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『しゅぷれ~むキャンディ ~王道には王道たる理由があるんです!~』感想

目次

はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『しゅぷれ~むキャンディ ~王道には王道たる理由があるんです!~』
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 ケロQの姉妹ブランド『枕』の3作目ですね。opの『飛べない魔法使い』がとても有名です。
 枕の代表作と言えば『H2O』や『サクラノ詩』が挙がりますが、両作品ともに一癖ある作品となっております。そのため、本作でも一味違ったシナリオを見せてくれることを期待しております。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 幼い頃、斗南優はアニメの魔法使いに憧れて川原でホウキにまたがり空を飛ぶ練習にあけくれていた。
 そんなある日、彼はホウキではなく掃除機に乗って空を飛ぶ魔法使いの少女・羽依と出会う。
 二人は楽しい時間を過ごすものの、あることをきっかけに別れてしまう。
 それから幾年月が経ち、
 優は少年から青年へと変わった。
 そして、魔法というものとは縁遠い平凡な日常の中でごくごく普通な男子校ライフを過していた。
 しかし、
 そんな彼の生活は、たまたま拾った飴玉によって一変する。
 飴玉の名は…

 『しゅぷれ~むキャンディ』

 二色のキャンディは、若返らせたり、年を取らせたりすることのできる魔法のキャンディだった。
 最初は恐怖を感じていた優だったが、キャンディの不思議な能力を活用する方法を思いついた。

 いつも遠くから眺めている女子校。
 そして女子生徒達と楽しく遊ぶ近所の子ども達の姿。

 うらやましいと思った。
 でも思うだけだった。

 でも部活の先輩にいつも言われ続けてきた不文律が現実へと引き戻す。
 『男(おれたち)は成長するとキモくなる。だから、女の子達に嫌われる』
 だから遠くから眺めているだけだった。
 男の子ではない、男である自分は遠くから眺めているしかなかった。
 しかし! このキャンディがあれば!

 『これを使えば、女子校に潜入できる!』

 さっそく優はしゅぷれ~むキャンディを使い、
 いつも遠くから眺めているだけだった男子禁制である女子校へと潜入する。

 念願の女子校へと潜入した優は、そこで一人の女子生徒と出会う。
 一目で心奪われた相手。
 彼女こそ、優が幼い頃に出会った魔法使い・羽依だった。
 羽依に会いたい一心で女子校への潜入を続ける優。
 そこで優はいろんな女子生徒達と出会う。

 いきなり写メを撮ってくる女の子、ウサ耳帽子をかぶった女の子、幼馴染みの女の子……
 さらにさらにエトセトラ……エトセトラ……

 魔法のキャンディがもたらした出会いは、とびっきり甘い!

 引用元

所感


 うーーーーーーーむ。
 かなりソフトな作品という印象。いわゆる初心者に勧める分には手頃な作品なのではないかなぁ~と。
 普通にエロゲとしては手に取りやすい内容ではあったかと思われます。
 残念ながら、個人的にはあまり満足できませんでした……。朱里√やジャコ√あたりはけっこういいのですがね。
 opは凄く好きです……!

~以下ネタバレ有~











各ルート感想


 基本的に、各ルートが終わった時点でその都度該当√の感想を書いております。

 攻略順は以下の通り。
 藍原時未√➡佐久間弓音√➡七星朱里√➡湊向日葵√➡天乃羽依√➡露雪悠莉√➡ジャコ√➡TRUE√
 

共通パート

 あっさり終わりましたね。気が付いたらルートに入っていたような感じ。
 いきなり過去編から始まり、主人公が掘り下げられた際には、面白そうだと感じられました。
 というか、普通にサクラノ詩舞台の背景とテキストによる匂わせだけで大興奮でしたね。背景使いまわしはケロQ枕さんの十八番とはいえ、テキストでまで共通舞台であることを匂わせられるのはファンとして嬉しい限りでした。

 本編に関しては簡潔に言うと、飴玉拾って女子校潜入して弓音に正体がバレるというくらいでしたし、大して大きいと言えるようなイベントは無かったのかなぁ……と。
 ……というか、共通パートでほとんど触れられないヒロインや登場しないヒロインもいるんですが、良いのでしょうか……。

