたり、三章ラストでは権三を狩れなかったことを京介人格からの切り替わり後に魔王人格が把握していたり……。しっちゃかめっちゃかなんですよねぇ。魔王人格が、京介の復讐心から創り出された人格であることは確かなのですがね。
 はたして、京介が深層心理上で半自動的にスイッチを切り替えているのか、或いは完全ランダムなのか、それとも魔王側がある程度自由に人格をスイッチ出来るのか……。どれなのかによって話は変わってくるので、今後ちゃんと掘り下げてくれることを祈ります。
 とはいえどのみち、主人公が恋愛感情に目覚めると魔王人格が消滅することはほぼ確定なんですよね。うーん……言い方は悪いですが、たかだか恋愛感情が芽生えたくらいであの凄惨な過去による復讐心が霧散するのかぁ……。なんだか味気ないなぁ……。

白鳥 水羽√

●シナリオについて
 水羽√・四章(水羽√でない方の分岐)共に面白かったです。四章はそれまでとは異なり、個別ルートが短く、メインルートの方にボリュームが割かれていましたね。

 水羽√は、椿姫√や花音√と比較すると圧倒的にあっさりとしており、展開もエロゲとしてオーソドックスな内容となっていました。しかし、故にこそなのか否か、これまでの展開の中で最も楽しんで読むことが出来たような気がしています。
 内向的ながらも健気に主人公を振り向かせようと頑張る水羽がなんともいじらしい。ユキの支援を受けながら水羽が主人公にアプローチする展開は、恋愛コメディとして私を楽しませてくれました。はと作品を読んでいる際にも感じることですが、やはり楽しんで読めることって大切ですよね。
 終盤の急展開と説明不足は否めませんが、その点はルートに入らない方の分岐で説明してくれるのだろうなと思っていたので、特に気になりませんでした。
 本ルートをBad end含めてプレイしたからこそ、私も最初は裏があると疑っていたユキを信じたのですがね……。

 というワケで、四章について。
 ものの見事に騙されました……。こちらの分岐で発覚したのは、『ユキが魔王の一味』という真実。それも、橋本を使った立て篭もり事件の首謀者であったとのこと。……いや、完全に意表を突いて来ましたね。水羽√で完全に信用しきったところにこの爆弾は予想出来ませんよ。最初に疑っていて、水羽√で疑いを解いたというプロセスがあるだけに尚更です。
 本章でのバトルは、頭脳戦というよりは交渉という側面が強い内容でした。そのためか、バトル自体において、ユキに関する事実発覚以外に目を見張る展開はありませんでした。しかし、最後に主人公がなりふり構わず権三を人質に取る展開では心躍りましたね。椿姫√ラストのカッコいい主人公再来です。逆にあそこで権三に怖気づき、ユキと水羽を見殺しにしていたら、いよいよ以て修復不可能な程に主人公を嫌いになっていたでしょうね。そうならなくて本当に良かったです。

 さて、本章の〆方からして、いよいよ大詰めという感じですね。本作がいったいどんな終わり方を迎えるのかは未だに想像がつかないため、ここから先は非常に楽しみです。
 さぁ、名作たる所以を見せてくれよ……!!

宇佐美 ハル√

●シナリオについて
 完ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ全に騙されましたァ!!
 ものの見事にミスリードに引っかかっていましたね。ライターの掌の上で弄ばれました……。
 というか、今まで感想上でも京介・魔王は二重人格ということを確定事項として記述していたので、めちゃくちゃ恥ずかしいです。

 さて。
 本ルートはメイン√(或いはグランド√)として、第5章および最終章によって構成されていました。どちらの章も、大変盛り上がりましたね。面白かったです。これには私の本作に対する評価もうなぎ登り。特に最終章は素晴らしかった。『恋×シンアイ彼女』という作品でも私は最終章で評価を爆上げしていますが、本作もそのパターンとなりました。

 ではまず第5章について。
 第5章はずっと面白かったです。常に緊迫した雰囲気に包まれており、主人公やヒロインがピンチになる場面も多い。その上、本章におけるバトルは、『”相手はこう考えるだろうからこう立ち回ろう”の応酬』という凝り固まった頭脳戦ではなく、『”如何に極限状態の中で頭を回して最適に立ち回れるか”という闘い』であったため、今までのバトルの中でも最も見ごたえがありました。確かに前者のような『裏をかきあい』も面白いと言えば面白いのですが、慢性的な面白さを得られるのはやはり後者のような常に不確定要素や緊迫感の中でひたすらに道を探るタイプです。いや、ホント最後まで面白かった。
 また、語る順番が前後してしまいますが、第5章中盤ではついに魔王の正体が明かされます。ちなみに本記事を読まれている方で、本作をここまでプレイしてきて、「魔王は主人公の別人格ではなく別人」であると確信を以て予想出来ていた方っていらっしゃいます……? 個人的には、そんな予想をあえて全くさせないようなレベルで緻密に練られたミスリードだったと感じました。しかし、確かに魔王の正体が主人公であるとすると納得出来ない点はちらほらとあったんですよね。例えば、『魔王の正体が京介だと判断されそうなことを魔王は平気で行っていた点』とか、『京介周辺の情報について魔王の把握が偏っていた点』とか。それらが全て納得出来たあたり、真相を目にした際の興奮は非常に大きかったです。ただ、それはそれとして疑問点も残ります。『主人公が誰かと交際を始めると、魔王が消える点』ですね。こればっかりは本当に謎です。むしろ主人公の別人格であった方がまだ腑に落ちました。魔王の復讐心は相当なものです。最終章を読めば尚更そう思います。だからこそ、主人公がヒロインと付き合い始めたからといって、手を引くワケがないんですがね……。

