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『この青空に約束を―』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

この青空に約束を―


 商業ブランド『戯画』さんが2006年に世に送り出した作品です。言わずと知れた名作ですね。シナリオを担当されたのは今やエロゲ業界以外でも多大な活躍をされている丸戸史明先生。丸戸作品といえば、私は『WHITE ALBUM 2』に感銘を受けた身であるため、本作には非常に期待を寄せております。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 本州から少し南にある離島。
 坂の多い島のふもとからずっと続く石段を登りきると、
 下の町や海まで一望できる高台になっており
 その高台の上に主人公・星野航(ほしの・わたる)たちの通う学園がある。
 しかし島の産業の大部分を占めていた大企業の工場が来年撤退することになり、
 学生の数は次第に減少していた。
 島にあるもう一つの高台の上に学園の旧校舎を改装した寮がある。
 寮生の減少にともない現在は主人公とヒロインたちのみが住んでいるその寮は、
 島の住人からは主人公のハーレムだと噂されている。
 そんな寮になぜかこの時期にやってきた転校生も巻き込み、
 時には反発したりしながらもドタバタと楽しい毎日を過ごしていく。

 引用元

所感




~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 宮穂√⇒沙衣里√⇒静√⇒奈緒子√⇒凛奈√⇒海己√⇒約束の日⇒茜√
 

共通パート

 面白かったです。
 序盤からいきなりヒロインとの不和というハラハラさせられる展開で、盛り上がるポイントではしっかりと盛り上がる。会話劇としても読んでいて飽きない。安定した面白さ故の満足度の高さを誇っていたように感じました。
 特にマラソン大会に関する一連の展開は読んでいて手に汗握りましたね。主人公がとにかく格好良く、非常に私好みに展開を動かしてくれたのでご満悦です。
 ……にしても、はたして学園長と教頭が因果応報な報いを受ける展開ってこの先あるのでしょうか……? そこだけが不安です。あって欲しい。

六条 宮穂√

 展開的な面白さとしては可もなく不可もなし。会話劇は相変わらず面白いといった感じでしょうか。
 極めてオーソドックスなギャルゲ的展開であったというのが率直な印象です。『WHITE ALBUM 2』のような濃い恋愛劇を期待していた身としては些か拍子抜け。ここらへん、次の沙衣里√からは本作に対する私のスタンス(楽しみ方)の軌道修正をしなければなりませんね。

 あくまでも焦点はヒロインである宮穂に当てつつ、その上で主人公である航もまた能動的に展開を動かしていくシナリオであった点は好印象です。性質としては甘々なイチャラブ方面に傾く内容だったのでしょうが、かといって某ブランド作品のように胃もたれするレベルでもなく、バランスの良い仕上がりだったように感じました。この辺、ただただイチャラブが描写されているのではなく、ある程度の面白さが確立された会話劇として描写されているが故に、読んでいる側としてはそう感じられるのかもしれません。
 ただ本ルートのシナリオ、共通パートで解決しなかった問題がそのまま放置で何事もなく進行していくという特徴に起因する不自然さが拭えなかった点は残念でした。本編から数年後のエピローグでもつぐみ寮は存続していましたが、はたして学園長の野望はいったいどうなってしまったのでしょうか……。裏で解決したなら解決したで一言くらい説明が欲しかったです。

 物語構成に関して、『限られた期間の中で楽しい日々を過ごす ⇒ ヒロインと約束を交わす ⇒ ヒロインとの約束を果たす』という流れはおそらく、本作全ての個別ルートでも一貫してくるのでしょうね。

桐島 沙衣里√

 話の本筋や纏まり自体は良いのですが、一部個人的に受け入れられない要素があったため評価に困るルートとなりました。
 ヒロインの魅力を活かした上で成長も描いている点や終盤展開の盛り上げ方、そして着地のさせ方は評価出来るんですがね。ただただ致命的に状況悪化のさせ方が釈然としない。たとえ筋道が同じであってもやりようさえ異なれば晴れやかに評価出来ていたと思います。なんとも惜しい……。