藍原時未√

●シナリオについて
 ハッキリ言って不満。
 単調な日々の繰り返しが退屈を助長し、馬鹿なくせに勘違いと被害妄想だけ一丁前な主人公がイライラを促進させ、プレイ中は始終モヤモヤとした気持ちを抱いておりました。
 『主人公の人間嫌いを克服する』って本筋もどこぞに放り投げられていますし……。まぁ、サブヒロイン√だから仕方ないんですかね……。
 いやそうだとしてもさすがに主人公がバカでガキすぎるというか……。序盤で主人公の境遇(周囲に馴染めず、子供の頃にはハブられていたこともある)エピソードを聞いた際には主人公に同情しましたけど、正直時未√プレイ中は「こういう人間ならそらそうやろな」と若干境遇に納得してしまうようになってしまいました。こういう人間、他人からすれば百害あって一利なしでしょ。自分ならまず関わりたくない人間です。
 最終的にはちゃんと自分がガキだったことを認めて反省しているあたりまだ救いようはあった感じでした。その点からも察するに、おそらくはテーマ(後述)のため、ヒロインの年齢に合わせて主人公をガキ化させる必要があったのでしょうが、それにしてはやりすぎでしたね。

●ヒロインについて
 「ウ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛」
 というワケで、『藍原時未』について。主人公宅の近所に住む女の子。家族ぐるみの仲。天真爛漫。口癖というか、笑い方というか、鳴き声が非常に特徴的なヒロイン。
 最初に登場した時には、この娘が攻略可能ヒロインなことに驚きました。性格も体格も見るからに小学生だったので。エロゲでは別に珍しいことではありませんけど、枕では珍しい印象がありましたのでね。まぁ唯一の行為シーンでは成長していましたが。だろうな(落胆)。
 正直、遥かに年上である主人公よりもよほど根本的なところでは大人なのではないかなと。まぁ、さすがに年相応な部分で大人な部分を上手く表現出来ていないもどかしさもありますが。
 視野広いし、優しいし。自分のことにしか頭が回らない主人公よりも断然好感が持てました。

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●テーマ・メッセージについて
 ■『ヒロインと一緒に自身も成長する』
  まぁ、おそらく本ルートのテーマはこれでしょう。終盤には明言されていますし、だからこそヒロインの年齢に合わせて主人公をあそこまでガキらしくする必要があった。なんか、ある種テーマのために主人公がデバフかけられてる感あってあまり釈然としませんけどね……。テーマが足を引っ張っちゃった感。

佐久間弓音√

●シナリオについて
 程よく甘酸っぱいピュアピュア青春恋愛劇。恋心に無自覚な両者が、互いに恋心を自覚していくお話。
 中盤までは少々退屈ではありましたが、終盤急に良くなって驚きました。
 特に主人公の変わりようというか。本ルートでは展開的にしっかりと主人公してましたし、最後のフェンスを乗り越える場面とかとてもかっこよかったです。時未√の主人公とは完全に別人と言っても過言ではありませんでした。こういうのでいいんだよこういうので。
 序盤は相変わらずしつこいくらいに主人公がネガティブ思考を繰り広げていたので、時未√の後だったこともあって若干イライラさせられたんですがね。それを差し引いても満足できるくらいにはお釣りが来たかと。

 たじろぐことなく、自身の気持ちを貫き、ヒロインの心の壁をぶち破る。良い主人公に成長してくれて私はとても嬉しいよ、優クン……!

●ヒロインについて
 『佐久間弓音』について。主人公との秘密の共有者。魔法に憧れる少女。ノリの良いさっぱりとした女子校生。エロゲーマー。
 性格的にけっこう好きな部類のヒロインです。序盤で主人公の正体に気づいた場面のようなパターンのシチュエーションだと、わりかし主人公を叩きのめしたり罵ったりするヒロインも多いように思えるんですが、弓音は理不尽だとか早合点だとかで暴力を振るってくることもなかったので、それだけでも好印象でしたね。頭が回るヒロイン好き。
 ただ、物語を進めるごとに、彼女にも欠点があることが明かされていきます。視野が狭かったり、拘りのある事物に関して異論者に価値観を押し付けてしまったり、深読みするが故の被害妄想癖があったりとかですね。
 ではそれらの要素が悪い方向に働いたのかというと、そうではなく。むしろこれらの欠点が明示されることによって、『実は佐久間弓音というヒロインは主人公と似た者同士である』というキャラ像が浮かび上がってきます。これがまた、シナリオ上でも良い味を出しています。似た者同士だからこそ、同じ悩みを抱き、同じように足踏みをするという構図ですね。とても良い。
 ちなみに、「本当に高校生くらいの年齢か……?」と疑わしくなるレベルに恋心を自覚できない純真無垢さという点でも似た者同士ですね。母親の助言が無ければ、関係が進展したかどうかもわからぬ……。