 それでは、最終章について。
 そもそも最終章の存在からして不意を衝いてきました。まさかあの展開から続くなんて思わないじゃないですか。ライターさんはなかなかに演出家ですね。私、もはや完走ツイート済ませてましたよ……。
 しかし、内容は素晴らしいものでした。最終章が有るのと無いのとでは評価が大分異なります。なにせ最終章は、今まで正直あまりパッとしなかった主人公────浅井京介が、”主人公として”男を魅せる章でしたから……。愛する女性のために、自らの全てを賭して挑む……。私、こういう内容が最後にくるの大好きなんですよ。
 また、最終章のラストでは、本作のキャッチコピーにもあった『純愛』が証明されました。遥か子供時代から続く恋愛感情。たとえ世間からは犯罪者として指さされようとも、想い続ける『愛の強さ』。いくら厚い壁が目の前に立ちはだかろうとも、決して穢れることの無い『純粋な愛』。まさしくこれこそが『純愛』なんです。私、『純愛』を謳う(或いは謳われている)作品で、『純愛』であると納得出来た作品は、本作が初めてかもしれません。

 京介、ハル、そして恭平。本当に、お疲れ様。

総評


●シナリオについて
 全体を俯瞰してみると、シナリオを成立させるために生じたであろう粗は点在しています。しかし、それを差し引いても面白い作品ではありました。
 事件と頭脳戦で展開を盛り上げつつ、日常シーンで緩急も付ける。ヒロインやサブキャラは魅力的であり、掘り下げも盤石。唯一パッとしなかった主人公も、最後にはしっかりと”主人公”であることを魅せつける。ミスリードやどんでん返しも巧みであり、”驚き”も充分。以上より、要点をしっかりと踏まえた作品だったと考えられます。名作と名高い所以がよく理解出来ましたね。

 ただまぁやはり、上述した『粗』は少し気になります。
 ミスリードによるどんでん返しを成立させるためなのか、主人公の病気の症状がタイミング等を含めて都合良すぎた点。頭脳戦をハイスピード且つコンパクトに成立させるためなのか、細かい過程をすっ飛ばすことで「それ本当に違和感あるか?」と疑いたくなるような根拠が挙げられる場面が点在した点。あれほどの復讐心を宿していた魔王が、個別ルートでは消える点(花音√では自ら身を引くとも取れるセリフを残している)。色々と挙げられます。
 その点がもう少し素直に納得出来るようなシナリオになっていれば、もっと手放しで評価出来たんですがね。さすがに求めすぎというものでしょうか。

 あとは、こうして完走してみると、メインであるハル√以外の立ち位置が気になりますかね。ハルとの『純愛』があまりにも納得のいくものだっただけに、他のヒロインと添い遂げてしまうルートがあること自体が、逆に本作の『純度』を落としてしまっているような気がしました。本作のコンセプトおよび内容的には、ハル√のみの一本道の方が良かったと私は考えております。……まぁ、こんなことをマルチエンディング形式のノベルゲーム作品に言ってしまっては元も子もないのかもしれませんがね……。

●キャラクターについて
■『浅井 京介』について。主人公。本名:鮫島京介。ヤクザの養子。クラシックマニア。
 椿姫√ラストおよび4章ラストから主人公として徐々に魅せてくれるようになりましたね。ただ、本作の大部分ではあくまでも”主観者”であり、主人公らしくはありませんでした。その上、あらゆる要素で中途半端感の否めない主人公でもあるので、手放しに好きな主人公とは言えません。母親を追い詰めた権三を、最終的には養父として愛していましたしね。まぁ、彼が中途半端(作中の言葉を借りると”柔軟”)だったからこそ、本作が『復讐の糸を断ち切る物語』としても成立したのでしょうが……。
 それはそれとして、最終章における主人公の決意と覚悟と行動は絶賛します。「ようやった! それでこそ主人公や!!」って感じです。

■『宇佐美 ハル』について。メインヒロイン。京介の実父を追い込んだ男の娘。元ヴァイオリニスト。
 4章まで京介以上の主人公感を纏っておきながら、本作ラストでは『純愛』を証明したヒロインでもあります。子供時代から京介への恋愛感情を捨てなかっただけでなく、投獄後の主人公を8年も待ち続けたほどの想いの強さ。京介は社会では犯罪者として扱われるワケですから、苦労は計り知れないでしょう。それを受け入れているという時点でも覚悟は凄まじい。加えて、彼女は7年もシングルマザーとして京介との愛の結晶である娘を育てたことになります。娘の京介への穢れなき態度からして、ハルは京介への恨み言など決して言わなかったことが想像出来ます。本当に素晴らしいヒロインだなぁと。
 ただ、ユキが復讐で殺人を犯すことには否定的だったのに対し、自分は魔王を殺そうとしていたというのは何とも矛盾しているなとは思いました。自分は殺人の重さを受け入れているけれど、親友にはそれを背負って欲しくないって胸中だったんでしょうかね。

