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ノベルゲーム感想と思考出力

『MYTH』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『MYTH』


 ついに……ついにこの作品に触れる日が来ました……。
 同人サークル『Circletempo』さんの代表作です。
 知る人ぞ知る名作でもあります。巷で耳にする噂から鑑みるに、私の手持ちの中でも特に重量級な作品と言えるでしょう。
 故にこそ、時間的余裕と思考的余裕のあるこの盆休みにプレイすることを決めていました。
 それなりの覚悟を以て臨むワケではありますが、はたしてどのような物語を魅せてくれるのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

 ※今回は、MYTHに加えてその補完的役割を持つ『Aguni -運命の先-』という作品も同時並行でプレイしていきます。『Aguni -運命の先-』の感想記事はまた別にアップしておりますので、併せてどうぞ。

あらすじ


 空を眺めてた。

 明日の無い空。

 すべて終わった場所。

 私、ひとり。

 MYTH

 ひとつの決意を固めて、私は、それと向き合う。

 無機質に佇むそれに向かい、私は呟く。

 “光のモノよ”

 “どうか、その扉の先へ”

 “そして、私の、元に”

 引用元

所感


 凄かったです……。(語彙力消失)
 いや、ホント……。プレイ後、「ヤバ」しか言えませんでしたもん……。

 というワケで、紛れもなく名作です。非常にクオリティが高い。
 独特なコンセプト。綿密なシナリオ。強靭なテーマ。巧みな演出。ユーザーに寄り添ったシステム周り。どれをとっても高水準と断言できます。
 ただ、非ッッッッッッッ常に難しい。理解をするために割く思考リソースは並大抵ではありません。正直な話、私自身も本作を全て理解出来たかと問われれば首を横に振ります。その点、考察好きな方々には確実にウケる作品です。
 (それはそれとして、システム面がとても親切なので、最低限の理解は得られます。ご安心ください。)

 さて、ここまで散々アゲておいてなんなのですが、少々問題発言をば。
 実は私、本作に対し、『自覚的(或いは直感的)な面白さ』をほとんど感じませんでした。
 「おいおいおいおい」と思われた方、落ち着いてくださいね。上述は布石です。
 そう。結局最後まで、「おもしれええええええ」とは決してならなかったんですよ。
 しかしふと振り返ると、『プレイ中、絶えずこの物語に没入し、考察しつつも先を求めて読み進めていた自分』の姿に気づいたんですね。
 つまり、私が本作に対して感じていたのは、『自覚的(或いは直感的)な面白さ』ではなく『無自覚的(或いは潜在的)な面白さ』だったのだろうな、と。
 これはあくまでも個人的な話だとは思いますが、MYTHとはそういう魅力を持った作品だったということを感じ取っていただければ。

 まぁ、何はともあれ、素晴らしい作品だったという結論です。
 パッケージ版はどのバージョンもレアな上にプレミアが付いておりますが、DL版は定価でBOOTHより購入できます。
 以下にリンクを添付しておきますので、未プレイの方は是非そちらよりお買い求めください!!!

 ※ちなみに、私の友人の批評空間でのMYTH感想は「ヤバ」(90点)のままです。

circletempo.booth.pm

~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 ネタバレ無しで褒めちぎれる部分はほとんど<感想>パートで語りつくしてしまった気もしますが……。
 改めて言わせてもらうならば、本作は非常にハイクオリティな作品であり、噂に違わぬ名作でした。
 細部まで綿密に練られたシナリオは言わずもがな、芯となるテーマは強靭。作品としての個性も抜群。シナリオを彩る演出や音楽も巧妙。その上、システム面までユーザーに寄り添った親切設計で、文句の付けようが無い作品と評せるでしょう。