 では、具体的に何がそんなに納得出来なかったのかというお話。私は本ルートの要所要所から、『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という作中において最も重要視されているであろう本懐が軽んじられているかのような印象を受けました。これが本ルートを快く受け入れることの出来ない理由です。
 本作中における『つぐみ寮寮生会』という枠組みは、本作のメインキャラクターであるつぐみ寮生にとっての大切な『居場所』です。そして、彼らの住む『つぐみ寮』は、そんな彼らを繋ぐ象徴であり、彼らが最後の一年を過ごす上でかけがえのない建物と言えます。だからこそ彼らは共通パートでも一丸となってつぐみ寮を守るために闘ったのです。私はこのような背景から、『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という課題に取り組む上ではつぐみ寮生が誰一人として欠けてはいけないと感じました。全員がいるからこそ成立する大切な居場所であるならば、全員で守ることにこそ意味があるのではないでしょうか? 少なくとも私はそう思います。
 しかし本ルートでは、あろうことかヒロインである沙衣里のプライドを発端として、航と沙衣里以外には内緒のままに『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という課題への取り組みが始まってしまいました。沙衣里の性格を考えればたしかにそういう展開になることも理解は出来ます。ただ、明らかに天秤が釣り合っていない。他の寮生が課題への取り組みに加わらないことによる機会損失とリスク向上は計り知れませんからね。取り組みの成否がそのままつぐみ寮の存続可否に繋がってくるワケですから、沙衣里のプライドを優先して二人で危険な橋を渡り始めるという展開自体が私にとっては受け入れ難いモノでした。3月以降も寮に残る二人で他の寮生のつぐみ寮での1年間を守ろうという意気込み自体は好感が持てますが、ことこの課題に関しては重要度が桁違いなため、やはり二人だけで取り組むという方針にはどこか楽観視が感じられ、軽んじられているという印象を受けるに至りました。
 そしてそこに追い打ちをかけるようにやってきた窮地。状況悪化の原因は航がラブホテルに落とした生徒手帳。……いや、普通に教師と生徒が恋人としてイチャついている時点で嫌な予感はしましたが、やはりこうなってしまったかと思わず溜息が出てしまいました。仮に生徒手帳を落としていなかったとしても、教師と生徒が当然のようにラブホテルを使うことのリスクにまでは頭が回らなかったのでしょうか? この大切な時期に目撃者から学園側へリークされるだけでもつぐみ寮存続にはかなりの痛手なのがなぜ分からないのか。たしかに航も沙衣里も頭は良い方ではありません。ただ少なくとも、実力テスト時に学園長から入れられる横槍を予見して対策を講じるくらいの思慮は有しています。だからこそ、なぜ航も沙衣里もラブホテルを利用することのリスクの高さにまで思慮を巡らせることが出来なかったのかが不思議でなりません。なんなら、学園側に隙を見せないように気を張っている様子も散々描写されていましたから尚更。思い至っていたものの恋愛感情を優先したのか、或いは本当に思い至らなかったのか、いずれにせよこのようなヘマでつぐみ寮を危険に晒してしまう航と沙衣里の軽率さからは、やはり『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という本懐が軽んじられたという印象しか受け取ることは出来ませんでした。そりゃ奈緒子もぶん殴るよ。逆にあそこで奈緒子が二人共ぶん殴ってくれて本当に良かった。

 一転して、職員会議での一連の展開には満足です。逆境を跳ね返す展開はなんとも鮮やかで沙衣里の成長が窺えましたし、ちゃんとつぐみ寮生全員によって『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という本懐が達成される流れになっていましたからね。これだよこれこれという感じ。

 総じて、『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という本懐が軽んじられているかのような印象を受ける原因となった要所がもう少し盤石であれば、きっと私は本ルートを手放しで好評出来たのでしょうね。残念です……。

