BRAIN➡WORLD

ノベルゲーム感想と思考出力

『灯穂奇譚』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

灯穂奇譚
f:id:kingStaku:20210923180202j:plain

 おや……? なんだか見覚えのある絵柄ですね……?
 そう。皆様お察しの通り、本作はかのケロQ/枕所属原画家『基4%』先生が原画を担当されている同人ゲームです。
 さらにさらに、本作のシナリオライターは『横浜元町』先生とのことですが……。実はこの方、かのケロQ/枕所属シナリオライター『すかぢ』先生なのです。ワケあって別名義でシナリオを担当したとのことです(Twitterにて自白しております)。
 んで、終いにゃopもmonetさんが歌っていらっしゃると……。
 ……実質本作ってケロQ/枕作品なのでは……? ってな感じで、スタッフ陣だけでも期待度は爆上がりなのですが────。

 本作を期待してしまう要素、ケロQ/枕ファンにとってはそれだけじゃ無いのですよ。

 というのも本作、2005年に発売された同人ゲームなワケですが、実はこの5年後に発売される名作『素晴らしき日々』と関連する作品になっているとのこと。より具体的に言うと、本作で用いられた『死生観』がそのまま『素晴らしき日々』に利用されているとのことです。なので、物語的に繋がっているというワケではありません。こちらのツイートにてご本人がそのまま言及されていますので、気になる方はぜひ直にご覧ください。

 さぁ、そんなこんなでますます期待値の高まる本作ですが、実際にはいったいどのような内容となっているのでしょうか。
 一先ずは、期待しすぎて自滅ということにだけはならないよう気を付けましょうかね……。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 遠き日に繋がる、夏の体温。
 灯火は誘う――現と幻の、裂け目へと。

 転居から10年の時を経て、生まれ育った山村へと足を踏み入れた
 主人公・永井桐人(きりと)。その目的は、
 村に遺してきた生家を、完全に引き払うためであった。
 成長を遂げた、幼なじみの加茂カナタとの邂逅と、
 久しぶりに四肢に染み渡る田舎での生活は、
 都会での生活に疲れた桐人の心に、潤いに似た安堵感を与えていた。

 しかし。

 夜、偶然見かけた二匹の蛍。何気なく、その飛び行く先を追いかけているうちに、
 桐人は村で奉られている神社へと導かれる。
 そこで感じたのは、幼少の頃には微塵も感じることが無かった、深い闇。

 その日から、見慣れた田舎の風景は一変した。桐人の心を徐々に蝕む、
 深遠から染み出す空気。彼の心は徐々に虚妄に支配され、
 自分自身を維持するための葛藤の時間を必要としていくことになる。
 そんな中――誰もいないはずの神社で出合った、一人の少女。
 その瞬間、桐人の見知った世界に大きな亀裂が走り――
 彼は、村に埋もれていた禁忌へと呑まれていく。

 村に残る、謎の風習。

 「夜に大声を出してはいけない」
 「夜に人と争ってはいけない」
 「月の無い夜に、女性は人前に姿を見せてはいけない」

 全て、同じ苗字の村民。

 神社の奥に奉られているという“祠さま”。
 夏の日差しの裏側にある、月光さえも届かぬ世界。
 その目に映る幾多の灯火は、何を導き、何を語りかけるのか――。

 引用元

所感


 面白かったです……。本当に隙が無い……。
 相変わらずのすかぢ先生クオリティと言いますか。めちゃくちゃ引き込まれましたね。
 また、良かったのは文章だけでなく、演出も相まって雰囲気が完成されておりました。だからこそより没入出来たワケですね。

 序盤は怪異ホラー、中盤は伝奇ホラーとしてめちゃくちゃビビり散らしました。
 それだけでも充分に満足可能な出来だったのですが、やはり本作はすかぢ作品。それだけでは終わりません。
 毎度の如く終盤は、『死生観』にカテゴライズされるテーマを昇華しての〆となります。
 上述の通り、構成からしても飽きさせない工夫が為されており、圧巻でした。すかぢ先生の作品が好きな私にとっても嬉しい内容です。本当に良かった……。
 主人公に腹が立つという点だけが難点ですね。プレイ中はずっとイライラしておりました。プレイされる方は頑張って耐えてくださいね。