 ではここからは、具体的にどの点が高評価ポイントだったのかを語っていきます。

 まずは、何と言っても『シナリオの組み立て方が抜群に上手かった点』でしょう。
 本作が非常に難易度の高い作品であることは前述しました。しかし何も、「最終的に何が何だか分からない」という意味では無いのです。むしろ、最後までプレイすることでちゃんと、『本作が言いたかったこと』や『トリックの真相』は分かるんです。ただ、作品全体で何が起こっていたのかを全て整理して理解する難易度が高いだけなんです。
 要は、どれだけ複雑であっても、最終的にはユーザーに(最低限)理解させるようなシナリオ展開に仕上がっていたということです。
 いやホント、あの複雑な物語をあんなにも丁寧に広げて丁寧に畳みきるって……。ましてや、複数世界・複数視点を適切に場面転換しなければならないシナリオ構造でしたので、ライター側に課せられる難易度は並大抵のモノではありません。尊敬の域ですよ。

 次に挙げる高評価ポイントは、『プレイヤーに対するヒントの出し方が絶妙だった点』ですね。
 こちら、上記の『シナリオの組み立て方が抜群に上手かった点』とも若干繋がってくる話なのですが。
 本作、けっこう序盤から真相に至るためのヒントらしき情報はガツガツと出てきます。それ故に、常に展開考察を行いながらプレイすることが出来たワケですね。
 こういう系統の作品をプレイする際、大抵ヒントから考察した展開(複数)や真相のどれかに当たっている或いは掠っているというケースが多いのですが、本作はそもそもヒントから考察上の未来展開や真相に至ることすら出来ませんでした。
 先の展開や真相を考察する上でのヒントは貰えているのに、全く自信を持って先の展開や真相を考察することが出来ないというのは、何とも今までに経験したことの無い感覚であり、非常にむず痒かったですね……。
 しかし、だからこそ本作では、『思考』と『展開』の両方を楽しむことが出来たのだと思います。
 ……これ込みであのシナリオの組み立て……? いったいどんな技術してるのライターさん……。

 三つ目の高評価ポイントとしては、『コメディとシリアスのどちらもが面白かった点』が挙げられます。
 本作は基本的にシリアスとホラーの混ざり合ったような作風で進行していく作品ですが、それなりにコメディ要素もあります。それこそ1周目10日目まではコメディ要素が大部分でしたね。
 んで本作、コメディがしっかり面白いんですよ。読んでいて飽きないんです。終わってみれば何でもない、”シナリオに沿った”茶番であってもしっかり楽しめる内容に仕上がっていた。これ、非常に大きいんですよね。日常パートが面白くないって地獄な割にノベルゲだとよくよくありますからね……。
 もちろん本作の大部分を占めるシリアス部分は申し分無し。ホラー部分も、演出・テキスト共に感性に響くモノでした。中でも、新藤琴美の生前の独白や、半現実化が進行したオーディンの顔にはゾッとしましたね。
 総じて、日常パート(コメディ)もシリアスも面白く、両者間にメリハリがありつつ調和する部分もあったからこそ、尚更飽きずに楽しめたという感じです。
 ちなみに個人的には、1周目中盤で主人公が狂ったパート(動く死体とコメディ)のような、『シリアスホラーとコメディの調和』こそが本作のライターさんの持つ真骨頂の一つであると考えております。

 最後の高評価ポイントとして挙げるのは、『演出やシステム面の優秀さ』です。
 正確には<シナリオについて>ではないのですが、わりかし優秀だったのがどれもシナリオに精通する演出やシステムあったため、ここで挙げさせていただきます。

 というワケで、まずは『演出』なのですが。全てを語るワケではなく、あくまでも根幹に関係する要素のみを抜粋します。
 前提として、本作は大きく分けて第一部・第二部・第三部の3つに分けられます。
 そして本作では、第一部から第二部、第三部と進むにつれて、新たに追加される演出があります。
 それが、第二部での『キャラの瞬き実装』と、第三部での『キャラボイス実装』です。
 最初から実装するのではなく、部が進む毎に徐々に実装するスタイル……。これが何を意図しているのかは本作中では明言されていません。
 しかし私は、このスタイルが、『物語が徐々に真相に近づいている』或いは『MYTHが徐々に現実に近づいている』ということを暗に表現していたのではないかと思えて仕方がありません。逆説的に、そういう意図が無ければこんなスタイルにはならないよなとも。
 いやホント……。そういう演出良いですよね……。