藤村 静√

 終盤展開でかなり満足出来ました。
 沙衣里√で散々文句を吐き散らした私が求めていた展開は、こういう展開だったワケです。

 歳不相応な幼さを宿すヒロイン────静が、つぐみ寮という温かな環境の中で着々と成長する物語。頑なにつぐみ寮に閉じ籠ろうとした静が、やがてつぐみ寮から巣立ち、外の世界へと飛翔するという内容。完全に私事ですが、この年齢になると静のように娘属性の強いキャラクターに弱くなります。きっと、現実で本当に子供を育てている父親もまた、子供の成長を眺める際にはこのような気持ちになるのだろうなと浸ってみたり。
 本ルートでは静の課題をつぐみ寮寮生会の課題として捉えていた点が個人的に評価したいポイントになります。静を娘のように思っているのって、きっと航だけではなくつぐみ寮寮生会メンバー全員なんですよね。故に、静の独り立ちに関しては決して航一人に解決させるべき課題ではなかった。だから、一度はギスついたものの最終的には全員が集結して静の巣立ちを後押しした。奈緒子はつぐみ寮寮生会を『ぬるま湯』と称しましたが、私には満たされるほどの温かさを誇る『居場所』であると感じられました。
 最後に全員が学園をサボって静の心の氷解を待つ展開も良かったですよね。アレは見方を変えれば虎視眈々とつぐみ寮の取り壊しを狙う学園長に付け入る隙を与えるハイリスクな行為ではあるのですが、そのリスクを承知の上でも尚、静の巣立ちというつぐみ寮寮生会の課題はクリアされる価値があったと私は考えております。彼らが大切にしている『居場所』は、『つぐみ寮寮生会』という枠組みです。もちろんつぐみ寮が無くなることは大問題ですが、それでも静の課題は『つぐみ寮寮生会』という枠組みに強く直結するモノ。ならばこそ、蔑ろにするワケにはいかないんですよ。つぐみ寮という『カタチ』だけを守っても意味がない。そこには『つぐみ寮寮生会』という枠組みが内在している必要がある。少なくとも私はそのような印象を本作から受け取っているので、終盤展開にてつぐみ寮寮生会メンバー全員が学園長に付け入る隙を与えるリスクの回避よりも静の課題を優先した点を評価したいと思った次第です。

 本ルートはその他にも、『静の成長』という観点からすると様々なメタファーが散りばめられていましたね。生理や身体的変化の話は直接的な表現で分かりやすいですが、静を見る航の目の変遷もまた間接的な『成長』の表現であると感じました。本ルートの全てが『静の成長』を描いていたと言えるのでしょうね。物語の目的がハッキリと一貫していたあたり、読んでいて気持ちの良いルートシナリオでした。

浅倉 奈緒子√

 ほどよく面白くはありました。
 本作開始前に望んでいた展開に近しかったのかなぁという印象です。

 恋愛劇としてのシリアスならばやはり本ルートレベルのギスギスが欲しいところ。ヒロインが過去に好意を寄せていた男性が登場することによりギクシャクする展開は、許嫁やらヒロインに想いを寄せるライバルが登場する展開よりも断然読み応えがありますね。ヒロインの想いが向いていた時期があるという実績は、こと恋敵キャラにおいてはそれほどまでに強い要素だったりします。

 結果として、恋敵として登場した辻崎先輩は完全な巻き込み事故を喰らった形だったのでご愁傷様なのですが、それでも結末へと至る流れとしては良かったのかなと。もちろん、”浅倉奈緒子というヒロインの個別ルートとしては”ですが。いやまぁ、この展開が赦されるのっておそらく、『傍若無人で面倒くさい奈緒子の性格』と『航と奈緒子の間で結ばれた約束』ありきですからね。特に本作としては『約束』という概念が重要視されているので、後者の要素が免罪符としては非常に強いのかなぁと。もしもそういった免罪符を持たない作品のキャラクターが同じ展開を紡いだとすれば、ただの嫌なヒロインのお話として片付けられてしまいそう。

 そういえば、本ルートはこれまでにプレイしたどの個別ルートにも増して他ヒロインの登場頻度が低かったのが残念でした。奈緒子と海己以外があまりにも空気すぎたかなと。個別ルートである以上、対象ヒロインに最も焦点を寄せる必要があることは重々承知しています。ただ、本作では大前提としてつぐみ寮寮生会メンバー全員で過ごす最後の1年間が重んじられているハズ。であるならば、やはり個別ルートとはいえ他ヒロインにもある程度は焦点を当てて欲しいと願ってしまいます。他ヒロインの登場頻度的な観点からすると、沙衣里√や静√が絶妙なのかもしれません。

沢城 凛奈√

 満足です。さすがはセンターヒロイン√。他の個別ルートで感じた不満を一切感じさせない内容となっていて感服ですね。
 展開的にもほどほどに面白く、且つ私が本作に期待していた要素を魅せてくれたシナリオとなっていました。

 本ルートでは、ヒロインである凛奈との逢引きを描写しつつも、しっかりと他ヒロインとの絡みや反応まで描写していました。要は、個別ルートだからといって主人公とヒロインだけの二人のお話には決してなっていなかったんですね。沙衣里√や静√でも語った内容ですが、本作はあくまでも前提として『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という本懐が根幹にあります。それは偏につぐみ寮寮生会メンバー全員で過ごす最後の一年間を守るためなワケですが、これはつまりたとえエロゲ・ギャルゲ的な個別ルートであったとしても他の寮生会メンバーを蔑ろにするのはおかしいことを意味します。この点、本ルートは主人公とヒロインの二人だけの描写と寮生会メンバーとの描写のバランスが絶妙でした。私が本ルートで満足出来た最大の理由はここにあるでしょうね。

