BRAIN➡WORLD

ノベルゲーム感想と思考出力

『パルフェ ~chocolat second brew Re-order~』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

パルフェchocolat second brew Re-order~』


 今更紹介するまでもないほどのビッグネームですね。商業ブランド『戯画』さんから2005年に発売された名作です。
 エロゲ史を語る上では欠かせない程に今でも根強い人気を誇る本作ですが、実は私未プレイだったのです……。というか、先日『この青空に約束を─』をプレイするまでは戯画作品ですら未プレイでしたからね。何ともお恥ずかしい限りなのですが……。兎にも角にも今回晴れて着手するということで。前作である『ショコラ』も完走済みですので、準備万端です。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 ― 来店されるお客様には、現実の世界から離れて、ひとときの安らぎを…

 中世ヨーロッパの街並みを再現した大型ショッピングモール・「ブリックモール」。

 なぜかそこで真向かいに鉢合わせた、同じコンセプトの欧風アンティーク喫茶。

 「キュリオ3号店」と、「ファミーユ」・・・。

 圧倒的な人気を誇るキュリオを真向かいに、奮闘を余儀なくされる主人公。

 その前に店の制服を着込んだバイト志望の少女、由飛が突然現れる。

 彼女の笑顔と心惹きつけられる歌声に

 主人公は、なんとなく、なんとかなりそうな気がしてしまう・・・。


 あれから2年。

 名作を彩ったスタッフが再結集して、あらたな物語をつむぎだします。

 『パルフェ ~ショコラ second brew~』

 引用元

所感




~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 攻略順は以下の通り。
 かすり√⇒明日香√⇒由飛√⇒玲愛√⇒恵麻√⇒里伽子√

涼波 かすり√

 面白かったです。
 パティシエールヒロインの個別ルートだけあって、胸焼けするほどにダダ甘な〆でしたね。しかしながらそれが良い。
 展開に関しても概ね満足です。かすりの胸中には共感出来る部分があり、故にこそ没入出来たのかなとも考えています。

 『その人が周囲から求められていること』と『その人本人がやりたいこと』の間に発生する齟齬は、現実世界でも非常によくよく散見される社会問題であると思いました。それは例えば仕事上でアサインされるタスクだったり、或いは学生の進路だったり。もしかしたら本記事をご覧の方の中にも、「私は本当はこれがやりたいけど、あっちの方が向いているらしいから我慢してそのポジションに甘んじよう」という考えを抱いた経験がある方はいらっしゃるのではないでしょうか? そんな身近な問題が題材として敷かれている本ルートは、まごうことなくその問題に対する一つのアンサーとなりえる内容であったと言えます。
 本ルートヒロインでありパティシエールとして研鑽を積む涼波かすりは、自身の菓子の味がファミーユの味(別のヒロインである恵麻の味)に届かないことに悩んでいました。しかしだからといってかすりがファミーユにとって不必要な存在であったかと問われれば否です。かすりは、ファミーユのタスクを熟す上でどこのポジションにもヘルプに入れるマルチプレイヤーとして重宝されていたのです。要は、周囲から求められているかすりは『マルチプレイヤー』としての涼波かすりなんですね。しかし、かすり本人の胸中は違いました。かすり自身が目指すのは、『パティシエール』としてファミーユで活躍する涼波かすりなのです。まさしく上述した問題に悩まされるヒロインというワケですね。
 では、涼波かすりが抱えるそのような問題に対して、本ルートではどのような答えが示されたのか。それは、『恵麻に並ぶ程の味を身に付けてファミーユの味という概念を塗り替えること』でした。それはなにも、ファミーユの味を『恵麻の味』から『かすりの味』に上書きするという意味ではありません。かすりが目指したのは、ファミーユの味を『恵麻とかすりの味』に塗り替えることだったワケです。まさしくキュリオ3号店店長である板橋店長が口にしていた『共存共栄』とはこのことであろうと。ただ、板橋店長はこの言葉を口にする際、併せて「競争なきところに、成長はない」とも言っていました。私もこれには同意で、だからこそ本ルートの展開には満足しています。かすりは上述した野望を実現するために、ファミーユのライバル店であるキュリオに移籍してまで恵麻との真剣勝負をしようとしました。それは、恵麻に憧れ追いかけるだけだった今までの自分を捨てる行為です。しかし、憧れに並び立ち、あわよくば追い越そうとするのであれば、その選択は順当な決断であると考えます。某バスケ漫画でも黄色い頭に青いユニフォームの彼が口にしていましたよね。「憧れていては超えられない」、「憧れるのはもうやめる」と。なんなら現実世界でも大谷翔平が似た事を口にしていたりもしましたね。まぁ何はともあれ、憧れているだけでは辿り着けない境地があり、そこに辿り着くための人事を涼波かすりは尽くしたからこそ憧れだった恵麻と同じ景色に辿り着けたのだろうなと納得出来た次第です。加えて、よくよく考えるとかすりと恵麻の競争にも相互的な成長があるんですよね。というのも、恵麻の方もチョコレート系の製菓が苦手と明言されていたところ、バレンタイン商戦に間に合うよう修行してきたワケですから。多少の混乱はあったものの、ファミーユにとってはワンランク上に成長できる万々歳な展開だったと解釈出来ます。……板橋店長、ここまで考えていそうで末恐ろしいんですよね。なんならファミーユを成長させることでさらなるファミーユとキュリオとの『共存共栄』まで視野に入れて今回の行動を起こしていそうですし。能天気なようでいてふとした拍子にさりげなく視野の広さと思慮深さを仄めかしてくるオッサン、好き……。