 最後に。これ某四季シリーズ[冬]のピンク髪ヒロインを思い出しましたね。いや、本作の方がリリースは先ですけど。
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●テーマ・メッセージについて
 ■『やらずに後悔するくらいなら、やって後悔しよう』
  メッセージ①。クラスメイトである田中君からの主人公への助言です。まぁ生きていれば一度はどこぞで聞くことのあるありふれたメッセージではありますが、大事な心掛けです。行動を起こさなければ、"可能性"すら0ですからね。

 ■『自分の気持ちがハッキリしたなら、その気持ちに自信を持て』
  メッセージ②。母から主人公への助言です。自分の気持ちを明確化したなら、後は貫けって話ですよね。これもけっこう啓発的には大切なことだと思います。

 ■『最初は誰だって経験なんてないんだ。だからって、それから逃げてたら一生そのままだよ?』
  メッセージ③。メッセージ①とも少し関係してくるかなぁと。やったことがないからと足踏みしていても、停滞からは抜け出せません。経験したことがないのにあれこれ考えるくらいなら、むしろ開き直って挑戦するくらいがちょうどいいんだと思います。やらなければきっと、後々後悔することもあるでしょうしね。

七星朱里√

●シナリオについて
 明らかにサブヒロイン√でしたが、とても良かったです。
 中盤までは「これライターお遊び用のネタ√だな……」とか思っていたんですね……。というのも、そもそもヒロインがルートに入ってからでないと登場しないという事態。一種の隠しヒロインだったのでしょうかね。
 物語が進んでいく中でも、中盤までは古のニコ〇コ動画ネタが満載でしたし、爽やか系イケメンスポーツマンのハズの田中クンは壊れるしで、やりたい放題だなと思うのも無理はないと思うのですよ。
 風向きが変わってきたのは、朱里をヤンキーから助けたあたりからでしょうか。そこからしっかりとヒロインである朱里の抱える問題も掘り下げた上で、納得のいく展開にまで昇華してくれました。

 主人公の感情の揺れ動きだとか、朱里の内面の描き方だとかも上手かったですし、個人的には主人公と父親のスタンスに好感が持てました。というか、ここが前述した納得ポイントです。
 最初こそ父親側が突っぱねてはいましたが、ひとたび話し合いが始まれば一変。ちゃんと両者ともに互いの意見を認め合った上で、それなりの落としどころを見つけている。こういう結論の出し方はとてもスッキリ出来ます。
 作品によっては、根拠もへったくれもないのにヒロインを親の気持ちを全否定してレールを取っ払う主人公だとか、すぐに主人公やヒロインの言い分に納得して子供を自由にする親だとかが出てきますが、正直むしろそちらの展開の方が釈然としないタチでしてね。
 創作の中でまでリアリティを重視するのはナンセンスですが、それはそれとして『創作の中であっても無視してはいけない現実問題』はあると考えています。その問題を「創作だから」という理由で無視してしまうのは、あまりにもご都合主義的であり、物語そのものの面白さの低下にまで直結するという系統の問題ですね。
 本ルートにおける親子のすれ違いは、創作の世界ではよくよく取り扱われる問題ではありますが、同時に上述した問題に該当する問題であるとも考えています。だからこそ、本ルートにおける主人公と朱里の父親による落としどころはその点しっかりと考えられていて良かったなと思うワケです。

