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ノベルゲーム感想と思考出力

『Monkeys!¡』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『Monkeys!¡』
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 『ノラと皇女と野良猫ハート』でおなじみの商業ブランド『HARUKAZE』が2021年10月に世に送り出した最新作です。原画家こそ変わりましたが、シナリオライターは『はと』先生が続投ですね。
 はと先生と言えば、軽快なコメディと『家族』をテーマに据えたシナリオが持ち味のライターさんです。最近は、『TOKYOTOON』という商業ブランドで『マルコと銀河竜』という意欲作を手掛けておりました。『Humanity』や『Dear World』等、同人時代の作品も未だに名作として話題に挙がりますね。地力のあるライターさんであることは確かです。
 ノラとと2やマル銀は個人的に”刺さった”こともあって、本作にも期待せずにはいられません。果たして、どのような内容に仕上がっているのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 男子校に通うヤンキー主人公・猿吉は、
 廃校寸前の母校を救うため、ジュリアという名で、お嬢様女子校に通うこととなる。

 猿吉の通う男子校の隣町には、女子校『硝子ノ宮女子』がそびえたつ。
 大正から続き、今でも名家の令嬢を多く受け入れている、
 いわゆる「超・お嬢様女子校」である。

 この「超・お嬢様女子校」と共学化することが、男子校の唯一の生き残り策だと知った猿吉は、
 名家の令嬢・月島カラスの手を借り、男友だちと過ごした思い出の学校を守るため、
 単身、お嬢様女子校に通い、男子のイメージアップに挑む。

 ヤンキーの強みを最大限活用し、女子たちの問題を解決していく主人公に、
 お嬢様たちは少しずつ恋心を抱く!
 一方で、お嬢様度が増していく猿吉に、男子たちもハラハラドキドキ!?
 お嬢様女子校を舞台に、男女の相互理解を目指すドタバタラブコメディ!

 引用元

所感


 ところどころ粗は目立ちましたし、ノラととやマル銀のようなコメディ的キレも無いので、若干物足りない作品ではありました。
 しかし、作品全体の物語構成とテーマの親和性という意味合いでは、非常に良作であると思います。むしろ、最初から最後までプレイすることによって初めて本作の良さに気付けると言いますか。納得出来なかった展開も納得出来る展開へと変貌を遂げると言いますか。
 あんまり面白くは無いかなーとか思っていたら唐突に胸に刺さるセリフと展開で泣かされたり、なんやこの展開とか思っていたら全部ひっ包めて回収して納得させてきたりと、ある意味抑揚のある作品であったとも言えるんでしょうかね。感情を掌で転がされた感覚を覚えました(誉め言葉)。

 まぁでも、やはりそれなりにぶっトんだ要素を内包している作品ですので、賛否両論にはなるでしょうね。それなりのファンタジーを許容できる方であれば楽しめるかと。まだプレイされていない方はぜひプレイしてみてください。

 ちなみに以下は、本作プレイ中の私の感情推移です。参考までにどうぞ。
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~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 霧灯ユキ√➡硝子ノ宮硝子√➡メバチ√➡月島カラス√

 

共通パート

 基本的には面白かったです。軽快なコメディが気持ちいいですね。キャラクターもみんな個性的で愉快です。

 本作は所謂『女装モノ』というジャンルなワケですが、『主人公が女装して女子校に潜入するだけ』の物語では無さそうな点が好印象。『”男”と”女”』というテーマが根幹に通っていることがひしひしと伝わってきます。その証拠とも言えるのか、本作では主人公が女装して女子校に通うだけでなく、主人公を女子校に導いたヒロインが逆に男装して主人公の通う男子校に潜入するというイベントも頻繁に描写されています。その中で、『”男”と”女”の違い』を明示するワケです。まぁ、比較対象が『ヤンキー』と『お嬢様』なので、ある意味極端とも言えるかもしれませんがね。
 また、『”男”と”女”』というテーマとは別に、やはりはと先生おなじみの『家族』というテーマも盛り込まれている様子。どのキャラクターも見るからに家庭環境に問題を抱えています。今後、どのように焦点を当てられていくのでしょうかね……。