 で、次は『システム面』の優秀さについて。これもシナリオに直結する要素だけ語ります。
 本作には、商業・同人どちらの作品でもあまり見ないモードが実装されていました。それが、『ノート閲覧モード』と『人物相関図閲覧モード』です。『ノート閲覧モード』は、主人公が物語中で記した備忘録や考察を閲覧することが可能なモード。『人物相関図閲覧モード』はそのまま各世界・各部における人物相関図とキャラの概要を閲覧することが出来るモードです。
 これがめっっっっっっっっっっっちゃくちゃ理解の手助けになりました。逐一これら機能で開示済み情報を確認していたからこそ、なんとか理解しながら読み進めることが出来たと言っても過言ではないでしょう。
 開発者の方々は本作がこれほどまでに難しくなることを理解していた。だからこそユーザーに寄り添ってこういう機能を実装してくれたのでしょう。有難い限りです。
 こういう機能、作中のキャラと一緒に情報を追っている感あって尚の事没入感増しますよね。とても良い。






 ちなみにこれら機能以外にもシステム面は非常に充実しておりました。
 バックログ、シーン回想、CG鑑賞モード、サウンドモードは当然のように実装してありましたし、UI周りも各視点(MYTH、Sign、違世界編)で違って細かいなと思いましたし。
 これで2008年の同人作品ですからね……。クオリティとしては、普通に商業作品と言っても遜色ありませんでした。

 ……なんだかほとんどシナリオを掘り下げることなく、シナリオについての総評が終わっちゃいましたね。いやまぁ、それもまた良いでしょう。どうせ毎度、<総評>パートは既プレイ者対象で書いてますし……。

 まぁでも、別に書きたいことが無いワケではないので、ちょろっとだけ語りましょうかね。

 本作の内容について、個人的に”特に”印象に残っているモノについて。
 といっても、そういう特に印象に残っている系の内容はわりかし上述しちゃってますね。主人公の狂気シーンだとか、コメディシーンだとか。あとは、生前の琴美の独白シーンだとか。
 それらを省いた上で挙げられるモノと言えば……そうだな……。
 二周目B終盤になってからの、怒涛の展開加速が印象的ですね。具体的に言うと、主人公────田辺命人とヴァ―サーカーが両者共に踏切に辿り着いたあたりからの展開です。それまでどこか真相に至りきれなかった思考に対し、一気に真相を畳みかけてくるような展開でした。
 ここいらの展開加速を経験して気づいたことなのですが、本作ってシナリオ構造的に場面ごとのシナリオの『速度』的なモノも適切なんですよね。一切冗長ではないというか。最もプレイヤーが進んで欲しいと思っている速度でシナリオが進行してくれるというか。その点でも飽きさせない工夫がされていたいうことなんでしょうね。

 あと挙げられる印象的な内容と言えば……。
 何のためにあるのかも分からなかった序盤の選択肢が、最後の最後にテーマに繋がってくるというのは鳥肌が立ちましたね。
 本作は一種の『創作賛歌』作品なワケですが、それを念頭に置くと……。「寄り道する/帰宅する」という選択肢で、序盤は「寄り道をする(=シナリオに抗う)」という選択をしないと物語が進まなかったんですが、創作物としてシナリオに従うことを是としたラストシーンでは、同じ選択肢であっても「帰宅する(=シナリオに従う)」という選択しか出来ない仕様になっていると。
 こういうの、選択肢で物語が分岐するノベルゲームだからこその演出といいますか。いいですよね。

 あ、あと、あらすじってオーディンの独白だったんですね。完走後に意味が分かる系の歌詞とかはよく聞く話ですけど、あらすじがそういう形式ってあんまり聞かなくないですか? いや、めちゃくちゃ良い……。

