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『夢を確かめる』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『夢を確かめる』


 同人ゲーム界隈では市場でもほとんど見ないレアゲーとしてひっそり名を馳せていた本作。しかし最近起こった『例の一件』によって本作を知ったという方も多いのではないでしょうか?
 かくいう私は元々本作の存在を知ってはいたものの、絶対に手に入らない作品の一つだとして入手を諦めていました。『例の一件』の発端となったヤフオクもリアルタイムで観戦していたので尚更ですね。故にこそ、『例の一件』にもめげずに再販という対応を貫き通してくださったヤプシ街道さんには感謝しかありません。
 さて、幻の作品を入手することが出来たというところで、「人を選ぶ作品」と評される本作に期待を寄せつつ、早速プレイして参りましょうか!

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 日々モンモンとしているオトコの子たちにとって1年で最も気が気じゃない日、バレンタインデー。
 ウッハウッハを夢見て、敗れた者もいた。
 夢見ることを最初から諦め、しかし幸運が訪れた者も。
 「夢」は「夢」のままにしておくべきだと、シニカルを決め込む者も。
 ここに性格も年齢も違う3人の愛すべきバカ野郎たちがいる。
 果たして彼らは、オンナの子たちから夢をもらうことができるのか?
 それは、どんな「夢」なんだろう……?
 時を同じくして、街には露出狂の出る噂が────

 引用元 : ディスクケースに付属していた冊子

所感




~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 <所感>でも記しましたが、まず『人を選ぶ作品』という評価は正しいですね。良くも悪くも”同人だからこそその真価が活かされた意欲作”と言えるでしょう。
 正直な話、個人的には3つのシナリオがそれぞれ2/19を終えるまでは本作を『非常に退屈な作品』であると感じておりました。会話劇がとにかくつまらないし、挟まれるギャグも寒い。引用やパロディも一見すると下手(これについては意図されたモノであったため詳細を後述)。展開的にも大きな起伏は無い。主観者を含めたキャラクターたちにも癖があり、正直あまり好きにはなれない。故にこそ、2/20に突入する時点では「本当にこれって面白くなるのか……?」と不安に思っていました。しかし結論から言うと、それは杞憂でした。本作を完走した私は、大いに満足しております。

 本作を完走してまず私が率直に抱いた感想は、「完全にライターさんの掌の上で踊らされたぁぁぁぁぁ!!!」という言わば”悔しさ”と”悦び”でした。というのも、本作はとにかくヒントの出し方と物語構成が上手い。ユーザー側が提示されたヒントを頼りに「これこういうことだな」と気付いても、真相はそこからさらに数回のどんでん返しを重ねた先に存在しているワケです。具体的な話をすると、本作ではそもそも最初から3つのエピソードが並行して進められるのですが、一見するとどの視点者も同一人物なんですよね。エピソード中の舞台もそれぞれ高校・大学・会社なため、最初は『時系列の異なる同一人物の物語』であると思ってしまう。しかし物語を読み進めていく毎に、何かどことなく違和感を覚え始める。それは例えば主人公の性格の違いだったり、兄弟の存在だったり、観ている番組だったりと様々です。それらの違和感(ヒント)をかき集めることによって、私達ユーザー側は、「あ、これ視点者別人だ」という結論に至るワケです。ここまではおそらくユーザーの大半が気付けたのではないでしょうか? そして、そこで至った結論に胡坐をかいたのではありませんか? かくいう私も、その時点では本作のトリックを解き明かした気になっていました。しかし本作の山場はそこから先でした。何と、3つのエピソードの終盤において、これらの物語が結局のところやはり『時系列の異なる同一人物の物語』だったということが明かされます。さらに加えて、エピローグ的な立ち位置のエピソードにおいて、実は主観者こそが架空の人物であり、3人のヒロインは各々理想の夢を見る『夢たしかめ機』の被験者だったということも明かされます。……正直、度肝を抜かれました。「あの違和感(ヒント)は全てミスリードだったのか」と。「でもところどころ矛盾点もあるくない?」と。この時点で既に私は本作の虜。没入度で言えばMAXであったと言っても過言ではないでしょう。『夢を確かめる』自体の設計思想は『プレイヤーを如何にゲームへ没入させるか?』であるとのことなので、この時点で少なくとも私に対してそれは達成されていたということになります。故に、この時点でも私は本作に対してそれなりの評価をしたものと考えられます。……しかし、本作はここでは止まりませんでした。”どんでん返しはこの1回だけではなかった”んです。この後のさらなるエピローグ(?)のようなエピソードによって、何と主観者は実は架空の人物ではなく、上述した『主観者が架空の人物でヒロインズは夢たしかめ機の被験者』というオチですら”主人公がプレイしていたそういう物語のゲーム”であったということが明かされます。先ほどのどんでん返しの直後にこのどんでん返しは大ダメージですよ。しかもこれさらに先があって、最終的な物語の決着として、主観者(ここまで来るともう主人公と言っていいのかもしれない)は”そういう結末”として決着したハズの『時系列の異なる同一人物の物語』を、あえて『主観者が別人で独立したままの3つの物語』として決着させることによって『夢』のキャラクターたちを解放しようとします。もちろん一度決着したシナリオの根底自体をひっくり返す所業であるため本ゲームのOS(管理者みたいな概念)は「それでは筋が通らない」と主人公に反論するワケですが、ここで主人公の反論材料となるのが1回目のどんでん返しの際にユーザー側でもうっすら気付くことが出来た『矛盾点』なんですよね。「ここでそれを出すのかぁ~~~~!!」と。よもや感情がジェットコースターに乗っているような感覚ですよ。本作は何回ひっくり返してくれるんだと。ちなみに余談ですが、この場面をプレイしていたタイミングで既に現実の時間は午前3時過ぎ。完全に止め時を見失っていました。そんなこんなで、本作の物語構成は非常に優秀だったなぁということを熱く語らせていただきました。

