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『ビフォー・アライビング・アット・ザ・ターミナル』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『ビフォー・アライビング・アット・ザ・ターミナル』
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 『アルティメット・ノベルゲーム・ギャラクティカ』で有名な同人サークル『人工くらげ』さんの最新作(2021/08/08現在)です。
 私、つい最近になって本作以外の人工くらげ作品を完走したワケですが、どの作品にも魅力を感じた次第です。そのため、本作には非常に期待を寄せています。
 概要を見るに、本作にはホラー要素も含まれているとのことですが……。果たしてどのような内容になっているのか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 今になって、思い出すことがたくさんある。

 小学生だったころ、近所の廃病院へ肝試しに行ったときのこと。
 中学のころ、線路をたどって不思議な神社を探したときのこと。
 高校のころ、校舎の中に子供の霊が出るという噂を調べたときのこと。
 そして大学に入って、あなたに出会ったころのこと。

 ――すべて、この町の記憶と一緒にある。

 引用元

所感


 面白かったです。
 何よりも読後感が最高でした……!
 人工くらげさんは過去作を見るに作品の雰囲気作りが非常に上手いという印象ですが、本作はまさに人工くらげさんの得意分野を活かしきった作品だったと言えるでしょう。
 また、本作の構成は非常に特殊であり、その点でも大変惹かれました。
 総じて、多くの人にプレイして欲しいと思える作品です。

 本作はフリーゲームです。STEAMから無料でプレイすることが出来ます。以下にリンクを添付しますので、興味のある方はぜひ手に取ってみてください。
 ※ちなみに、過去作の『雨の日と雨の日の次の日』を先にプレイしておくと、さらに楽しめます。そちらのリンクも併せて添付しますので是非。
store.steampowered.com jnc-klg.sakura.ne.jp

~以下ネタバレ有~
~『雨の日と雨の日の次の日』のネタバレも若干含みます~











総評


●シナリオについて
 クオリティの高い作品だと感じました。
 プレイ後の余韻はあまりにも心地良く、数分間は立つことすらままならないという有様でした。
 いやホント、完走時には「すっっっっっっっっごい……」という言葉しか出てこない程に語彙力が消失していましたしね。
 正直、本記事で本作をしっかりと掘り下げられるレベルに自分が達しているとは思っておりません。
 (それでも頑張って書きますがね。人工くらげ作品に対して毎度こんなこと言っている気がするな?)

 では、語って参りましょうか。
 まず、本作においても『高い没入度を与える雰囲気作り』という言わば人工くらげさんの持ち味は健在でした。いや、それどころか、さらなる磨きが掛かっていたと言っても過言ではないでしょう。
 というのも、本作は『ホラー』と銘打ってこそいるものの、俗に言う"直接的"なホラー演出の類いは一切登場しておりません。しかしそうであるにも関わらず、本作をプレイしているとどこかゾッとするんです。潜在的な恐怖が呼び起こされると言いますか何と言いますか……。
 とにかく、今まではただ”物語に没入させるのが上手い”というだけだったのが、本作では”物語に没入させた上で間接的に恐怖を与える”という領域にまで達しているんです。上手くは言えませんが、この差は大きいんですよね。
 直接的な表現を用いない以上、こと『恐怖』のような感情の発露は、プレイヤーの脳内補完に委ねられます。要は、プレイヤーが『恐怖』を脳内補完するための雰囲気作り(感情発露のための間接的なきっかけ作り)が上手かったということです。
 ついにこのレベルにまで達したのか……と感嘆しましたね。

 続いて、本作は非常に特殊な構成のシナリオだったと言えるでしょう。
 高校生時代の主人公の記憶を回想する第一話。
 中学生時代の主人公の記憶を回想する第二話。
 大学生現在の主人公を描く第三話。
 小学生時代の主人公の記憶を回想する第四話。
 以上四話を順不同で何度も巡り、やがて最終話に至るという構成。
 "何度も巡る"とは言いましたが、各話は周回ごとにエピソードが変わります。大筋は変わらないのですが、周回ごとに段々と"記憶が補強されていく"と言えば伝わるでしょうか。
 そして、あらかたの記憶補強が済んだ末に、ゴールへ至るための最終話が待っているという感じです。
 この構成、何が面白かったかというと、提示されている情報によって見方や印象が全く異なるという事実を感じられる点なんですよね。
 というのも、周回序盤の各話はかなり記憶の欠落が激しいんです。またそれに伴い、あえて記憶を弄られている(破綻しないよう最低限補完されている)部分もあります。要は、語られる記憶が違和感と不自然さの塊なんです。ただ、本作の話の流れからして、私のようなプレイヤーはその不自然さを『怪異的なモノ』として納得してしまうワケです。
 しかし蓋を開けてみれば、違和感や不自然さの大半は、周回を経て記憶が補強されていくにつれて払拭されていく。怪異的でもなんでもなく、あくまでも勘違いの域を出ないような『普通』の真相で溢れます。周回が進むごとに、話への印象にギャップが生まれるんです。
 作中で提示されたキーワードの一つとして、『先入観』があります。物語にも紐づいたキーワードではありましたが、これはプレイヤーの思考にも該当するキーワードだったのだろうなと思わずにはいられません。
 ちなみに本作の構成絡みで言えば、周回を経るごとにキャラクターの名前が明確になっていくという演出も良かったですね。記憶補強の指標として上手い表現方法だと思いました。