雪乃 明日香√

 展開的な面白さとしては可もなく不可もなしです。
 ただ、ひたすらにルートヒロインである明日香の可愛さが発揮されたシナリオであったと感じました。特に、告白シーンでは明日香のあざと可愛さにドキドキされっぱなしで、改めて丸戸先生の筆力の高さを思い知らされましたね。また、告白シーンに関しては明日香だけでなく仁の対応も非常に満足度が高かったですね。明日香へのお仕置きで頭ぐりぐりしている状況という緩和した空気感から唐突に繰り出されるファーストキス……。あまりにも不意打ち過ぎて、明日香だけでなく私も度肝を抜かれました。やれやれ、キザな男だぜ。でもそういうところが好ましい。

 明日香って、他のファミーユメンバーほど目立たないけれど、ファミーユを縁の下から支える存在ですよね。それも、マルチプレイヤーなかすりとはまた違った意味で。視野はおそらくメンバーの中でもトップクラスに広く、彼女がフロアにいたからこそ上手く回った状況も多かったのだろうと推察できます。物語終盤では明日香が受験で一年間ファミーユから離れることになり、それにより自分の『居場所』がなくなってしまうことを危惧する場面がありますが、前述を考慮すると絶対にそんなことはないんですよね。勿論ずっと一緒にやってきた仲間だからという理由だけでも決して『居場所』は無くなりませんが、それはそれとして役割的にも明日香がファミーユにとって必要不可欠な存在であることは確実なのだろうということが解釈できるシナリオにも仕上がっていたのではないかなと思いました。
 『居場所』といえば、丸戸先生がメインライターを務める作品としては本作の次作が『この青空に約束を―』になるんですね。本ルートで『居場所』という題材に対する丸戸先生の考え方の片鱗が垣間見えたのかもしれないですね。まぁ、そう珍しい題材じゃないといえばそれはそうなのですが。