 というワケで、本作はケロQ作品が好きな方には特にオススメの一品です。
 同人だからと敬遠することなくプレイしましょう。私はパッケージ版をプレイしましたが、DLsiteにてDL版を手に入れることも出来ますので、手に入る目途が付かない方はぜひそちらよりどうぞ。以下にリンクを添付しておきます。
 ※ちなみに、『素晴らしき日々』や『二重影』をプレイ済みだとより楽しめるかもしれませんよ。

www.dlsite.com

~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 とても良質な作品であったと考えられます。
 安心と信頼のすかぢ作品でした。うん、この一文に尽きる。
 展開的にもテーマ的にも満足度”高”。演出も文句なしに没入度を高めてくれましたしね。

 さて、語っていきましょうか。
 <所感>でも若干上述しましたが、本作は『怪異ホラー』としても『伝奇ホラー』としても優秀な作品であったと考えております。
 文章からしても、演出からしても、とにかく不気味な雰囲気作りが絶妙なんですよね。
 怪異ホラー的には『得体のしれない”何か”に対する不気味な雰囲気』、伝奇ホラー的には『閉鎖的な村特有の異質感的雰囲気』が非常に上手く表現されており、常に恐怖心を掻き立ててきました。
 ちなみに私は小学六年生の頃に貞子で有名な『リング』というホラー映画を観て泣き叫んだ程にホラーが苦手な人種なのですが……。ハイ、お察しの通りです。本作、夜にはプレイすることが出来ませんでした。
 いやマジで。怖すぎた。

 次に語りたいのは、本作の設定的に肝となる部分ですね。
 本作ではケロQの二作目である『二重影』同様に、古事記ベースのオリジナル民話・風習が物語の本筋となっております。
 評価したいのはそのクオリティ。プレイしてみれば分かりますが、これが非常に精密で良く出来ている。いくら元ネタがあるからと言っても……いや、むしろ元ネタがあるからこそ、その制限の中でここまで緻密な設定を作れるのかと驚愕した次第です。
 すかぢ先生は既存の物語や思想を自身の作品に落とし込むことを得意とされているシナリオライターさんですが、本作ではその力量が如実に発揮されていたと感じました。
 しかも、元ネタが同じ古事記でありながら、若干アプローチの仕方が『二重影』と異なるんですよね。よく考えつくモノだなぁ……と。
 『カワヒラキ』に至ってはオチまで完璧でしたからね……。

 最後に語るのは、シナリオ上における主人公に関してです。
 正直な話、本作の主人公は好きになれるタイプではありません。始終イライラさせられました。これが本作における欠点です────と言おうと思っていたんですがね……。
 完走してみると、これがどうにも『欠点』とは断言出来ない。『WHITE ALBUM 2』現象ですね。そういう腹立たしい性格の主人公であるからこそ物語が成立する感じ。
 本作の物語は基本的に、主人公の悪手と逃避思考癖によってどんどん事態が悪化していきます。その影響で、若干説明や展開が冗長になる部分もありました。しかし、最終的に主人公が取った行動は、”この性格の主人公だからこその行動”だったと言えるワケですよ。
 これはもう、納得するしか無い。『欠点』と言えない理由はここにあります。

 

●キャラクターについて
 『永井 桐人』について。主人公。加茂本家跡取り。イザナギの末裔。黄泉の人間と現世の人間のハイブリッド。
 大ッッッッッッッッッッッッ嫌いなタイプの主人公です。
 壊滅的に察しが悪いし、直感的に分からないことは基本質問攻め。自身が本当のギリギリまで追いつめられない限り、自分で考えることに非能動的。結論の根拠に希望的観測が多分に含まれ、加えて自身にとって嫌な物事・事実は基本的に見ないフリ。逃避思考癖。非論理的思考。etc...。
 嫌いな部分を挙げればキリがありません。
 しかしそんな彼の性格だったからこそ、非論理的にも最後はがむしゃらにカナタを救おうとした。死は覆らないという事実を見ないフリして、自滅してでも愛するカナタを生き返らせようとしたワケです。
 物語上にて、ヘイトを稼ぐような性格・言動をする”必要のある”キャラクター。その役割を、彼は担っていたのだと考えられます。でなければ、本作の物語は成立しなかった。
 だからといって、私が永井桐人という主人公を好きになることはありません。しかし、私は彼を、主人公として”認めたい”とは思いました。彼もまた、立派な『主人公』ではあったのだと。