 個人的に評価したい点としては、お嬢様としての『歩き方』を習得するイベントに重きを置かれていた点。エロゲ界隈にお嬢様学校を題材とした作品は数あれど、『気品のある歩き方』を重視してガッツリとイベントに昇華するという作品は未だに見たことがありません。新しい知見というか、読んでいて純粋に興味深かったですね。

 あとはまぁ、主人公に安心感があります。私の好きなタイプの主人公です。一度やると決めたことは貫こうとするまっすぐな性格。うーん、好き。こういう性格の主人公が、真剣に『お嬢様の歩き方』という難題に立ち向かっていたこともまた面白さを助長していたのかもしれません。

 

霧灯 ユキ√

●シナリオについて
 うーん、正直可もなく不可もなくという感想です。
 部分的に面白かったのですが、コメディとしてのキレは悪かった感じ。味も薄いかなぁ。
 ただ、ヒロインと主人公が互いに惹かれる過程は丁寧に描かれており、その点は良かったと思います。説得力大事。

 人気者だったユキは実は”自分”が無い空っぽな存在ということで、そんなユキが自分を表現出来るようになるきっかけを作ったのが主人公です。本ルートの主人公も、これの他にも様々な場面で『主人公』としての役割をこなしていましたね。ユキの家庭問題を解決したことについては主人公の意図外の出来事(それでも主人公がきっかけですが)だったためその点は若干残念でしたが、その後にユキの母親のために奔走する場面もあったため納得出来るかなと。そして、そんな主人公なのに恋愛となるとタジタジになるのがギャップでまた魅力的でした。ラブホに入るか否かの場面ホント笑う。
 ギャップと言えば、ユキもギャップが魅力的でしたね。”自分”を出せるようになった後のユキはわりと乙女であり、男らしく振る舞おうとするのも相まって尚更ギャップを感じられました。主人公とユキが両者共に恋愛耐性無いくせに張り合おうとするのもまた互いのギャップを強調する相乗効果となっていて、相性の良いカップルだなぁと思いました。

 そういえば、カラスと共に主人公&ユキの尾行を行ったり、二人に関する話をカラスとしたりしていたぐっぴー&メバチって、いつジュリア(主人公女装時の名前)の正体が男だと知ったんでしょうかね。本ルートでは特に描写ありませんでしたけど……。共通パートで主人公の正体について怪しんでいる様子は見受けられましたが、その流れで掴んだ感じなんでしょうかね。

硝子ノ宮 硝子√

●シナリオについて
 普通に面白かったです。
 ユキ√に引き続き、いつもの『はと作品』ほどのコメディ的勢いは感じられませんでしたが、それでも主人公と硝子によるバカップル的やり取りは笑えました。やはりイチャラブに面白いやりとりは重要。
 また、比較的あっさり且つチープではありましたが、ヒロインの問題を解決するシリアスパートもありました。演出と勢いに持って行かれた感はありますが、見せ場としての役割は果たしていたものと思われます。
 総じて、イチャラブコメディとしての要点は押さえていたと感じました。