●ヒロインについて
 『七星朱里』について。転校生。楽しく普通じゃない物事の探究者。
 シンプルイズベストをモットーに、楽しそうな物事に突っ込んでいく明るい子────だと思っていたんですが、実際のところはさらに厚みのあるキャラクターでした。
 つまるところ、七星朱里は、『自身を一人の人間として見て欲しい』という欲求を抱くキャラクターだったワケです。
 朱里の一人称は『七星朱里(自身のフルネーム)』だったワケなんですが、実は伏線だったという点がこれまた上手いなと思いましたね。一人の人間として見てもらえない自身への皮肉、或いは自虐みたいなモノだった、と(若干表現的に拡大解釈が含まれますが)。正直エピローグで触れられるまでは気づきもしませんでした。ホント、こういうのを『伏線』っていうんですよね……。

 また、彼女が『楽しく普通じゃない物事』を求める理由について。厳しい家庭で親の敷いたレールを歩く日々の中、常に周囲と比較され、成果を求められる人生を過ごしてきた彼女は、自分というモノが分からなくなっていた。だからこそ、ある日道端で見かけた、周囲の目を気にせず楽しいことに熱中する人に憧れ、楽しいことで人生を彩ろうとした────ということだったのですが。これもまた掘り下げてみれば、『自身を一人の人間として見て欲しい』という欲求に直結するんですよね。"個"を出すことが出来れば、"個"を見てもらえるワケですから(もちろん今までの人生がつまらなかったからというのもありますが)。

 主人公のことを好きになった理由も『モノとしてではなく一人の女性として自身に接してくれたから』でしたし、七星朱里というキャラクターの抱える根幹部分が一貫していた点に、個人的には好感を抱きましたね。

●テーマ・メッセージについて
 ■「面白いものを捜さなくちゃ、面白くはならない。時間は限られている。時間は貯められない。何をするにも何を得るにも必ず時間はかかる。何もしなくても時間は流れる。何かしても時間は流れる。だから、あえて自らの時間を手放してさえ惜しくないものにしか、時間を割くべきではない」
  長くなってしまいましたが、朱里が優に対して語ったセリフを少しコンパクトにした文言です。
  この意識ってけっこう大事で、考えるべきは自身が最期に人生を振り返った時にどれだけ満足出来るかなんですよね。   自身の満足のために時間は有意義に使うべきだし、能動的に動かなければ面白さはやってこないワケです。

 ■「一生は一瞬の連続。一瞬がつまらなければ一生もつまらない」
  朱里が父親に放ったセリフです。少々極端ですし、案の定父親にも一笑に付されてしまう考え方なのですが、私個人は『日頃から持つべき意識』として大事な考え方だなと思いました。
  たかが一瞬、されど一瞬。一瞬一瞬を大事にそういう意識を持ち続ければ、必然的に有意義な時間は増えるワケですからね。

 ■「オタクは道じゃない!! オタクは選べない!! なぜならオタクは運命だからだ!!」
  部長が、オタクであることを嘆いて八つ当たりする主人公に喝を入れる際に発したセリフです。これ、個人的に凄く心に響くメッセージでした。
  作中ではもう少し掘り下げられていたので軽く説明すると、これってつまりは「オタクコンテンツに心を動かされる素質を持っている時点でオタクであることは運命」という意味なんですよね。衝撃を受けました。たしかに世の中にはオタクコンテンツに触れても心動かされない人も大勢いる。そんな中で、私たち所謂『オタク』はオタクコンテンツに心動かされてこの界隈に入り浸っている……。たしかに運命なんです。
 オタクであることに自信を持てる。そんな素晴らしいメッセージだと思います。

湊向日葵√

●シナリオについて
 パッとはしませんでしたね。
 いつからか距離を置いてしまうようになってしまった幼馴染ヒロインとの物語。
 蓋を開けてみれば、互いが互いを想っているが故に互いを避けていて、その避けるという行為がさらにすれ違いを加速させていた的な真相。
 こういったすれ違いを乗り越えるためには互いの認識を擦り合わせて正す必要があるワケですが、その過程が描かれるという感じでしたね。
 物語としては決して悪いワケではありませんでしたし、両者互いを見つめなおして今の関係を乗り越え、この先失った時間を取り戻すんだー的な展開の流れで、要点も抑えていたし〆も納得は出来たんですがねぇ……。

 うーん……これはもう単純に私のツボに全くと言っていいほどハマらなかっただけの話というか……。或いは純粋に物語自体のポテンシャルの問題というか……。本当に、パッとしない物語だったという言葉しか見つかりません。