 『ナミ』について。歴代加茂家ママ。実質イザナミ
 メインヒロインというよりは、あくまでもサポートキャラって感じでしたね。正直あまり印象には残っていません。
 調べた感じ、True√は実質ナミ√みたいな扱いなんですかね? カナタがメインヒロインとしか思えませんでしたけど……。
 根源に繋がる道の番人という感じですが、音無彩名レベルの存在だったりするんでしょうかね。目が完全に”そっち側”の存在的な場面がいくつかありましたが……。
 どうでもいいですけど包容力のあるロリママって良いですよね。

 『加茂 カナタ』について。暴力メインヒロイン。腹違いの妹であり幼馴染。三年前に白血病で亡くなった死者。
 熊や野犬(山の主)と素手で戦っても、余裕綽々と無傷で帰ってくる程の戦闘力。山の主との戦闘シーンは笑いました。
 序盤は典型的な理不尽暴力ヒロインだったので嫌悪感を覚えておりましたが、中盤からはそれもナリを潜めて印象向上。
 テーマとも直結するキャラクターで、『”幸福に生きた”人間』の代表例的存在として描かれました。儚くも、重要なキャラクターであったと思います。
 こんなに想ってくれる幼馴染が私も欲しかったですね。羨ましい。

 『稗田 霧香』について。桐人のゼミの同期。優等生。民俗学ジャンキー。とっつきづらい毒舌。
 最初は「なんか嫌なヤツが来たな。すぐ死にそう」くらいにしか思っていなかったんですが、蓋を開けてみればガチ有能枠だった上にめちゃくちゃファンキーなジャンキーで笑いました。本作のトリック自体9割方彼女が解いてますし、正直な話トリック面に関して主人公は彼女におんぶにだっこだったに過ぎません。彼女がいなければ確実に何も解決しないまま詰んでいました。
 思っていた通り彼女はサユキさんからの襲撃によってフェードアウトしますが、予想外だったのはそこから終盤になって復活してきたこと。しかもそれなりの重傷だったくせに、何食わぬ顔で病院抜け出して佐奈伎村に戻ってきた形ですからね……。並の人間なら、そもそもそんなすぐに自分が襲われた村に戻ってくること自体、恐怖で出来やしませんよ……。
 さらには彼女、自分が死にかけているにも関わらず、”どうすれば主人公が自分から行動するか”を考えて仕込みまで行っていたワケです。(実際彼女の思惑通り、主人公は彼女がフェードアウトしている間、能動的に行動しておりました)
 本作のMVPであることは確実な彼女。まぁ、作中ではその後、佐奈伎村について学会に発表して学会から干されましたが……。実に彼女らしいです。
 完走時には、好きなキャラ筆頭となっていました。

 『加茂 サユキ』について。カナタの母親。黒幕。
 動機が動機だけに、どうしても憎めない黒幕です。
 カナタのために独り村に残り、最後はカナタに自分の運命を差し出すことすら即決。それだけ娘であるカナタを愛していたということですもんね……。
 カナタの想いを胸に、新たな家庭の中で『幸福』を掴んで欲しいです。

●テーマ・メッセージについて
死は全てだが、死ぬ事は全てを奪わない
 死生観ですね。
 死ねば人間はそこで終わりですが、過去(思い出)は確実に存在したモノとして決して奪われはしません。
 本来止まっているのが正常である『時間』は、人の力によって動かされます。そして、死んで再び時間が止まれば、その人の動かしていた時間はその人を永遠の相として包みます。
 つまり、その人の過去(思い出)は、その人が過ごした『時間』として死後その人を包み込むのです。だから寂しくないのです。
 故に、生前────時間が動いている時には、希望を胸に”幸福に生きる”必要があるワケです。
 このあたりが、『素晴らしき日々』にそのまま引き継がれている死生観なのでしょうね。

おわりに


 『灯穂奇譚』感想、いかかだったでしょうか。

 まだまだ考察出来る要素はありますので、今後も理解を深めていきたい作品です。

 次にプレイする作品は未定です。一先ず『かけぬけ』を進めながら決めようかなと。やりたい作品が多くて困りますね。

 それでは✋