 では、少々具体的な話をば。
 本作は基本的に、どのルートでも、主人公が在学する男子校と主人公が潜入しているお嬢様女子校との共学化を目指す物語構成となっております(メバチ√やカラス√もおそらくそう)。各ルートで共学化へのアプローチの仕方が異なるワケですね。
 んで、本ルートはその中でも、より強く『共学化』という要素が強くシナリオの中で活かされたルートだったように考えられます。というのも、本ルートの主軸となるのが、片や仲間との大切な場所(男子校)を守りたい主人公、片や学園(お嬢様女子校)を誰よりも愛しているヒロインですからね。
 ただ、本ルート、主人公もヒロインもそれなりに筋を通しているんですね。付き合い始めた後も無条件で共学化に賛同するワケではなく、主人公・ヒロイン互いに公私混同による共学化決定を許さないという。この点、個人的には評価ポイントです。キャラクターへの好感度は上がりましたし、これだけ共学化に真摯に向き合う展開だったからこそ、作中で共学化を成し遂げた際の納得感が大きい。
 以下は主人公・ヒロインそれぞれの考え方ですが、スパっと二人ともこの考え方を口に出せるあたりが素晴らしいと思いました。(まぁリスクマネジメントと言われればそれまでですが)
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 さて。また別の話をば。
 本ルート、個人的には非常に心に刺さるセリフがあったのが特に収穫でした。
 以下が該当のセリフです。

「何者かに成るのは、大変かもしれねぇけど」
「でも、何者かで、い続ける方が、すげぇ大変じゃねぇか」

 叔父の言いなり人形だったヒロインの心を、主人公が氷解させるに至ったセリフです。
 このセリフを見聞きした瞬間、正直私は目頭が熱くなりました。というのも、このセリフって、主人公がヒロインのこれまでの在り方に理解を示すセリフであるのと同時に、プレイヤーである私の在り方(生き方)にも理解を示すセリフだったんですよね。これ絶対共感してくれる方は少数だと思うんですけど。

 語るにしては場違いな話題ではあるでしょうが、まずは私の在り方(生き方)について説明します。私の『在り方(生き方)』は、自分が『ピエロ』として振る舞うことでした。簡単に言えば、恥を捨てて他者のご機嫌をとったり、自分を『下の存在』として示すことで他者の心の支えとなったりみたいな感じですかね。私には『カリスマ性』というものが一切ありませんでしたから、そういう生き方をしなければ孤立してしまうことは必至でした。幸いこの『在り方(生き方)』は私に上手く当てハマり、学生時代には友達もたくさん作ることが出来ました。
 しかし、この在り方は自分を貶めることで価値を創出すると言っても過言では無い在り方です。苦しくないワケが無かったんですね。或いはその苦しさからすら目を背けて気づかないフリをしていたのかもしれません。
 私が自分の在り方に焦点を当て、やがて苦しみを自覚したのは、大学院1年の冬────就職活動の時期です。就職活動では、否応なく自分を分析しなければなりません。そんな中で、気付いてしまったワケですね。自分の惨めさと苦しみについて。
 就職活動が終わると、私は自分の在り方(生き方)というものを見失いました。苦しみを自覚した影響か、以前よりも上手く『ピエロ』を演じることが出来なくなったのです。結果として、大学院2年の年(大学生活6年間最後の年)は、周囲との関係性が希薄になりました。人間という生き物は正直だと感じましたね。ピエロとしての価値を失った私の元からは、続々と人が離れていきました。残ったのは、本当に仲が良いと思っていた極少人数だけです。
 そんなこんなで、結局のところ私はピエロとして生きるしかないのだと改めて自覚しました。苦しくても、ピエロとして在り続けるしかないワケです。そうでなければ私は、人間社会で生きていけない。社会人となり、環境が変わったことも影響してか、私は再びピエロとして振る舞うことが出来るようになりました。
 そして現在。私は今でもピエロを演じ続けています────────

 とまぁ、長くなってしまいましたが、要はそんな『ピエロで在り続けている私』にも理解を示してくれたかのようなセリフが、上述した主人公のセリフだったワケですね。本当に、心に刺さりました。
 このワンシーンだけでも、私はこのルートをプレイして良かったと思えました。