●ヒロインについて
 『湊向日葵』について。主人公の幼馴染。駄菓子好きな女の子。主人公に一途な聖人。
 主人公への態度を見るに、最初はコミュニケ―ションが不器用なヒロインなのかなぁとか思っていたんですが、ちゃんとその態度にも理由があって、知れば知るほどに良い娘だなぁと思わせてくれるヒロインでした。
 本ルートはすれ違いがあってナンボが故に、主人公のネガティブ思考による勘違いが上手くハマったルートでもあったのだろうなとは思いますが、それはそれとして向日葵ちゃんの主人公を想う一途な心を見ていると、尚更主人公のネガティブ思考による自分しか見えていない勘違いにイラっとしますね……(それでも時未√主人公に比べればまだマシですが)。数度祝った向日葵ちゃんの誕生日ですら忘れてやがるしあの野郎……。

●テーマ・メッセージについて
 ■「好きなものを、周りに馬鹿にされて嫌いになってしまうことの方が……好きなものをただ純粋に好きでいることよりも……よっぽど気持ち悪いこと」
  主人公────優が、過去の自身の向日葵への過ちを顧みて発したセリフです。大事な考え方だと思います。
  要は、自分の好きなものくらい同調圧力に屈した選択をするなって話ですね。周りに何と言われようと、それが好きなもんなら『好き』を貫く姿勢を見せなくちゃ、我というモノが無くなるかと。

天乃羽依√

●シナリオについて
 まぁ、さすがはセンターヒロイン(?)のルートだなぁという感想。本筋に寄り添った怒涛の設定回収(伏線回収というには少し弱い)でした。
 しかし内容的にはこちらも大盛り上がりするかと問われればそうでもなく。イマイチあっさりめでしたね。
 ルートに入ってわりかしすぐに羽依が魔法使いであることや過去に出会っていたことが判明しますし、その流れであっさりと恋人になりますし。

 イチャイチャな日常を見せられるのは正直退屈ではありましたが、その場面以外はしっかり本筋に触れてくれてたので良かったと思っています。"ちゃんと"しゅぷれ~むキャンディが使われていましたし、『魔法使い』という設定も掘り下げられますし、主人公の過去や二つ目の人格もしっかりとシナリオに絡んできますし。あと、共通パートでの部長のセリフが主人公を後押しするのも個人的には良いなと思ったポイントでした。
 また、本ルート終盤では、主人公がヒロインに寄り添った葛藤を行う描写もあるんですよね。そしてその末に、自身の進む道を選択する。そこいらの筋道建ては評価したい点です。
 ただまぁ、〆方としては多少粗さの目立つモノだったのかなぁとは思ってしまいました。なぜ羽依が記憶を取り戻したのかもわかりませんし、あれほどに人間を見下していた魔法世界の議員たちが手のひら大回転ですぐさま主人公を認めるし。そこいらはイマイチ釈然とはしませんね。

●ヒロインについて
 『天乃羽依』について。子供たちと遊ぶ優しいお姉さん。魔法使い。主人公と過去に出会ったことがある女の子。
 突出して何か個性的な特徴があるヒロインかと問われればそうではなく、比較的オーソドックスなヒロイン様式のキャラクターだったのかなぁと思います。ただそれ故に、あまり多く語ることもないんですよねぇ……。
 主人公の抱える様々な事情を優しく受け入れる包容力に対して子供の頃は天狗だったというギャップは、主人公との出会いがきっかけで変わることが出来たんだなぁというこれ以上無い証明根拠となっているようにも見えて、良い対比だなぁと。
 自身を変えてくれた主人公と再会するためだけに人間世界に来るあたり、ヒロイン力も高かったのではないでしょうか。

●テーマ・メッセージについて
 ■「例え消えても、何か残るの。あったものを失うということは、ないこととは違う」
  悠莉が羽依を忘れようとする主人公に対してかけるセリフです。
  『あったという事実』があれば、記憶や心に残るものはありますからね……。

 ■「世界とは両面価値」
  部長が主人公に投げかけるセリフです。
  元はニーチェの言葉とのこと。良いことも悪いことも両方受け入れることが大事であるという考え方。大事ですね。