 展開上使用された設定に関しても、扱いが上手かった印象を受けました。『逢わせ石』の設定のことですね。過去に『逢わせ石』を分け合った二人が航と凛奈であるという運命的要素を間違った過去として扱うことにより、展開的な盛り上がりとより強固な恋愛関係構築の描写に繋げた点からは、丸戸先生の相変わらずな巧みさを感じました。普通なら運命の相手として着地して告白になる流れですからね。私もすっかり騙されてしまいました。
 しかしそこで『逢わせ石』の設定を使い捨てなかったのも感慨深いと言いますか何と言いますか……。作中でも言及されていますが、思い返してみれば凛奈は、『逢わせ石』の本来の相手だった隆史さんとは南栄生島に来てから両親以外で初めて出会っているんですよね。要は本設定には、『再会の運命は実際に果たされていた』というオチが存在しているワケです。そして、そのように本設定を蔑ろにしなかったからこそ、航が凛奈に逢わせ石の指輪を渡すというラストシーンが活きるという構造になっているんですね。よく考えられているなぁと感心しました。

 そういえば、本ルート終盤にて示唆されたつぐみ寮寮生会メンバーで作る曲はおそらくグランド√かラストエンディングで絡んでくるのでしょうね。お披露目を楽しみにしているとしましょう……。

羽山 海己√

 素晴らしい。
 文句のつけようが無い程に満足出来ました。私が本作に求めていたシナリオを充分に体現してくれたルートであったと言わざるを得ません。
 実質的な本作全体の集大成と言っても過言ではないでしょう。本ルートは間違いなく茜√以外の個別ルートを終えてからプレイすべき内容であったと断言出来ます。

 本ルートは、『エロゲ・ギャルゲ的個別ルートとしてのヒロインとの”ふたり”の時間』と『本作の前提本懐に基づいて重要視されるべき”みんな”の時間』のボリュームバランスが非常に絶妙なのですよ。こちらの詳しい話は総評にて行いますが、とにかくどちらに偏っていても不満へと繋がるであろう本作の危うい部分をライターさんの手腕で上手く御しきったのが本ルートであったと考えています。そして、私が本作に期待していたのはまさしく本ルートのような黄金比の実現。故にこそ本ルートには納得の一言。好評せざるを得ないクオリティでとても感服しています。いやホント、『みんな』の時間が個別ルートで大切にされているだけでどれほど私の心が満たされるか……。

 加えて本ルートは、共通パートからの課題であった『つぐみ寮での一年間の生活を守る』の観点からしても納得出来るシナリオとなっていました。沙衣里√では学園長たちを敵とみなし、真っ向から力づくで勝ちをもぎ取りましたが、本ルートではより平和的に課題を解決しています。場面は終盤。高見塚祭における海己の演説。これにより、学園長が情に流される描写がありました。おそらくはこれが決め手でつぐみ寮の存続が決定したのだと読み取れますが、この決定の流れからは決してご都合主義的な不快感は抱きませんでした。というのも、学園長が情に流される原因となった海己の演説内容が、聴衆の『思い出』に訴えかける内容だったからです。本作において『思い出』とは、非常に重要な概念であり、決して蔑ろにすることの出来ない要素であると言えます。だからこそ、学園長が自らの『思い出』に感化され、情に絆されるのも納得なのです。つまるところ、『つぐみ寮での一年間の生活を守る』という課題の解決方法が、本ルートではより本作における重要概念と掛け合わさったモノであったが故に納得出来たというお話でした。