メバチ

●シナリオについて
 素直に面白かったです。
 というか、泣きました。ラストはボロボロと涙を流していました。正直感動モノとしてはチープな印象を受けますが、それでもやはりこういう話は泣けます。系統的にも、はと先生の得意分野だったでしょう。
 本ルートは全体を通して、特にはと先生らしさのようなモノが感じられたルートだったと思っております。『親子』や『仲間』といった題材要素が色濃く出ていましたからね。特に『親子』要素は非常に強かった。メバチが寂しくないよう死後も別人格として寄り添い、不器用ながらもメバチを激励し背中を押そうとし続けた母親。終盤になるにつれてそれが読み取れ始めるからこそのあの感動だったのだろうなと。
 まぁ、その分、他のルートよりも『共学化』に関するあれやこれやは端に追いやられていましたが。……いや……終盤展開を考えると、あえてあの状態(アイの演技中)のメバチを他所に淡々と共学化を進めていたことが、むしろ上手く不安を掻き立ててくれる演出として昇華されていたとも考えられますね。共学化を推したメバチを弔うために共学化を進めたとも解釈出来る演出になっていたと思います。実際のところはミスリードでしたがね。ミスリードだからこそ評価出来るワケでもあるのですが。

月島 カラス√

●シナリオについて
 とても面白かったです。特に、終盤の総まとめとなる展開は非常に良かった。
 本ルートは、最も『男女』、『家族』、『仲間』という三大題材に焦点が当たるルートでした。また、物語構成的にも、本ルートはこれまでの3つのルートの集大成となっていました。まさにグランド√と呼ぶに相応しいルートでしょう。

 実は私、本ルートの中盤~終盤手前までは本ルートを嫌っていました。否定する気満々だったんです。というのも、本ルートは中盤から私の嫌いな展開に舵を切り始めたんですね。
 具体的にどういう展開が該当したのかと言うと、『特に物語的な意味も無さげにキャラクターが死ぬ展開』や『死んだキャラクターが最期まで貫き通した約束(誓い)を、復讐という大義名分を抱げて無下にしようとする展開』が挙げられます。
 本ルート中盤で主人公がチンピラに襲われて唐突に瀕死となるワケですよ。ただ主人公は強いので、本来暴力を行使すればそこいらのチンピラになんざ負けないんです。じゃあなんでそんな主人公がたかだかチンピラにやられてしまったのかと言うと、その事件の前にカラスと結んだ『もう暴力は振るわない』という約束を守ったからなんですね。主人公は自分が死ぬ寸前にまで陥っても、その約束を破ることはしなかった。誓いを貫いたんです。
 しかしそんな主人公の意志など関係なく、あろうことか『もう暴力は振るわない』という約束を取り付けた本人であるカラスが、その後チンピラへの復讐の発起人となってしまいました。
 この時点で私は「は???」となりました。そもそも物語の流れからして主人公の死は意味不明でしたし、続けてそんな主人公の意志を無下にする復讐劇が始まってしまえば、「もうこのルートはダメかもしれない」と思ってしまうのも仕方無いと思うんですよ。

 しかし、さすがははと先生と言ったところか……。ひっくり返してくれましたよ。上述したマイナス面も含めて全部、テーマ的結論に収束・昇華させてくれました。これには圧巻の一言。早急に掌を返しましたよ私は。
 本ルートのテーマ的結論は、『男女が一緒になると面白い』だったワケですが、この結論は額面通りに解釈するだけでは足りません。内包されている厚い根拠こそが全てメッセージとなり得ます。具体的な話は<総評>パートの<テーマ・メッセージについて>欄で記述させていただきますが、要は本作は、人間同士が関わっていくうえで主観的なり客観的なり必ず実感するであろう『人間の不完全性』についても掘り下げた作品だったワケです。そして、その『人間の不完全性』をも許容し、仲間同士で間違いを正し、寄り添って歩こうというメッセージが込められた作品でもあったワケなんです。
 これを前提とした上で、上述した『嫌いな展開』におけるカラスの選択を思い返すと、まさにカラスは『人間の不完全性(選択の失敗、過ち、嘘)』を体現しているんですね。カラスは、本当は自分の行いが間違ったことだと分かっているにも関わらず、どうしていいか分からないが故に自身に嘘をついて過ちを犯しているワケですから。そして終盤では、復活した主人公がカラスを止めたい派の仲間たちと共にカラスや復讐賛同者を止めに行く展開となると。こうして見ると、本来『嫌いな展開』だったハズの展開が、テーマや物語構成として意味のあるものへと昇華され、一気に『好感の持てる展開』へと早変わりするワケです。
 またそれと同時に、『主人公の死(正確には寸前で復活しましたが)の意味』に関しても、必要な要素であったのだと思えるようになりました。話の流れ的に、『人間の不完全性』を活かす展開を書くならこれが正解だったでしょう。加えて本作では『人間の不完全性』だけでなく、『男女が一緒になること』という根幹部分もしっかりテーマとして昇華させなければなりません。そう考えると、『主人公の死』は尚更納得出来る展開ですね。
 マイナスからの爆発的盛り上がりだったこともあり、終盤は本当に興奮しました。