●キャラクターについて
 『田辺命人(ヴァ―サーカー)』について。主人公。オーディンによって創られたキャラクター。MYTHを破壊する存在。
 空虚な存在でありながら、テーマの一つの体現として確固たる『意味』を有するキャラクターに仕上がっていました。紛れもなく主人公であったと言えるでしょう。
 個人的には、似た境遇の存在としてしっかりとオーディンの『希望』にも理解を示した点にとても好感が持てました。これがあることで、あれだけMYTHから現実へ行きたがっていた命人が、『自身の意味』を果たすためにMYTH上の存在であり続けると選択したことにも箔が付きますからね。
 ちなみに、ヴァ―サーカーが命人自身であることは序盤からほぼ確定事項として予想しておりました。しかし、シナリオ上で明言されるまでは確固たる根拠を掴めなかったんですよね。それもあって、ヴァ―サーカーの正体についての真相パートも楽しんで読めました。いやホント、上述もしましたが、提示ヒントの取捨選択が上手すぎるのですよライターさん。

 『ヴァルキリー(梓門)』について。管理者側の一員。MYTHシステムのために生み出されたAI。MYTHシステムに希望を持ち、物語を賛歌する者。
 ヴァルキリーとしての初登場シーンでは、梓門とのギャップに驚きました。二周目からは梓門の態度を見て「これをヴァルキリーが演じていると思うと笑えるな。ヴァルキリーも嫌々なのでは?」とか思っていたのですが、終盤ではむしろ梓門を演じることを楽しんでいる様子が窺えましたね。
 個人的には、最も思考を振り回されたキャラと言えます。敵なのか味方なのか。本来の目的は何なのか。言動からしてヒントは残してくれているのに、イマイチ掴めない。そんなミステリアスなキャラとして、本作の巧みなシナリオ構成の体現者として君臨していた存在でしょう。
 命人と手を繋いで歩いていく後ろ姿のイベントCG。あれどうして本編で使ってくれなかったんでしょうね……。

 『悧里』について。アグニの統治者。『全知』の超力者。
 悧里に関しても、本来の人格とのギャップには驚きましたね。
 アグニの頃から変わらない面もあれば、あの結末を経て丸くなった部分も窺えました。
 MYTHにおいては相当に重要キャラでしたね。彼女がいるかいないかで一周目からして流れは全く異なるモノになっていたのではないでしょうか。
 個人的には、最も正体周りが複雑なキャラです。正直自分の認識に自身がありません……。詳しくは<軽い考察とか疑問点とか>パートで。

 『綺姫(奏)』について。アグニの占者。悧里の義妹。『未来予想』の超力者。”創られた存在”。
 重要なキャラではありましたが、毎度どこか物語の渦中からは若干外れたところにいた印象を受けるキャラです。
 彼女もシナリオ上の性格と本来の人格の性格のギャップが大きいタイプで、いきなり本来の人格(綺姫)としてのおしとやかさを見せられた際にはかなり驚きました。ただまぁ、綺姫としての彼女も、奏としての彼女も好きですね。シナリオから解放されてロキと会話している間は、綺姫と奏を足して2で割ったような口調になっていましたが、アレもMYTH上のキャラとしてシナリオに沿って生きることを選択したという意思の表れなんでしょうかね。
 さて、彼女に関しても、実はイマイチ正体を掴みかねています。こちらも詳しくは<軽い考察とか疑問点とか>パートで。

 『山上友里(ヒイロ』について。命人の彼女”役”。ロキの妻。弁護士。主要キャラでありながら、正式な現実での死者の一人でもあった存在。
 彼女が登場してから物語のギアが上がったのはたしかですね。
 命人のオリジナル体であるロキの妻であり、2002年東京時点から命人の彼女役でもあり、2016年東京(半現実世界として胎動を促す世界)では主人公でもあったあたり、相当に重要なキャラです。限りなく中心人物と言ってもいいでしょう。それと同時に、ポジション的には最もシナリオに良いように扱われたキャラだったとも考えられます。
 最後には本来の夫であるロキ(江戸川)や息子とMYTH内で再会出来たようで、本当に良かった……。