露雪悠莉√

●シナリオについて
 本作の中ではトップクラスに力が入っていたルートだったと感じました。
 『魔法使い』という本筋に一つに寄り添っていた羽依√とは異なり、本ルートはもう一つの本筋である『主人公の目的』に寄り添っていたのかなぁ、と。
 というのも、本ルートでは特に主人公の『人間を憎まず、他者を好きになる』という目的が特に色濃くシナリオに昇華されていたように見受けられたのです。
 そもそも、√ヒロインである露雪悠莉の設定からしてそんな感じというか。悠莉の設定が上手く主人公の目的と噛み合っていたからこそ、物語終盤における優の葛藤が生まれたのだろうなと考えると、本ルートはやはり本作の集大成の一つとして挙げても良いのだろうなと思えます。まぁまだ明らかに重要なルートが控えていますが……。

 しかしまぁそれはそれとして、面白いと思えたかといわれればなかなかそうではありませんでしたし、不満点もあります。
 まず前提として、これは個人的な好みの話なのですが、私は害意のある者たちまでを対象とした博愛主義や平和主義ってあまり好きではないんですよね。なので、問題の解決に『力』を用いることを過剰に良くないコトとして扱う本作の風潮自体があまり私の肌には合わないのですが……。それでも、一応それら博愛主義や平和主義を貫くにあたってなんらかの大きな理由があるのであれば、納得は出来るくらいの分別はあるワケです。その上で、それらの主義を貫く様を見せてくれれば尚更納得します。評価することもあるくらいです。
 ただ、残念ながら本ルートでは詰めが甘かったというか……。主人公が力での解決を良しとしない理由には納得出来るので、その点は良いのですがね。問題は、それを貫けたかどうかという点でして。
 本ルートでは悠莉へのイジメが加速して不良男子生徒が出てくるまでになった際、主人公が昔のように力を行使して不良を蹴散らすシーンがあります。そこでは、主人公が力での解決を良しとしない理由を知っている悠莉が止めに入るワケですが、不良たちは恐れおののいて逃げ去るワケです。その後は普通に話が進むのですが、個人的にはここがどうしても引っかかってしまいました。
 というのもこれ、「これって結局、力の行使以外の解決は出来なかったってことだよね?」って思えてしまう展開なんですよね。『人を憎まず、他者を愛する』という目的や『弱いものは強いものに殺されても良いという道理を認めたくない』という理由があるからこそ、人を憎んで力を行使するということを起こしたくない主人公ではありますが、現実問題として今回の不良のように害意や悪意を向けてくる連中というのはいるワケです。そして今回は、主人公が圧倒的な力を見せつけたからこそ、そういう連中が主人公や悠莉に対して害意や悪意を向けられなくなったにすぎません。
 つまり、『その場で人を憎んで力を行使し、強さを振るったからこそ、結果として今後少なくともこの連中を憎むことはなくなるようになった』というだけの話であって、『力を行使することを良しとしないままに解決した』ということにはならないんですよ。
 力を行使していなければ、何も解決出来ていないよね? って。
 結局、強いものによってそれ未満のものを蹂躙することを認めてしまってやいないか? と。
 その後にリカバリー的展開が来てくれるのならまだ良かったのですが、結局この件はそのままお流れしてしまいましたからね……。
 その場の"過ち"による副産物に甘えてしまっている点が、イマイチ釈然としなかったというワケでした。特に『人を憎まず、他者を愛する』という目的がより色濃く出ている本ルートだからこそ、尚の事この展開は浮いているように感じたのです。
 羽依√でも似た展開はありましたが、あっちは一応『彼』の犯行でしたし、その後の話の持って行き方がまだ納得出来るものだったので気にならなかったんですがね……。
 うーん……。あの場面が、『人を憎まず、他者を愛する』という自覚を優により強く促すためのイベントであり、あえてそういう展開にしたのだろうということはなんとなく推察出来るのですが、それはそれとしてやはり釈然とはしないのです。