総評


●シナリオについて
 全体を俯瞰すると、良作であると考えられます。上手く纏まった作品と言えるでしょう。

 物語構成やルート構成からして盤石の体制ですね。どのルートでもメインとなるイベントはあくまでも『共学化』。ユキ√・硝子√・メバチ√ではそれぞれ異なるアプローチで『共学化』を実現するまでの過程(ヒロインの問題解決含む)を描き、グランド√であるカラス√では『共学化』を実現した後のあれやこれやを描く。分かりやすくも筋の通った構成です。
 上記構成は、『男女が一緒になると面白い』というテーマ的にも意味のある構成かと思われます。本作では、『ヤンキー男子校』と『お嬢様女子校』という、ある種『男らしさ』と『女らしさ』の極地とも言えるような属性を男サイドと女サイドに付与することで、『男女』という題材を分かりやすく描写しておりました。要は、互いにあまり異性に対して耐性が無いワケですね。そのため、彼らが『共学化』を本当の意味で成し遂げるには、『男女一緒になるまで』と『男女一緒になった後』という二つの場面で発生する問題をクリアしなければなりませんでした。しかしこの両方を全てのルートで描写していては、ルート一つ一つが長くなってしまうし、なによりも飽きてしまう。だからこそ、パターンが多い前者をユキ√・硝子√・メバチ√の3つのルートでそれぞれ描き、それらを総括した上で後者をカラス√として描くという構成は、本作のやりたかったことを鑑みると最適だったと考えられます。

 コメディ的な面白さとしては正直不満が残ります。期待していただけに、本作のキレの悪さには若干がっかりさせられました(いやまぁ、ところどころ笑える部分はあったんですけれどもね。特に、カラスの発言にはキレがあったようにも感じましたし……)
 ただ本作、コメディ的には微妙であれど、テーマ的には本当に素晴らしかった。カラス√の感想でも少々記述しましたが、『男女が一緒になると面白い』というテーマ的結論の裏には、『”不完全な人間”を許容した上で、それでも寄り添い、時には正すのが仲間である』だとか、『男と女は分かり合えないけど、互いの違いを尊重することで見えてくるものもある』だとか、『親もまたただの男と女』だとか、とにかく上述した結論に繋がる様々なメッセージが内包されているワケです(詳細は以下の<テーマ・メッセージについて>パートで)。そして、共通パート・ユキ√・硝子√・メバチ√でも匂わせられたそれらが一気に回収されて纏められるのがカラス√(グランド√)なんですね。終盤は涙と鳥肌が限界突破していましたよ、マジな話。
 また、個人的には硝子√の感想でも記述したメッセージが非常に心に残っております。あくまでもアレは本作の主軸から派生した枝のようなメッセージだと思われますがね。本作、主軸では無いだろうにも関わらず、ところどころ本当に心に刺さるセリフが多かった。そういう点も評価ポイントですね。
 あとは、『歩く』という行為について。散々共通パートで重要視されていた『歩き方』。共通パートでもこれに焦点を当てるのは奇抜で良いと評価したのですが、まさかまさかの終盤で回収される重要な行為だったということで、これにも鳥肌が止まりませんでした。言われてみれば、『歩く』という行為自体がテーマ的には主軸の一部として組み込まれている重要なピースなんですよね。いや素晴らしい。