風美 由飛√

 能天気で図々しくて気ままな天才肌。そんな風美────花鳥由飛のキャラクター性が非常によく描写された物語であったと思います。ただ、だからこそ私には合わない物語でもありました。
 展開的な面白さとしても可もなく不可もなし。告白シーンの一連の流れやラストシーンからエンディングへ繋げる演出はかなり気に入ったのですが、全体的な展開としては由飛の天才性も相まって若干拍子抜けでした。周囲が外堀を埋めてしまえばすんなりクリア出来てしまうんかい的な。由飛のトラウマポイントに関しても理解こそすれ共感出来ませんでしたし、意図的なのでしょうが由飛の振る舞いから『努力』という概念が見受けられなかった点も不満に拍車をかけました。なんというか、盛り上がらないなぁ……と。ちなみに、由飛が努力に慣れていないであろうことは『エオリアンハープ』を狂ったように弾いて失敗し続けた姿からもよくよく読み取れますよね。アレは努力というよりも、”努力の仕方が分からないが故の空回り”という解釈の方が合致するような振る舞いでしょうから。
 しかし、そんな本ルートの中でも仁と玲愛の頑張りには目を見張るものがありました。特に、玲愛が『エオリアンハープ』に再挑戦する展開には拍手を送りたい。由飛√なのに由飛の株は上がらず玲愛の株が上がるという展開は些か疑問にも思いますが、まぁシナリオやキャラクター性的には仕方のないことなのかもしれませんね。由飛と玲愛は正反対のキャラクター性で描かれているように解釈出来ますし、そんな義姉妹を本ルートのような展開上で役割分担させるとなるとどうしてもこうなってしまうのでしょう。この点、本ルートの焦点対象を最初から『由飛』というキャラクター単位ではなく『花鳥義姉妹』という枠組み単位で捉えていればもっと楽しく読めたのかもしれません。
 とはいえ仮にそのスタンスで読んでいたのだとしても、やはり『天才』か『努力家』かでハッキリとキャラクター性を分けてしまっている以上は上述した点が気になり続けたと思います。たとえ本ルートの本筋に「頑張れる人間が頑張ればいい。頑張れない人間は少し休んでいればいい」というメッセージが敷かれていたのだとしても、そもそも『頑張れない方の人間』に元から『努力』の概念が見受けられないのでは釈然としないワケで。あまりにも由飛が努力するキャラクターだとキャラクター性自体が変わってしまうのでそこまでは望みませんが、ほんの少しくらいは由飛の中に『努力』という概念が垣間見えて欲しかったなぁと思うばかりです。

花鳥 玲愛√

 諸君、私は花鳥玲愛が好きだ!
 真面目で理性的で責任感のある花鳥玲愛が好きだ。要所では融通が利かないながらもプライベートではお茶目な気を持ち合わせている花鳥玲愛が好きだ。普段は気が強いのに弱ると甘え癖が発動する花鳥玲愛が好きだ。構ってもらうために小競り合いをしかけちゃう花鳥玲愛が好きだ。敵対したり喧嘩したりした相手であっても気を遣える花鳥玲愛が好きだ。相手のプライドすらも尊重し、意を汲める花鳥玲愛が好きだ。厳しさの中に優しさを潜ませる花鳥玲愛が好きだ。ツンとデレの塩梅が絶妙な花鳥玲愛が好きだ。意地を張るところと素直になるところを弁えている花鳥玲愛が好きだ。怒っていても感情的になりすぎず突っ放したりしない花鳥玲愛が好きだ。アプローチが時折大胆な花鳥玲愛が好きだ。理不尽な暴力を振るわない花鳥玲愛が好きだ。努力家な花鳥玲愛が好きだ。主人公と同じく肉親に劣等感を抱いている花鳥玲愛が好きだ。頼れる人属性を持ちながら守ってあげたい人属性も併せ持つ花鳥玲愛が好きだ。花鳥玲愛のありとあらゆる要素が大好きだ!!!!