 続いては、『私がプレイ中に感じた本作の欠点』と『並行して進められた3つのエピソードの役割』について。先に説明しておくと、ここで言う『欠点』はあえて意図的に仕込まれていた伏線であったため、厳密には『欠点』では無いと思われます。それでもあえてここで『欠点』という単語を用いるのは、私が少なくともその場面ではそう感じたという事実を前面に押し出すことで、”私がライターさんの掌の上で見事に転がされた様”を強く表現するためであることをご理解ください。
 というワケで本題に入りますが、本作の3つのエピソードにはそれぞれ役割があったことが後々ゲームのOSから語られています。高校生主観のエピソードの役割は『虚構への逃避』、大学生主観のエピソードの役割は『現実への牽引』、社会人主観のエピソードの役割は『停滞と前進』です。そして、それらの役割達成のため、各エピソードではちょっとしたギミックが仕込まれていたとのことでした。ここで、私がプレイ中に感じていた『欠点』を2点挟ませていただきます。1点目は、『高校生主観・大学生主観のエピソードにおける”不必要な引用”や”マニアックな例え”、”著者名や作品名の羅列”の多さ』です。これは乱発とも言える多さで、酷い際には約5ページ分のテキストウインドウにギッシリと著者名が羅列されていることもありました。2点目は、『社会人主観のエピソードにおけるほぼ文句を垂れるだけで何もしない主観者』です。YTIシステムで鬱憤を晴らすことはあれど、少なくとも正史では彼はほぼ自分から行動するということをしませんでした(2/20を除く)。……さて、察しの良い方はもう気付かれたかもしれませんね。そう、要はここで私が言いたいことは、「私が”欠点”であると思った要素は意図的に組み込まれた”仕掛け”であった」ということです。上述した”ギミック”がこの”仕掛け”に該当します。各エピソードの役割は上述した通りですが、曰く本作において何かしらの創作物について語られる際、『虚構』へ紐付く高校生主観のエピソードではでたらめな作品名や著者名が挙げられ、『現実』へ紐付く大学生主観のエピソードでは例外を除いて正しい作品名や著者名が挙げられていたとのことでした。社会人主観のエピソードに関してはそのままですね。停滞と前進が体現されたエピソードとなっていたワケですから。むしろライターさんは、これらの要素がユーザーの印象に残るようあえて過剰にシナリオ上に組み込んだ可能性もあるなぁとか思ったりしました。

 とまぁ、ここまで本作を絶賛してきましたが、それはそれとして不満な部分もいくつかは存在します。既に上述してはいますが、少なくとも2/19までの会話劇や展開が長いわりに面白くなかったことに関しては事実です。これは、上述した『欠点かと思ったら仕掛けだった要素』とは違って、何の擁護も印象転換も出来ない明確な不満点です。また、一部ラストシーンで恋仲になっていることに納得出来ない組み合わせもありました。いや、あの流れでどうして……? という印象は拭えません。ここいらはもう少し改善の余地があったのではなかろうかと思ってしまうところです。……まぁ、感性なんてものは人それぞれなので、偶々私の感性に合わなかっただけなのかもしれませんし、偉そうに講釈垂らすほど私も偉くはないのですが……。ともあれ、ここいらでもう少し楽しむことが出来ていたら、さらに本作を評価出来ていたと思います。要は、さらなるポテンシャルを感じたという風に捉えていただければ。

 ちなみに、本作の肝の一つであった『YTIシステム』は革新的で面白い試みだと思いました。もちろん本作の物語に強く結び付くシステムであったため汎用性を見出せるのかは分かりませんが、私としてはノベルゲーム界隈でチラホラと用いられる手法になっても良いのではないかなと考えた次第です。

 ここからは余談ですが、各ヒロインのデフォルトキャラクターネームって繋げると「のぞみかなえたまえ(望み叶え給え)」になるんですよね。隠されたメッセージだなぁとか思ったり。
 あと、『Yesterdey to Idol』の歌詞には3つのエピソードにおけるヒロインズの名前が隠されているんですね。

Yesterdey to Idol ”ひしひ”しと伝わるよ 想いが”今”にもはち切れそう”なの”?

 ……これは根拠の薄い当てずっぽうなんですけど、『Yesterdey to Idol』の歌詞ってもしかして田宮ちえりの心を歌っていたりするんですかね……?

 PS.
 物語の首、芥川龍之介の著書におけるセリフ、結末、”首藤”というキャラクター、会社をクビになるということ。
 至るところで『首』というキーワードは示唆されていましたが、これも意図的だったんでしょうかね?

おわりに


 『夢を確かめる』感想、いかかだったでしょうか。

 私も夢たしかめ機欲しいな~。

 次にプレイする作品は、『白詰草話』を予定しております。

 それでは✋