 また、本ルートではたとえ本作の個別ルートでなかったとしても評価出来る点があります。それは、周囲から赦されない関係性を描く上での障害をちゃんと描写したことです。航と海己の恋人関係とは、二人の親のしでかしたことが原因で、南栄生島においては決して赦されない関係性でした。この障害を無視せずシナリオ上で立ち向かい続けた点を私は評価したい。世の中には、例えば兄と実妹との倫理的に問題のある恋人関係や金持ちと庶民との身分違いな恋人関係など、確実に高い壁が障害となって立ち塞がる関係性というモノが存在します。しかし、これら障害になど全く目を向けずにハッピーエンドを迎える作品も散見されるワケです。これはあくまでも私個人の趣味嗜好の話ですが、私はそのように現実問題から目を背けているだけの作品はあまり好きではありません。創作とは『現実からの逃げ場所』ではなく『現実を乗り越える手段』であって欲しいと考えているからです。創作の中でくらい、現実問題をクリアして欲しいんですよ。だからこそ私は、赦されない関係性の前に立ち塞がる障害にしっかりと向き合った本ルートを評価します。

 ちなみに、本ルートにおける私の最も好きな場面は、海己と付き合うことを寮生会メンバー全員に認めさせるために奔走する場面です。実はこの展開も、本ルートの満足度を向上させた要因だったりします。というのも、今までに読んできた個別ルートでは、ほぼ全てにおいてヒロインとの恋人関係が寮生会メンバーに”バレる”という構図でした。要は、航とヒロインの方から能動的に他の寮生会メンバーに対して恋人関係を明かすのは唯一本ルートだけなんですよね。特に感想で語ることもありませんでしたが、正直なところ他ルートではここが少なからず不満点でした。寮生会メンバーを信頼しているハズなのに、なぜ隠すような真似をするのだろうと。それこそがまさしく海己の嫌がっていた『ふたり』の離脱に該当するのではないかと。だからこそ、その反動とでも言いましょうか、本ルートではこの点を特に真剣に描写してくれたことに感謝しています。いや、ましてや沙衣里以外のヒロインは元々航に想いを寄せているワケですからね。各ヒロインがどうやって自らの気持ちにケジメを付けるのかとか読みたかったし……。エロゲ作品はもう少し負けヒロインを描写してくれても良いのよ……?

約束の日

 どんな結末を迎えるかは予見出来ていたハズなのに、それでも泣いてしまいました。
 ここまで見え見えの展開を用意してユーザーを身構えさせた上で、それでも容赦なく涙腺を破壊する本作、あまりにも強すぎる……。無敵貫通で防御力無視かよ……!!

 卒寮式が始まる前からして、本ルートのシナリオは涙腺を刺激してきました。
 石段の数を数えながら登る宮穂。フリースローを打ち続ける凛奈。裏庭の野菜に水をやる海己。リビングで缶ビールを煽る沙衣里。ベランダから島を眺める奈緒子。航の膝の上に座る静。みんなが各々感傷に浸りながらも最後の日常をなぞる光景は、一緒にいられる残りの時間を惜しむように全員で集まるよりも遥かに彼らのかけがえのない『居場所』への想いを描写しているように私の目には映りました。

 そして始まった卒寮式。思ったよりも淡々と紡がれていく振り返りの言葉が何とも彼ららしく。最後まで彼らはいつもの彼らであったからこそ、本当に最後の最後、歌いながら全員が泣いてしまうシーンで私も耐えられませんでした。そこまで彼らがずっと我慢してきたんだと読み取れたから。でも決して塞き止められない程の様々な感情が爆発したのだと理解できたから。この『居場所』が、彼らにとって真にかけがえのない『居場所』なのだと、ひしひしと伝わってきたから。

三田村 茜√

 私がどう感じたかは最後に語るとして、賛否が二極化するような内容ではあったと思います。
 本ルートをあえて『約束の日』以降にしかプレイ出来ないようにした魂胆に関しては、おそらく解釈が分かれるところでしょう。航と過去再会の約束をした女の子が茜であることを明かした上で、実は航にとっての最古の『約束』は物語開始直後に果たされていたというオチをトリとして持ってきたかったのか。それとも、寮生会メンバーとの『約束』を守れなかった世界線も描きたくなっただけなのか。はたまた、寮生会メンバーにとってのかけがえのない『居場所』とは概念的なモノであって、つぐみ寮という形ある場所を失ったとしても決して彼らの『居場所』が霧散することは無いというメッセージを暗に残したかったのか。或いは、どんなことがあっても航は自らを貫き通す『主人公』なのだということを最後に主張したかったのか。私の頭に浮かぶ解釈はこんなところですが、そのどれもが的を射ているようで、同じくどれもが微妙に中心を外しているようなモヤモヤを抱いています。

 個人的には、たとえどのような理由があろうと『約束の日』で綺麗に〆て欲しかったという感想です。本作にとって、あの『さよならのかわりに』以上の終わり方は無いと思いました。茜√という個別ルート自体が悪いのではありません。ただただ、最後に持ってくるシナリオが果たしてこれで良かったのか?という疑念は募るばかりです。