 最後に語るべきは、やはり演出についてでしょう。
 本作では、漫画のコマ割りのようにイベントCGを見せるという演出を取り入れていました。これにより、なかなかノベルゲームでは実現されなかった『細かい描写の切り替わり』がついに実現されたワケですね(コストが高いからか一部だけでしたけど)。
 このような演出があると、視覚的な楽しさが格段に上がるのでとても良いです。実際、本作における喧嘩シーンではほぼこの演出が使われていましたが、漫画を読んでいるかのように描写の移り変わりを楽しむことが出来ました。
 個人的にはこういう演出がノベルゲームで実現されるのを待っていたんですよねぇ。Chloroという同人サークルの作品で『私は女優になりたいの』という作品が存在しているのですが、2012年リリースの同人作品でありながらあの作品は、本作で用いられた漫画的演出を実現していました。あの作品をプレイしてからというもの、私はこのような演出がノベルゲームで今後広まることを待ちわびていたワケです。だからこそ、有名な商業ブランドの作品である本作でこの演出が実現されたのは、私としては非常に嬉しいことだったんですね。他のブランドも是非……。

●キャラクターについて
 『浮木々 猿吉(ジュリア)』について。主人公。雑木林の番長。ジュリアの正体。
 基本的にどのパートでもしっかりと『主人公』の役割をこなしていたため、好感の持てる主人公です。
 『仲間を見捨てない性分で喧嘩が強い』という一見弱さの見当たらない彼ですが、カラス√でついに彼もまた弱さを併せ持つ存在であったことが判明します。というのも、彼の行動原理は『自分が見捨てられたくないから』というエゴだったワケですね。そしてその行動原理は、他ならぬ自分自身が母親に捨てられたと思い込んでいたからこそ生まれたもの。こういうの、人間味が増して良いですよね。さらに主人公として味が出たと思います。
 ちなみに、幻想世界での母親とのキャッチボールシーンは目頭が熱くなりましたね。こういうのに弱い。
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 『月島 カラス』について。グランド√ヒロイン。御三家の一人。人形遊びが好きな死にたがり。
 ヒロインというよりは、主人公の相棒という表現の方がしっくりきますね。どのルートでも良いキャラしてました。唯一今までのはと作品におけるコメディを体現していたと言っても良いのでは?
 主人公を自身の人形と称することで、主人公を人形のような自分に見立てて夢を乗せていたという構図は、感じ入るモノがあります。ただでさえ死のうとしていた彼女の夢ですから、主人公は期せずして重大な役割を背負っていたことになるんですよね……。
 カラス√では主人公の意志を無下にして暴走してしまった彼女。しかしあれは、自身の口にした約束(主人公が死にかけるきっかけ)への後悔や想像だにしていなかった事態への混乱が綯い交ぜになった結果の暴走ですからね……。自身が間違ったことをしている自覚があるようにも見受けられましたし……。今思い返せば、復讐時の彼女の胸中は相当に複雑なものであったでしょう。
 あ、そういえば……ルートヒロインの中でもカラスのみ家庭問題が解決していないんですよね。今後、猿吉との関係に対して親がなんかしてきそうな気もしますけど……どうなるんでしょうね。
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 『桧山 硝子(硝子ノ宮 硝子)』について。ルートヒロイン。御三家の一人。硝子ノ宮女子校大好きお嬢様。
 学園のことを誰よりも愛している彼女。行動原理がこれに尽きるため、筋の通ったキャラクターであることが分かりやすいんですよね。
 蓋を開けてみればカラスと若干似た境遇で、彼女も叔父の言いなり人形だったとのこと。そんな境遇の中でも唯一自身を表現出来るのが、学園への愛を原理とした行動だったワケですね。
 叔父から解放された後の主人公とのバカップルっぷりには癒されました。
 あと、初登場シーンはインパクトありましたね。
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 『霧灯 ユキ』について。ルートヒロイン。御三家の一人。演劇部のスター。
 自分が空っぽであるが故に、役を演じて生きてきたヒロイン。『空っぽだから自分が分からない』のであって『自分が無い』ワケではない点がポイントでした。ある意味最も深い部分までキャラを掘り下げられたヒロインだったのかもしれませんね。