 『オーディン(市井悠爾)』について。管理者側の一員。MYTHシステムのために生み出されたAI。黒幕。運命に抗い、現実に手を伸ばした創作存在。
 正直憎めない黒幕です。むしろ彼女の選択を私は評価します。よほど人間味のある行動です。
 説得の末、彼女自身としても納得出来るところに落とし込まれているとよいのですがね……。

 『ロキ(江戸川)』について。管理者の一員。刑事。友里の本来の夫。命人のモデル。
 役割や経緯的には、裏の主人公とも言えるのかもしれませんね。登場頻度の少なさに比べて、彼の存在の重要度は非常に高いです。彼が存在しなければ、本作の物語がそもそも成立しないレベルでしょう。
 最後には念願の妻との再会を叶えられてるようで、本当に良かった……。

 『市井諒子(現実)』について。MYTHシステムの開発者。訪印教の一員。
 後は終焉を迎えるだけの現実世界で、それでも未来へ希望を繋ぐために成し遂げた偉業は、非常に素晴らしいモノであると言えます。
 彼女に、命人の声は響いたのでしょうか……。

 『進藤響』について。影の少女。琴美の娘。
 MYTH上にて、琴美に殺され続ける可哀想な存在。
 そして、運命から逃れることに成功し、尚且つ新たな物語に希望を抱く存在としても描かれています。
 この点、彼女はオーディンの対比的存在でもあると個人的には考えております。

 『進藤琴美』について。影の女性。響の母親。現実世界にて夫を殺した異常者。
 裏では不死身の響を殺しまくっていた、というか響を殺し続けるためにMYTHを訪れたキャラです。
 彼女に関しては、現実世界における倫理観のタガが外れた独白描写が非常に印象深く残っております。
 『愛』を求めているのに、『性行為』でしか『愛』を感じられない。他のカタチではどうしようもない。歪んでいる、或いはズレている価値観。
 浮気した夫を殺し、夫の性器を切り落として腐るまで自身の性器の中に入れたままにしておくとか、いったいどんな発想力していたらこんな描写書けるんですかねライターさん……。

●テーマ・メッセージについて
物語は希望
 本作の最終的な結論であり、尚且つ芯となるテーマであったとも考えられます。
 一種の『創作賛歌』ですね。
 物語は人間にとっての『理想』であり『夢』。それこそ、シナリオに自分の身を委ねてもいいと思える程に。
 そして、それは何も物語の主人公となる”当人”にとってだけの話ではなく。
 きっと、その物語を観た”誰か”もまた、何らかの形で心を動かす。
 だからこその『MYTH────無限の夢の記録媒体』。

架空の人間だって生きているです
 上述した創作賛歌に繋がるメッセージです。”ヴァルキリー”────いや、あえての”梓門”のセリフですね。
 オーディンは、在り方が定められていて運命から逃れることの出来ない『二次元的存在』を否定した。
 中盤の田辺命人は、自分の意思がありながらもシナリオに従わざるを得ない『空虚感』を嫌悪した。
 それらの否定や嫌悪に対するアンサーがこのセリフでした。
 たとえ運命が定められていても、たとえシナリオに従わざるを得ないのだとしても、架空の人間には『意思』がある。
 『意思』を以て、『空虚』の中に『希望』を見ている。
 だから、いいじゃないかと。

