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『孤独に効く百合』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『孤独に効く百合』
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 同人サークル『夜のひつじ』の処女作です。
 今でこそ口リゲーサークルとして有名な夜のひつじさんですが、処女作は非18禁で且つ口リゲーじゃなかったんですねぇ。

 はたして夜のひつじさんはどのようなシナリオでスタートを切ったのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 初対面はキスだった——。

 高校一年、初夏。紺野芙紗(こんのふさ)は自由気ままな引きこもり少女・セリと出会う。

 生真面目な芙紗はセリに翻弄されつつも、いつしか心をひらいていく。

 抱き合って指を絡めて見つめ合って。

 二人の少女は好きな人と触れ合う心地良さを知った。お互いをもっと深く知りたいと思った。

 引用元

所感


 百合です。
 ひたすらに神秘的な光景を見せられているかのように感じられる作品でした。
 絡み合う描写は艶めかしく、まるで溶け合う甘い蜜のようで。
 あえてこれを非18禁でやるという心意気に感心しましたね。

 心理描写も力の入っている方であると感じられ、決して表面的な百合でなかったことは確かです。

 面白かったかと問われれば言葉を濁しますが、少なくとも『百合』というジャンルにおいては感じ入るモノのある良作であったと言えるのではないかと考えております。

~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 面白いかと問われれば言葉は濁します。しかし『百合』というジャンルにおいて重要要素とも考えられる『神秘性』は、とても感じられました。

 良かった点としては、まず『百合描写が絶妙に妖艶だった点』が挙げられるでしょう。
 本作は短編でこそありますが、そのほとんどのパートが絡み合いのパートであり、だからこそそれら場面場面が強く印象に残りました。
 凄いのは、そのどれもがどこか妖艶さを漂わせていた点です。
 間違っても、”誰か他の存在”が介入することは決して許されない。そう思わせる程の、一種の絶対的な聖域(二人だけの空間)。そんな空間が、本作上では形成されているワケです。
 作中でも、主人公とヒロインが絡み合う舞台は常にヒロインの部屋のみ。ヒロインの部屋は、ヒロインが好きなモノだけを集めて引き籠っている空間です。
 主人公はその特性上、ヒロインの部屋を『完結した部屋』と呼称していました。しかし私的には、物語外から与えられる役割としての『聖域』という意味合いとも掛かった呼称であると思えてなりません。要は、ダブルミーニングなのではないかということですね。
 失礼、少し脱線しました……。本題に戻ります。
 まぁ、そんで、皆様に思い出していただきたいのが、上述した通り本作は『非18禁作品』であるということ。そう、エロシーンなんざ一つもないワケです。これつまり、18禁要素を使うことなく、テキストとイラストと音楽が織りなす『雰囲気』のみで、妖艶さを表現していたということなんです。この点、非常に評価したい点ですね。

 もう一つの良かった点としては、『葛藤描写が比較的丁寧であった点』が挙げられます。
 本作では、『この先ずっと一緒にいよう』とヒロインに提案された主人公が、色々考慮して葛藤するシーンがあります。要は、「百合百合して両想いになったから今後も一緒にいることを即決」みたいなテキトーなことをしないで、その提案を受けて揺れる主人公の心をしっかり描写していたってことです。
 これがあったからこそ、本作はチープな百合にはならなかったのかなとも思えます。こういう葛藤って、百合以外のジャンルであっても重要なのですよね。葛藤大事。マジで。例外はあれど、基本的にはそれが無いだけで薄っぺらくなる。

 さて、しかし本作、良かった点ばかりではありません。
 本作の悪かった点としては、『主人公およびヒロインの背景が描写不足である点』が挙げられます。
 短編だから仕方が無いのかもしれませんが、圧倒的にこの描写が足りませんでした。
 タイトルにもある通り、本作は『孤独』という単語が一種のキーワードになっています。
 『”孤独に効く”百合』なワケですから、主人公とヒロインは孤独なワケです。そんな孤独な二人が、ひょんなことから出会い、やがて共依存関係になっていくというのが本作の流れなワケですよ。
 要は、そもそも本作の物語が成立する上で、原点的に重要な要素の一つが、『二人が孤独な理由』だったりするんですね。
 しかし本作では、主人公の孤独理由には軽く触れるだけ(あとは想像してねという投げやりなレベル)。ヒロインの孤独理由には、もはやほぼ触れません(ただ孤独であるという事実があるだけ)。
 これでは、感情移入は難しいんですよね。二人が何を背負っているのかが不明瞭な以上、そこから地続きな二人の関係(共依存)に対して思いっきり感情移入するなんてことは出来ないワケですよ。
 なので、『二人が孤独な理由』に関してはしっかりと物語上で明かして欲しかったという点が、悪かった点であり、尚且つ不満点です。

●キャラクターについて
 『紺野 芙紗』について。主人公。セリの魅力に飲まれていく存在。受動的。
 頼まれたら断れない。何もかもが遅くなってから、途端に手を伸ばす。言い訳ばかりを探す。
 何とも不器用な生き方だと思いました。彼女の家は事情が複雑”っぽい”ですが、彼女の人格形成がどのような環境で為されたのかは気になりますね。妹はいったいどうなったのか、なぜ家族とは現在疎遠なのか。分からないコトだらけです。

 『饗庭 セリ』について。ヒロイン。引きこもり。好きなモノだけを集めた部屋の主。積極的。
 芙紗以上に背景に謎の多いキャラクターです。なぜ彼女は孤独になったのか……。
 まぁそれはそれとして、彼女が芙紗を気に入った理由って、表面上では『寂しそうに見えたから』で、本心ではおそらく『自分に似た境遇であることを感じ取ったから』ですよね? その点、芙紗の内面をあまり見ていない────つまり、相手が芙紗でなければならない必要性っていうのが希薄であると個人的には感じました。
 今後一生付き合っていくことを約束した二人ではありますが、その点でいつか二人の関係に亀裂が入らないか否かだけが心配だったりします。

おわりに


 『孤独に効く百合』感想、いかかだったでしょうか。

 次にプレイする作品は────。まぁ、色々と予定しております。正直何が先に終わって、どれの感想記事を書くのかがイマイチ現在はふわふわしているところなので、気になる方はTwitterで動向でもご覧いただけると。

 それでは✋