 というワケで、満を持して。共通パート時点で私を激しく悶えさせた2人のヒロインの内の一角、花鳥玲愛の個別ルートです。
 結論から言えば、玲愛の様々な側面を楽しむことが出来た点では満足しています。また、花鳥姉妹の『仲直り』を仁が手伝ったことから始まった本ルートの〆に、杉澤兄弟(一人と仁)の『仲直り』を玲愛に手伝わせるという構図を持ってきたことに関しても、対比構造が好きな私としては好ましかったなと。
 ただ、終盤の展開には少々思うところがあったりします。玲愛が本店に戻る道を選択したことに対して、あえて玲愛に恋愛面での不安を与える計画を実行する展開ですね。いくら玲愛を失うかもしれないことに敏感になっていたからといって、この計画を立案時点で止めることが出来なかった仁には正直がっかりしました。というのも、玲愛の『本質』を知っている仁であれば、そのような計画を実行に移すことによって玲愛がどれほど自身の本質と現状との間で雁字搦めのどん詰まりになってしまうかを予想できたハズだからです。結果としては実際に壊れていく玲愛を見ることに途中で耐えられなくなって計画を中止することを決断しますが、いくら里伽子や由飛と我慢の約束をしていたからといって玲愛が壊れていく様子を見守っている期間もありはしたワケで……。なんというか、さすがに「こちらに残って欲しい」という利己的な感情を押し付けるにしては鬼畜の所業が過ぎるし、そもそも卑怯なのではないかなぁと思った次第です。そのように語ると計画に一枚噛んでいた里伽子や由飛、板橋店長、瑞奈も鬼畜なように思えますが、そもそもここまで玲愛が壊れる理由に思い至れる人物は計画関係者の中だと他ならぬ仁しかいませんし(由飛はアホだから多分そこまで考えが回らない)、計画立案者の里伽子は元々玲愛を最後まで追い詰める気はありませんでしたしで、やはりこの件で格を落とすのは仁だけなのですよ。
 しかし、だからといって本計画自体を否定しきることも出来ないあたりが心境的に複雑なのですよねぇ。本計画、一見すればたしかに玲愛を壊すほどに鬼畜な所業なのですが、同時に避難訓練宜しく本番前の事前練習としての価値も有しているのですよね。本計画の目的は『花鳥玲愛に仁と離れ離れになることで生じる不安を自覚させる』というモノでした。要は、本計画が実施されずそのままの流れで玲愛が本店に戻っていた場合、玲愛はいざ離れ離れになってから段々と不安を募らせることになっていたワケです。近くに仁がいない状況になってからそのような不安に陥っていた場合、より玲愛自身の崩壊は加速していたのかもしれません。そう考えると、あながち本計画も一種の優しさであったのかなと思った次第です。……里伽子がそこまで考えていたかは分かりませんが、板橋店長はそこまで見越した上で計画に乗っかっていた気がしますね。
 そんなこんなで良い側面もあったり悪い側面もあったりするあたりが何ともジレンマ……。まぁそもそも『主人公』が聖人君子でなければならない言われもないため、視点を変えれば仁の人間臭さが際立っていて良かったという見方も出来るのですがね。少なくとも本ルート中の私は玲愛の視点に偏り過ぎていた気があるので、仁の所業が目についてしまったのかもしれません。

杉澤 恵麻√

 諸刃の剣のようなシナリオであったというのが率直な感想です。一手でも扱いを間違えればヘイトが集まること間違いなしであろう要素をふんだんに含んだルートであったようにも思いましたが、結果的には綺麗に物語を着地させられていたあたり、ライターである丸戸先生の手腕には驚かされるばかりです。