■『浅井 花音』について。ヒロイン。京介の義妹。期待されるフィギュアスケート選手。
 正直最後まであまり好きにはなれませんでした。元々が極端なほどにワガママでしたからね。しかし、彼女が誰にも媚びず謝りもしない強情少女に育った背景には、散々周囲から利用されてきた上に、自尊心の塊で媚びまくる母の背中を見て育ったという過去があります。この点にはさすがに同情しますね。まぁ、だからこそ、そういった過去の柵を壊して成長するというシナリオに読み応えを感じられたのでしょう。
 ちなみに、初めて声を聴いた時には驚きました。声優さん的に、ね。

■『白鳥 水羽』について。ヒロイン。  ヒロインズの中で最も平凡な少女です。だからこそ本作の場合は目立つ。何も特別なものを持たないからこその葛藤には目を見張るものがありましたし、4章ラストでがむしゃらにユキをヤクザから庇おうとする姿勢には純粋な『姉妹愛』を感じられました。これも立派な『純愛』ですよね。
 ちなみにシンプルな可愛さという点でも、個人的には最も好きなヒロインです。

■『三輪 椿姫』について。ヒロイン。性善説の体現者みたいな存在。
 魔王による悪意と社会の闇を経験しても尚、Bad end以外のルートではそれを跳ね除けたほどの善人。ここまでくると常軌を逸しています。強さは感じられましたが、逆に少し怖かったです。
 それはそれとして、あのレベルの弟はちゃんとしつけないとダメだと思う……。

■『鮫島 恭平』について。魔王。京介の兄。
 復讐心に取り憑かれた哀しき存在です。大物クラスの実力を持ちつつも小物臭い行いが散見されるあたりが逆により人間臭くて良いのかなと(最初はその点が不満だったんですけどね)。
 最期まで『悪』と『復讐』を貫き通したのは魅力的でした。作中でも誰かが「結局人間は最期まで自分を貫く」的なセリフを言っていましたが、彼はまさしくその体現者だったでしょう。
 それはそれとして、父の借金や母の病院代を稼いでいたのが京介であることを無視して、一方的に京介に向けて「金のために母を捨てた」と恨み言をぶつけるのはなぁ……。復讐心によって盲目的になってしまった部分もあるんでしょうね。

■『時田 ユキ』について。魔王の共犯者。水羽の義姉。ハルの親友。
 彼女に関しても、なぜ水羽√で理事長への復讐を辞めてしまったのかイマイチ分からないんですよねぇ……。
 あと、最初のレズビアン的要素とは何だったのか。

■『浅井 権三』について。ヤクザの親玉。京介の養父。
 良い悪漢でした。やはりヤクザの親分キャラとしてはこういうキャラクターも見たかったんですよね。ただそれだけに、第5章における彼の最期は不可解でした。京介は「権三は自分を庇って死んだ」と解釈していましたが、もしもそれが真実であれば個人的には少し不満です。確かに今まで冷酷だった養父が最後に父親らしく子供想いなところを見せたという要素を見れば感動的なんですがね……。それを権三には求めていなかったというか……。

■『相沢 栄一』について。京介の親友。ゲス。
 絵に描いたような小物ゲスキャラです。しかし、憎めないんですよね。口では友人たちの悪口を言っていても、シリアスシーンでは情に厚い性格がどのルートでも見受けられたので。特に、花音√ラストで点数に不正が入った際のブチギレ方は、本当に花音を想っての怒りなのだと分かるものでした。
 こういうキャラクターは扱い自体が難しいのですが、それを親友枠として成立させられていた点には脱帽です。

●テーマ・メッセージについて
悪人にも悪行を犯すだけの理由がある
 私が本作から感じ取ったテーマの一つはこれですね。本作では様々な悪行が描かれ、それらを引き起こしたキャラクターたちの背景が語られました。彼らには大なり小なり悪行を犯すだけの理由がある。大抵の場合、それらに焦点が当たることはなく、ただ表面だけを見て偽善と悦楽を振りかざす民衆によって、彼らは社会的に殺される。そういった構図も含めて、本作では体現していたのかなと。
 許せるかどうかは一先ず置いておいて、真っ先にやるべきことは背景を知る事なんだろうなと私は感じました。

おわりに


 『G線上の魔王』感想、いかかだったでしょうか。

 序盤・中盤は本作を面白いと思えるか不安でしたが、最後には面白いと思えて良かったです。同ライターさんの作品である『車輪の国、向日葵の少女』もいずれプレイしたいですね。

 次にプレイする作品は、『SWAN SONG』を予定しております。まぁただその前にいくつかロープラ作品を挟む可能性も高いのですが……(感想を上げるかは分かりません)。

 それでは✋