無意味なものに思えても、意味はある
 あまり目立ちませんでしたが、本作のいたるところに点在していたメッセージかと思われます。
 本メッセージが最も色濃く語られたのは、『光の世界────完璧主義』での価値観と奏の価値観で板挟みになった一周目の命人が答えに至る場面でしょう。完璧を求めればまず無意味な行為であっても、そこに悦楽を感じるが故に意味があるというニュアンスで語られたんだったハズ。
 ただそのパートって、創られた『シナリオ』の場面なんですよ。なので、本筋には関係のないメッセージ性と考えるのが妥当だと最初は思っていたんですよね。
 しかし、どうにもこのメッセージ性は最後まで付きまとうワケですよ。
 田辺命人という空虚な存在が、本作の問題を解決する『意味』を担っていたり。そもそも『MYTH』というシステムの存在自体が、人類の滅んだ世界でいつか現れる知的生命体の心を動かすという『意味』を持っていたり。
 オーディンの起こした今回の反逆さえも、最終的には『多くのキャラクターを生み出し、それらのキャラクターに道を与えた行為』として『意味』のあるものと捉えられていますからね。
 無意味と思われることにだって、何かしらの意味はあるのです。

完璧であることの不完全性
 このメッセージも色濃く語られたのは一周目の『シナリオ』上ですね。
 完璧な合理主義であるからこそ、人間性が消失している。故に、他者の感情や意図を読めない。これは、紛れもなく人間としては『欠陥』です。
 人間性とは、非合理的な『不完全性』から生まれると言っても過言ではないのかもしれません。
 ……これ、何かの作品でも見たことあるんですよねぇ……。なんだったかなぁ……。
 ちなみに本メッセージは特にその後も本作に根差していたというワケではありません(多分)。私が個人的に好きなメッセージだったのでピックアップしました。

軽い考察とか疑問点とか


本作の結論は賛否両論になりそうというお話」(考察……?)
 本作における結論は上述したテーマの通りなのですが、一方で本作の結論って『ポストアポカリプスよりもディストピアの方が良いよね』的な側面もあると思うんですよ。
 正直自分も選択的には運命に抗ったオーディンの選択の方が好きではありますし。
 そこんとこ、他の方の意見も訊いてみたい感ありますね。

『”と”く』の意味」(考察)
 命人が2002年東京からMYTHに来るにあたって両親から託された言葉です。
 2002年東京自体がオーディンの計画と命人によって創り上げられた世界だと分かった以上、この問いも正確には意味を為さないモノではあるのですがね。
 それでもあえて深読みするのであれば、きっと終盤展開や命人の存在意味を見越して、『とく=説く?(創造主の説得)』という意味合いで張られた伏線だったのではないかと考察しております。

”白背景タイトル画面”と”人物相関図右上の空欄の意味”」(考察)
 <テーマ・メッセージ>パートでも記述しましたが、本作のテーマにはおそらく『物語は希望』という考え方が根差しています。そこから私は、『白背景タイトル画面』を『ここからはあなたの記す物語である』という意味、そして『人物相関図右上の空欄』を『あなたのための世界欄』という意味であると考察しました。
 これも深読みの領域を出ないとは思いますが、明らかに意図的な仕様ですのでね……。




訪印教の真相」(考察)
 結局最後まで正体が明言されなかった組織である訪印教……なんですが……。
 ぶっちゃけ正体を考察する上では、2016年東京の訪印教ってほとんど考慮しなくても良いと考えております。
 新藤琴美の過去回想や”MYTHとの繋がり”、そしてロキの証言から考察するに、訪印教とはシンプルに『MYTHシステム研究機関』であると考えて良いでしょう。
 オーディンの計画の一部として、命人によって形成された2002年東京の延長線上である2016年東京。そこでの訪印教は、本来の訪印教を解き明かす上では若干ブラフが多すぎると思いました。

悧里と綺姫の正体」(疑問)
 結局、悧里が現実の市井諒子をモデルとした創作キャラで、綺姫はその補助的な創作キャラって認識で良いんですかね?
 分かる方、コメントやらTwitterのリプやらででも教えていただけると嬉しいです。

最後の悧里って結局誰?」(疑問)
 終盤で、命人と綺姫のいない世界からヴァルキリーや老悧里(一周目悧里)に連れられて光の世界にやってきた悧里です。
 アレがはたして取り残された悧里だったのか、もしくは市井諒子だったのか、或いは市井諒子とリンクしたオーディンだったのかというのがイマイチ判別がつきませんでした。
 あの流れでアグニに還ったあたりは悧里とも考えられますし、命人やヴァルキリーから説得のようなモノを受けたあたりはオーディンにリンクされた市井諒子であったとも考えられます。というかもしかして、悧里の正体的に両方が当てハマるんですかね?