 さて、ここからは若干毛色の異なる話をば。
 本作、もちろん単体作品としても問題は無いのですが、個人的には『雨の日と雨の日の次の日』のアフター的作品としての側面も持っていると感じました。
 というのも本作、裏の主人公を魚住綾子とすると、『西和行(雨雨主人公)を忘れられない魚住が、西に似ている主人公をモノにしようとする物語』なんですよ。作品構成上の主人公はたしかに本作主人公────岸悟ですし、本来の本作は『過去と決着をつけられない岸悟が記憶を呼び覚まして過去と決着をつける物語』でもあります。しかし、最もアクティブに物語を動かしていたのは誰かと問われると、間違いなく魚住綾子なんです。
 設定に関しても、半ば『雨の日と雨の日の次の日』では有耶無耶になった設定の補完も兼ねているとも考えられます。(『不安定世界≒町の記憶』とか)
 これらの点、もちろん個人的には興奮しました。そもそも『綾子』という名前が出てきた時点で盛り上がりましたし、予想以上に魚住綾子が『雨の日と雨の日の次の日』の出来事と主人公について語った際には発狂しましたし。
 ただやはりよくよく考えてみると、本作単体だと『なぜここまでして魚住綾子が西と似ている主人公に執着したのか』とか『魚住綾子が町の記憶空間にあっさり適応出来たのか』とか、実感としては納得しにくいのではないかなぁとも思ってしまうワケです。
 そういう理由から、私個人としては本作プレイ前に『雨の日と雨の日の次の日』完走は必須事項であるという説を提唱したいですね。

●キャラクターについて
 『岸 悟』について。主人公。
 記憶の改竄に翻弄され、過去と決着をつけられない様子からしても、『雨の日と雨の日の次の日』の主人公────西和行と重なる部分はありますね。
 正直あまり語れることの多い主人公ではないんですよね……。
 綾子が自身の記憶を改竄していたことを知っても受け入れるあたり、広い心は持っていたのでしょう。

 『』について。友人。幼馴染。オカルトマニア。
 オカルト好きでありながら曖昧な部分を許容出来ずに白黒をつけようとするあたり、かなり特殊なキャラクターであったと感じました。おそらくは特殊な家柄(巫女の家系)であったことも関係しているのでしょう。
 悟同様に過去に囚われて苦しんでいたことは、カセットテープのメッセージを聞いた場面の反応でよくわかりました。『町の記憶の再現』というオカルトに直面したことが幼馴染の死の原因であって、秀も悟も悪くないんですがね……。何ともやりきれないです。
 それはそれとして、秀はどうやって『町の記憶』に辿り着く方法を見つけたんでしょうね。

 『』について。秀の従妹。巫女。霊感保持者。悟の安全装置を兼任。
 もはや守護霊ですよね。彼女がいなければどうなっていたか……。
 明確には言及されませんでしたが、周回数序盤で『秀=友人』とか『綾子=あなた』だった時点からずっと名前が『ヒメ』として表記されていたり、綾子が書き換えた主人公の記憶の中でも綾子に都合悪く振る舞っていたあたり、裏ではめちゃくちゃ主人公の記憶を守るために奮闘していたことが窺えます。
 正直、茶髪よりも黒髪でいて欲しかった派です……。

 『魚住綾子』について。黒幕。『雨の日と雨の日の次の日』からの続投キャラクター。
 雨雨では片桐教授の教え子として異常に囚われていましたが、おそらくは本作時系列でも異常に囚われたままの状態なのだろうな、と。しかし、博士課程を終えてポスドクになっていたり、片桐教授の元を離れて筑波大学に勤務していたりと、少しは前進している様子も窺えます。
 本作ではあれほど納得出来なかった片桐教授の手法を真似て、悟を自分のモノにしようと画策しました。
 手法的にはよろしくなかったかもしれませんが、結果的には主人公も真実に辿り着いた上で納得して恋仲になった様子でしたし、尚更本作は綾子のための雨雨アフターでもあったと思わずにはいられませんね。

 『根津先輩』について。秀の彼女。オカルト好き。
 正直、役割的な大きさはあまり感じませんでした。「オカルトの肝は妄想のような曖昧部分であって、信じるか信じないかの二択ではない」的なセリフは印象に残りました。

 『もう一人の女の子』について。悟や秀の幼馴染。秀の起こした事故での死亡者。悟が耐えきれずに記憶から消した存在。
 結局、名前すら語られることはありませんでしたね。彼女がちゃんと登場する"本当の過去話"も見てみたいものです。

おわりに


 『ビフォー・アライビング・アット・ザ・ターミナル』感想、いかかだったでしょうか。

 本作で既存の人工くらげ作品はコンプリートしたことになりますが、全てが唯一無二の作品で面白かったです。

 次にプレイする作品は、『MYTH』および『Aguni -運命の先-』を予定しております。

 それでは✋