総評


●シナリオについて
 所感にも記した通りですが、じんわりと心に染み渡る作品でした。
 展開的な面白さが突出しているというよりは、ひたすらに雰囲気やキャラクターを好きになれるタイプです。これ系統の作品だと、『俺たちに翼はない』が近しいでしょうか。いや、内容は全然異なりますが。
 細かい感想に関しては各ルート感想をば。

 本作、エロゲ・ギャルゲとして作る上で非常に難しかっただろうなと感じています。というのも、本作では『ヒロインとの約束』というテーマ以外にも揺らいではならない前提本懐があるんですよね。それが『寮生会メンバー全員で最後の1年間を楽しく過ごすこと』です。彼らはこの本懐を常に念頭に置いて生活をし、時としてつぐみ寮を潰そうとする勢力とも戦いました。この前提本懐が達成されるからこそ、来るべき『約束の日』の感動があるワケです。ただ、一見何の変哲もない前提本懐ですが、よくよく思い返していただきたいのがエロゲ・ギャルゲという作品媒体の構造。そう、『ヒロインとの個別ルート』という縛りです。オーソドックスな恋愛シミュレーションゲームとして必要不可欠な要素である『ヒロインとの個別ルート』には、否が応でも主人公とヒロインによる濃密な恋愛模様が求められます。要は、個別ルートにおいては主人公とルートヒロインに焦点を当てることが必須となるワケですね。しかしここで再び先述した前提本懐を思い出してみてください。もうお気付きかと思われますが、実は本作の前提本懐である『寮生会メンバー全員で最後の1年間を楽しく過ごすこと』と本作の媒体要素である『ヒロインとの個別ルート』に求められることは相反する関係性にあります。故に、本作では個別ルートにおいて、『みんな』との生活も描きつつ『ふたり』の恋愛模様も同時に描かなければならなかった。両方蔑ろにしてはいけなかったという何ともライター泣かせな条件が根底にあったことが窺えるワケです。
 この点に関してはさすがの丸戸先生でも手に負えない部分があったのかもしれませんね。『みんな』と『ふたり』の両立が果たされていたと言えるのは、キャラ背景として『ひとり』を知っているからこそ『みんな』を求めたヒロインの個別ルートだけだったのかなと。具体例を挙げると、静√、凛奈√、海己√ですね。特に海己√のシナリオは絶妙な黄金比であったと感じています。逆に、それ以外の宮穂√、沙衣里√、奈緒子√では『ふたり』に寄り過ぎて少々『みんな』が蔑ろになってしまったという印象を抱きました。まぁ、それでも『約束の日』では泣けたので良いのですがね。ユーザーとしても彼らの別れを惜しむには充分な『みんな』の時間を見せてもらったということですし。ただまぁ、欲を言えば全ての個別ルートでもっと『みんな』と『ふたり』のバランスが完璧だったらよかったなぁというないものねだりでした。
 ちなみに茜√は別枠なのでこの理屈からは除外しています。茜√は茜が可愛かったからまぁいいやの気持ち。

 なんだかんだと書き綴りましたが、本作が心に残る作品であったことには変わりありません。あぁ、本作も本日から数日~数ヵ月とか経ってじんわりと”効いてくる”んだろうなぁ……。

余談


 タイトル画面のパターンって何パターンあるんでしょうかね? 私が見つけられたのは以下の5パターンでした。
 22時台だけBGMが『はぐれ雲のブルース』になるの良いですよね……。おそらく作中で航が演奏している時間帯を意識しているのだろうなと。こういう演出の拘り、めちゃくちゃ好きです。

・青空バージョン(BGM : 風のアルペジオ
・夕暮れバージョン(BGM : 風のアルペジオ
・夜バージョン(BGM : 風のアルペジオ
・夜バージョン(BGM : はぐれ雲のブルース)
・深夜バージョン(BGM : 風のアルペジオ
・降雨バージョン(BGM : 風のアルペジオ


おわりに


 『この青空に約束を―』感想、いかかだったでしょうか。

 名作として語り継がれる所以は分かったような気がします。

 次にプレイする作品はまだ特に決めていません。盆休みは実家に帰省するので、ノベルゲームを再開するのはまた自分の部屋に戻ってきてからになるかと。

 それでは✋