 仁の初恋の相手であり、養子としての仁の義姉であり、仁の実兄の妻でもあるヒロイン────杉澤恵麻。もはやプロフィールだけでも明らかに扱いが難しいのに、性格面でも非常に独占欲が強いという癖の強さを兼ね備えているあたり、やはり前述もした通り一歩間違えればただの厄介なウザキャラに成り下がっていたものと考えられます。ただ、本ルートではそのような癖の強さもヒロインの一個性として上手くシナリオに昇華されていた点が評価したい点ですね。
 展開としても、仁と恵麻の恋愛に関するこれまでの経緯を対比させた上で背徳的な物語が紡がれていた点が良かったかなと。互いに元々パートナーが別にいた上での初恋の相手への回帰ですからね。ましてや仁と恵麻の関係性は複雑なワケですから、すんなりとくっついてハッピーエンドとなるハズもなく……。読み応えはあったと感じています。個人的には、恵麻が自らの罪に自覚的である様子が描写された点と、仁と里伽子の関係がずるずると物語終盤まで引っ張られた点が気に入っています。特に後者は非常に私好みな要素なんですよね。常々各所で申し上げていますが、レースに敗北したヒロインの涙からしか得られない栄養素があるのですよ。

夏海 里伽子√

 ただただ満足です。
 BAD ENDで一度は屍と化し、フォロワーに骨をキュリオ3号店へ撒いてもらう程にまでダメージを受けた私ですが、完走したことによって霊魂は浄化され、無事天界へと昇天することが出来ました。しばし心安らかに眠ることとします。

 というワケで本ルートですが、非常にシビアな内容という印象を抱きました。ただ、これほどまでのシリアスに我々を叩き落しておいて、結果的にシビアなだけでは終わらなかった点が本ルートで最も評価したい点です。抑揚の鬼かよ。
 私は本ルートを、『美談の偏見性を表層化する物語』であったと解釈しました。ここでいう『美談』とは、高村仁の信条の一つである『家族第一主義』を指します。「家族を最も大切にする」という考え方はきっと、現実社会においても非常に美しい価値観として捉えられるのではないでしょうか? 少なくとも私はそのように捉えていますし、似た信条も持っています。で、実際にこの信条は作中においても今まで良い方向に働いていました。最もそれが読み取れるのは、やはり杉澤恵麻の個別ルートでしょう。主に過去のエピソードにまつわる話ですが、家族に尽くすという仁の信条があったからこそ恵麻はこれまで壊れないでこれたのだと考えられます。ではここで視点を変えてみましょう。仁が家族に尽くしている間、家族に含まれない他者────それこそ『恋人』のような立ち位置の人間が何か重い事情を抱えていたとしたら、その『美談』ははたしてその他者からはどのように映るのでしょうか? ……と、そんな議題に焦点を当てたのが本ルートでした。『美談』と称される価値観が美しいとされるのはあくまでも当事者たちから見た一側面であって、本ルートの里伽子のように美しさの裏で泣いている者の存在を表層化したのが本ルートだったのです。言うなれば恵麻√の裏面。主人公である高村仁の在り方の『穴』を指摘し痛烈に皮肉るシナリオ。構造としては『Fate/stay night』におけるFateUBWに対するHFの立ち位置とも例えられるのかもしれません。しかし本ルートは最終的に、あれほどの痛い目を見せておきながら、終ぞ高村仁の信条を変えることはしませんでした。むしろその信条貫いたままに、一度は取り零してしまった里伽子を掬い上げたのです。もちろん指摘された信条の穴を塞げたワケではありません。ただそれでもきっと、少なくとも本ルートでは赦される。簡単に信条を変えるのではなく、あくまでもその信条の範囲内で見事に里伽子を救ってみせたという一貫性が、非常に私好みなシナリオでした。……ただこの点、美談の偏見性は何も解消されていないのですよね。今回焦点の当たった里伽子は将来的な家族であったため救われる糸口がありましたが、きっと里伽子のようなポジション以外のケースであれば今回のように上手くは救えない。仁がこの信条を抱き続ける限り、きっと美しさの裏で泣く者は現れ続ける。だからこそ本ルートは『美談の偏見性を”表層化”する物語』で留まるのです。