 主人公との付き合いの中で自身を理解し始めたからこそ見られるようになったギャップ。ユキ√は、それが上手く恋愛描写として活かされたルートだったなぁと感じております。
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 『メバチ』について。ルートヒロイン。多重人格者。伝説一歩手前の兵士。
 まさかまさかのオカルト設定。でも泣かされました。
 ある意味では最も過酷な過去を送ってきているヒロインでしょう。あらゆる要素から他のヒロインとは一風違った雰囲気を纏っており、その影響かルートシナリオも若干ベクトルが違ったような気がします。
 カラス√で主人公入りの猿に気付くことが出来たのも、その猿から主人公の魂を元の身体に戻すことが出来たのも、メバチが母親の魂をその身に宿していた先人だからこそなんでしょうかね。
 ちなみに私事ですが、プレイ前にはヒロインズのビジュアルしか確認していなかったので、メバチのイメージと実態が全く違って驚きましたね。もっとクールで黙々としたキャラクターだと思っていました。
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 『うき』について。主人公の義理の妹。
 どのルートでも基本的には登場し、あらゆる場面で達観した姿勢を見せていました。
 私の考察上では、『テーマの体現者』という役割を持ったキャラクターとして結論付けています。
 複雑な家庭環境から両親が完璧でないことことや家庭が当たり前でないことを知り、覚えが悪いという自身の能力から『不完全性』に対する接し方を知り、そしてその交友関係から男と女が一緒にいることの楽しさを知っている。考えれば考えるほど、彼女は最初から本作のテーマを体現していたのではないかと考えずにはいられないワケです。カラス√の〆も、うきのシーンでしたしね。
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 『置田』について。主人公の友達。美少年。
 長物を持つとアホほど強くなるの、少年漫画にいそうなキャラって感じで好きでしたね。厨二心がくすぐられます。
 カラス√でカラスと共に暴走した筆頭でしたが、それほどまでに主人公のことを大事に思っていたと考えるとね……。止めに来た主人公を殴り続けていたあたりから、カラス同様にどうしていいか分からなかったのだろうもどかしさが伝わってきました。
 そういえば、カラス√終盤での主人公との戦闘は、共通パートでの主人公との戦闘を模しているんですよね。こういう回収(回帰?)も好きです。
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 『』について。主人公の友達。下ネタのレベルが小学生の変態。チンコアハムート。
 正直わりかし終盤までは、相当下劣なキャラクターとして不快感がありました。下ネタ使うならもっと捻って欲しいなって。
 でも、こういうキャラクターだからこそ言えるセリフってのが本作のテーマ・メッセージにはあるんですよね。それが以下の画像のセリフです。見直す場面は他にもいくつかありましたが、これを言うことがコイツの役割だったのだと認知した瞬間、不快感は消え去りましたね。
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 『ぐっぴー』について。メバチの親友。アイの旧知。
 正直、メバチ√以外では出番の割にあまり印象に残っていません。共通パート時点では何か裏のあるキャラクターだと思ってたんですが、結局特にそういう役割でもありませんでしたね。
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 『アイ』について。メバチの別人格。正体はメバチの母親の魂。
 ただのクレイジーな人格かと思いきや、その正体は不器用にも娘が寂しくないよう死後も寄り添っていた母親だったという。
 こういうのに弱いんですよねぇ私。泣いちゃいます。
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●テーマ・メッセージについて
男女が一緒になると面白い
 本編中でも何度もセリフとして登場しましたし、確実に本作のメインテーマでしょう。
 このテーマは、字面からだけでは読み取れない多くのメッセージが積み上げられた上に成り立っているテーマであると解釈しました。私が読み取れたのは、大きく分けて3層です。

