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『ヒラヒラヒヒル』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『ヒラヒラヒヒル


 商業ブランド『ANIPLEX.EXE』さんから2023年11月に世に送り出された作品です。シナリオライターはなんと『CARNIVAL』や『SWAN SONG』で有名な瀬戸口廉也先生ということで、非常に期待が高まっております。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 みんな、普通の人間なんだ

 死んだ人間が蘇る。
 古来よりそうした事例が多発する世界。

 蘇った人間は、知性や記憶・認識力が衰え、コミュニケーションが困難となるばかりか、肉体も代謝が衰え、腐敗していく。

 日本では彼らを「ひひる」「クサレ」などと呼び、かつては崇め、時代とともに忌避するようになっていった。

 やがて「ひひる」は医療の対象とされ、疾病として「風爛症」と名付けられる。

 そして大正初期。
 医学博士・加鳥周平は風爛症をとりまく環境や制度が諸外国に比べ遅れていることを嘆き、改善に向けての調査に取り組んでいた。

 その調査に参加することとなった青年医師・千種正光。
 本来は風爛症と関わるはずのなかった学生・天間武雄。

 ふたりの視点を通して、「風爛症」と戦う人々の物語が描かれる────。

 引用元

所感




~以下ネタバレ有~











総評


 素晴らしい作品であったと言わざるを得ないでしょう。
 展開的に突出した面白さがあるタイプではありませんが、ひたすらにユーザーを没入させ虜にするパワーを秘めたタイプではあったと感じています。強烈なテーマ・メッセージ性で一口にユーザーを呑み込んでような魅力を有する作品でした。

 本作は『風爛症』という架空の病気を題材として、それを取り巻く様々な『人間』の生き様をありありと綴った人間ドラマ的作品となっていましたが、それと同時に一種の問題提起が為された作品でもあったのだと私は解釈しています。というのも、症状から鑑みるに、風爛症とは現実に存在する認知症・身体障害・精神障害・精神病・老衰等、様々な病気のごった煮であると考えられるのです。要は、本作では風爛症という設定を用いることで、現代社会において多岐にわたる『”普通”の生活が出来ない人々』をひと纏めに扱っている節があるというワケですね。そんな性質を持つ風爛症を物語の根幹に置いて語られるのは『みんな、普通の人間なんだ』というテーマ。つまるところここから導き出されるメッセージは、「現代社会においても社会問題となっている健常者とそれ以外の方々の断絶・不理解について今一度考えてみよう」という問題提起なのではないかと私は解釈しました。

 提起された問題についてユーザーに考えさせる上で本作の優れていた点は、『提示された風爛症患者を取り巻く状況のバリエーションが非常に豊富なこと』であると私は考えます。本作では主人公(主観者)が2人おり、主観に限っても、風爛症に詳しく風爛症患者との関係も濃い健常者、風爛症に詳しくなく風爛症患者との関係も薄い健常者、風爛症患者本人、風爛症に詳しくないが風爛症患者との関係は濃い健常者という4種類の視点で物語が描写されました。そこに加え、視点者ではないものの様々なサブキャラクターの登場により風爛症を取り巻く状況の視野はますます拡がります。重い症状に苦しむ風爛症患者、症状は軽いが不安を募らせ社会復帰をしたがらない風爛症患者、症状と上手く付き合いつつ社会の中で生きる風爛症患者、風爛症患者に偏見の無い一般市民、風爛症患者に偏見の目を向ける一般市民、風爛症患者を身内に抱える貧乏家庭、風爛症の身内を冷遇する家庭、風爛症の身内を愛する家庭、風爛症が宗教的なモノで治ると信じ込む家庭、介護疲れで自害を選ぶ家庭、そして、風爛症患者との関係が薄い他者……。挙げればキリがないほどに様々なポジションのキャラクターが描かれたことにより、問題提起されたユーザーの思考が偏ってしまわないような工夫がされていた点が非常に素晴らしい点であったなと思っています。

 個人的に本作で最も評価したい点は、あえて主人公のポジションを一気に変化させた点です。元々千種正光は風爛症専門の医者であったとはいえ健常者でしたし、天間武雄は風爛症患者との関わりが薄い健常者であったため、物語序盤において私は正直あまり本作に入り込むことが出来ませんでした。それはきっと、どこか風爛症というモノに対して『他人事』感が否めなかったからです。しかし本作では、物語中盤から千種正光、および天間武雄の愛する相手である常見明子を風爛症に罹らせました。要は、片方の視点では風爛症患者として、もう片方の視点では風爛症患者を介護する人間として、それぞれ一気に『当事者』へと引き上げたのです。これにはユーザー側としても当事者意識を抱かずにはいられませんでした。瀬戸口先生が意図しての仕掛けなにかは分かりませんが、こういったギミックがあるとやはり一瞬で作品に引き込まれてしまいます。素晴らしい物語構成であったかと。

 色々と言及しましたが、結局本作の根幹にあったのはいつもの瀬戸口廉也先生らしさでもあったのかなとも感じています。テーマ的なメッセージは上述した通りですが、コンセプト的な部分では本作もこれまでの瀬戸口作品の例に漏れず、救いのない人生の中でそれでも希望を抱き明るい未来を目指す物語であったのだと解釈しています。
 ……まぁ、私は瀬戸口作品を『キラ☆キラ』しか完走していないので所詮はにわか知識でしか無いのですがね。他作品をある程度完走してからまた本作に立ち返ってみるのもまた面白いのかもしれません。

おわりに


 『ヒラヒラヒヒル』感想、いかかだったでしょうか。

 下手な道徳の教科書よりも心に響くぞ、これ……。

 次にプレイする作品は────正直まだ迷っています。気になる方は私のTwitterアカウントを拝見していただければ。

 それでは✋