 あとこれは余談ですが、本ルートにおいて仁を滑稽に見せる描写があまりにも上手くて驚きました。夏海里伽子はこんなにも高村仁を『理解』しているのに、肝心の高村仁は夏海里伽子を都合よく解釈して『理解』した気になっているだけという構図はあまりにも見ていて痛々しく、そして同時に苛立たしかったです。もちろん私は嫌悪感を抱くキャラクターがいたからといってそれだけで評価を下げるほど短絡的な人間ではありません。それが意図してヘイトを向けられるように描かれているのであれば、それはものの見事に自分がライターの術中にハマっていることを意味するので、むしろ評価します。この点、例としてはまさしく同ライターの作品である『WHITE ALBUM 2』のキャラクター達が挙げられるでしょうね。いやホント、『好感』と『嫌悪』を両方扱えるライターさんは強いなぁと感心するばかりです。

Parfait au Chocolat

 前日譚エピソード。特に言及することはありません。おまけとしては充分な満足度でした。
 特に前作の『ショコラ』に思い入れが強いワケではないのですが、それでもやはり前作キャラが登場する展開にはテンション上がりますね。

総評


●シナリオについて
 まさしく美少女ゲームの王道ド真ん中と言っても過言ではないでしょう。それほどまでに完成された作品であったと評せます。
 明確な個性を有していながら決して他を喰わないヒロイン達。そんなヒロイン達の魅力を十二分に発揮するシナリオ。コメディとシリアスの絶妙なバランス。恋愛シミュレーションゲームとして「攻略している」と思えるレベルのちょうど良いADV要素量。様々な要点をしっかり押さえているが故にここまで多くのユーザーに愛される作品として歴史に名を遺しているのだろうなと実感しました。
 また、本作は多くの対比性を含有した作品であったという点も評価したい点です。それは例えば、恵麻√と里伽子√において仁の信条がもたらした影響の対比だとか、由飛と玲愛のキャラクター性の対比だとかが挙げられます。「対比性があるから良い作品」という理屈は無いのですがね。あくまでも私個人の感性として、別側面の要素や複数方向からのアプローチを対比させる構造に美しさを感じるため、対比性を上手く扱った作品を好ましく思う傾向にあるのです。

 これはあくまでも余談であり且つ個人的な解釈ですが、本作は『ショコラ』の続編を謳っておきながら、その実『ショコラ』の完全リメイクだったのではないかと感じました。もちろん『ショコラ』が無くて良い存在だの失敗作だのと宣う意図はありません。ただ、『ショコラ』の制作背景および本作の『ショコラ』との共通点の多さを考慮すると、どうしてもそのような印象を抱いてしまったという感じです。というのも、元々『ショコラ』を執筆した際の丸戸史明先生って逃げたシナリオライターの代役だったらしいのですよね。だからこそ、当時の丸戸先生は既に存在した素材を基にパズルのような継ぎ接ぎの物語を仕上げるしかなかったのかなと。そう考えると、『ショコラ』は丸戸先生にとって不完全燃焼な作品だったのではないのかなと思い至った次第です。で、そこに『ショコラ』の続編として本作が発表されるワケですよ。蓋を開けてみれば『ショコラ』の要素を継承した様々な要素(里伽子や由飛のキャラクター性に着目すると分かりやすいかも)に加え、「俺が喫茶店モノを書くならこういう話が書きたいんだ!」とでも言わんばかりに『ショコラ』に比べて喫茶店ネタ豊富な展開の数々。私が本作を読んで『ショコラ』の完全リメイクと解釈してしまうのも仕方がないとは思いませんか? とはいえ私は、別にそれを悪い点としてあげつらうつもりは無いのですよ。むしろ『ショコラ』で不満だった点が本作では解消されていたあたり逆に良い点であったとすら評せます。『パルフェ』は実質、丸戸先生成分純度100%の『ショコラ』。二番煎じ大いに結構。とても良い作品でした。

おわりに


 『パルフェchocolat second brew Re-order~』感想、いかかだったでしょうか。

 花鳥玲愛という素晴らしいヒロインに出逢えたことに感謝を────

 次にプレイする作品は、『フォセット -Cafe au Le Ciel Bleu-』を予定しております。

 それでは✋