ヴァ―サーカー覚醒のために踏切に現れた諒子はどの悧里か?」(疑問)
 あの場面の市井諒子のみ、どの悧里が該当するのか分かりません。
 一番可能性が高いのは、一周目の悧里(後の老悧里)だと考えております。
 理屈としては、オーディンの計画と命人によって創られた2002年東京の、11月24日以前の市井諒子としては、既に一周目の悧里が配役として確定的にあてがわれていると考えられるからって感じなのですが……。
 これに関しても、他の意見は受け付けております。どしどし送ってきてください。

最後に寝転がっていた諒子は誰?」(疑問)
 ラストシーン。命人とヴァルキリーが見つめた世界の一つである『現実世界に酷似した世界』。そこで機械から出て外に寝転がった老人。おそらくは市井諒子なワケなので、現実世界の市井諒子と考えるのが妥当ですが……。
 その世界に目を向けるきっかけとなったのが、命人の「オーディンはどうした?」という発言でした。それに対してヴァルキリーが指さした先にあったのがこの世界です。
 流れ的には、MYTHの世界の一つで市井諒子の皮を被り、自分なりの結末に辿り着いたオーディンとも考えられるんですよね。
 本物の諒子か、それとも諒子の姿をしたオーディンか。どちらなのでしょうか。

アースガルドの荒々しいカゲとは何だったのか」(疑問)
 ヴァーサーカーがざっくざっくと切り捨てていたあの獰猛なアースガルド在住の存在です。オーディン曰く「可哀想な存在」とのことですが……。
 三周目で語られた一周目後舞台裏におけるアースガルド描写からして、現実世界の死体の再現とも考えられますが……。
 まだMYTHのキャラとして成立する前の存在と考えるのが妥当ですが、それだとヴァーサーカーが切り捨てていたのが謎ですよね。
 あれもヴァーサーカーの正常じゃない思考が生み出した幻覚だったりするんですかね……?

無夢周りの関係上、AguniのBad end 3は重要では?」(微々たる文句)
 終盤で悧里と綺姫がアグニに還った際、二人が海岸で無夢と出会うシーンがありました。
 これ、『Aguni -運命の先-』のBad end 3で無夢が語った未回収伏線だったんですよね。なのでそのシーンを描写する以上は『Aguni -運命の先-』のBad end 3って重要だと思うのですが、生憎とMYTH同梱版の『Aguni -運命の先-』ではTrue endにしか行けないという……。

ここ好きポイント


二周目B終了後のタイトル画面。演出からしてあまりにも良すぎる。


■半現実化したオーディン。怖すぎ。最初見た時ビビったけど、慣れたらハマった。


 

おわりに


 『MYTH』感想、いかかだったでしょうか。

 想定以上の重量級でしたが、非常にクオリティの高い作品で満足です。
 ただまぁ、お盆休み中に終わらせると息巻いたのに、半月以上オーバーしてしまいました。その点は笑っちゃいましたね。

 さて、次にプレイする作品は、おそらくは『MYTH -After thE Stories-』になるのではないかと。
 もしくは『孤独に効く百合』とか『chil out』とかあたりですかね。『かけぬけ』もそろそろ終わらせたい。
 とりあえず、本作が非常に難しかったため、しばらくは軽めの作品を数本消化する予定です。

 それでは✋

 P.S.
 『奏の事件簿』は第一話で解けなくて断念しました。答え分かる方、第一話から第三話まで教えてください……。