 ……と、説明をする前に……。本作には『男女』・『家族』・『仲間』という三大題材が色濃い要素として込められていました。そして、突き詰めると人間の分類というのは、『男』か『女』かの二種類であり、人間の”関係”というのは、大抵『家族』か『仲間』かで説明出来てしまうワケです。以降の説明は、上述を前提として進めていきます。

 まず、最も下地となる層は、『男女』に関する層です。最も表面化している層とも言えます(位置イメージがおかしなことになる……)。
 ジェンダーフリーな考え方を無視すると、根本的に人間は『男』か『女』の二種類に分けられます。『男』と『女』は同じ人間でありながら生物学的に明確な違いを持ちます。それはなにも、身体的な話だけではなく、精神的な話でもあります。そしてその違いは、時として男女間に『理解し合えない』という隔たりを生みます。この問題に対し、本作では以下の画像のように述べています。
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 男女が理解し合えないことは当然のことであって、その点で無理に理解し合おうとする必要は無いということですね。加えて、以下のようなセリフもあります。
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 これは厳密には、男女のことではなくメバチの人格に対するセリフなのですが、おそらく男女の話にも精通する話であると考えています。ユキ√では男女間で協力することによる成功が描かれました。メバチ√では、『互いに無いものを持っている相手を尊重すること』をメリットとしてメバチが共学化に賛成しました。要は、『理解し合えなくとも、違いを埋められなくとも、互いを尊重し合う姿勢が大切』ということですね。

 次に、中間となる層は、『家族』に関する層です。厳密に言えば『両親』或いは『大人』でしょうかね。
 ただこの層は突出して厚いワケではありません。シンプルな話で、要は『子供がよくよく完璧であると勘違いしてしまう「大人」も、実際にはただの「男」と「女」であり、子供と何ら違いの無い「人間」なのだ』ということです。そしてそれは、『人間とは、もれなくそのような「男」と「女」の営みによって生まれてくる』ということでもあるのです。

 最後に、最上層として上述した二つの層に積み重なる層は、『人間』そのものに関する層です。
 人間とは、余さず『不完全』です。『完璧』な人間など、存在した試しがありません。故に人間は、時には過ちを犯します。
 これに対し、本作では以下のように述べています。
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 要は、『他者の「人間としての不完全性」を許容してあげることが重要』であり、『過ちを犯したのが仲間であるなら、時に寄り添い、時に正してあげるべき』ということです。過ちを犯してしまうのはもう前提として仕方の無いことであって、大事なのは他者が過ちを犯した時にどのようなアプローチをするかなんですね。他者が何かを間違えたからと言ってすぐさま縁を切るなど言語道断でしょう。そのような行為は、『人間の不完全性』を許容出来ない人間の行為です。
 そしてこれは、子供にも大人にも当てはまる話です。なぜなら、中間層で述べた通り、子供も大人も同じ『人間』なのですから。

 以上が、私の解釈における本作テーマの下地内容です。この3層を下地として満たしていることで、男女が一緒になっても楽しくなり、やがては幸せに繋がるのだと考えております。
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おわりに


 『Monkeys!¡』感想、いかかだったでしょうか。

 期せずしてそれなりのボリュームがある感想記事になってしまいましたね……。読んでくださった方、本当にありがとうございます。
 ただ実は、これだけ書いてもまだ書き足りていないんですよね。『嘘』や『Monkeysというタイトル』、『歩く』という行為についての掘り下げを記述していませんから。
 また上手く纏まったら追記するやもしれません。

 次にプレイする作品は、『かけぬけ青春スパーキング』を予定しております。長らく中断していたので、再開しようかと……。

 それでは✋