●ヒロインについて
 『露雪悠莉』について。巨大ウサ耳の不思議ちゃん。いじめられっ子。忌み嫌われる存在を愛する少女。主人公の祈りによって具現化された弔い人。
 ヒロインとしては好きな部類でした。儚いですよね……。主人公が人を愛せるようになれば消える存在だったワケですが、愛する対象が悠莉であるこのルートではその設定はあまりにも残酷で。主人公が愛する人を想えば想うほどにその愛する人である悠莉が消えていくという構図は、私の眼には美しく映りました。また、シナリオ上において、この構図は主人公に大きな葛藤を促しており、その点でも面白さに繋がっていて良かったなと。
 悠莉の行動原理は偏に『主人公が好き』という感情であり、そして悠莉は『主人公に忘れていて欲しくない』という願いを抱き続け、自らを再び主人公の記憶に刻むために生き続けた(役割のこともありはしたでしょうが)。
 ヒロイン力は非常に高いですよね。羽依が身を引くだけはあります。というか正直、ルーツは違えど道程は似ているので、羽依の立場が喰われてしまったような……。

長谷川・アイザック・泉・メルセデス・ジャココ√

●シナリオについて
 面白かったです。さすがはグランド√の片側。
 いいですよね、前世から続く長い恋の終着的な物語。ひたすらにジャコのことが大好きになれるルートでした。本当にジャコが健気でなぁ……。
 シナリオ的にも、ちゃんと『主人公のルーツ』や『主人公の本心』、『主人公の背負っているモノ』など主人公絡みの本筋に決着をつける内容となっていて良かったと思います。自身の『世界を滅ぼす鍵』としての役割を自覚しているからこそ、本当は好きな人間を嫌いだと偽らなければならない苦しみが吐露されるシーンは特に良かったですね。そして、それを言われずとも理解していたジャコ……。理解者である関係性……。とても尊いです。
 他にも、しゅぷれ~むキャンディの製造話や魔法使いの世界での歴史等重要設定一式が語られつつも、ジャコの魅力を引き出すイベントは惜しみなく描かれており、なかなかにてんこ盛りなルートだったのではないかと。『彼』についても、少し可哀想ながらも掘り下げられましたし。
 〆方もご都合とかではなく納得出来るモノとなっておりました。切ないままにジャコの消滅で終わるのも個人的には良かったんですがね。まぁハッピーエンドになるに越したことはありません。

 それにしても、タイトルにもなっている『しゅぷれ~むキャンディ』が最後の決め手になるというのはなんともアツい展開でした。こういうキャンディの使われ方を待っていたんだよ……!

●ヒロインについて
 か わ い い
 最後の最後で抜群に刺さるヒロインが来て、非常にご満悦です。
 というわけで、『ジャコこと長谷川・アイザック・泉・メルセデス・ジャココ』について。呪いの鎌。ジャックの同行者。鍵を殺す者でありながら、斗南優の幸せを願う者。
 長い年月、愛したジャックの願いに従い続け。ジャックの生まれ変わりとも言える主人公の生き方を見守り、最後には世界よりも主人公が鍵の使命から解放されて幸せになることを選ぶ……。そもそも主人公を殺さなければ発動する呪いまで受けているのに、「殺さない」という選択に迷いが無い。
 ヒロイン力が高すぎます。あまりにも健気。あまりにも一途(と言っていいのかはわかりませんが)。朱里同様に、ルートに入ってからやっと出てくるヒロインではありましたが、そのようなハンデはものともしないほどの追い上げでした。

●テーマ・メッセージについて
 ■「人には魔法はないけど、夢がある。できないことをしようとするからこそ、夢を描いて知恵を絞り努力を以て成し遂げる」
  主人公────優のセリフです。『飛べないのに飛ぼうとする魔法使い』といったニュアンスで、羽依√でも触れられたメッセージですね。
  人間は、なんでも成し遂げられるような魔法は持っていない。しかしだからこそ夢を抱き、出来ないからこそ出来るように努力する。それが尊いのだと。

 ■「傷つき傷つけられることを恐れず、人の輪の中で人を愛し、愛されていることに気づくこと」
  主人公がすべきだったと語った生き方です。個人的に、私も人間関係においては臆病でネガティブ思考な節があります(自分は誰からも必要とされていないとかそんな感じ)。なので、この意識は見習いたいと思いました。一部の人には響くメッセージだったのではないかと。

■■■√

●シナリオについて
 目次に出てしまうので↑では伏せましたが、ヘスペラス√です。まぁルートといっても別に恋仲になるワケではありませんが。
 グランド√のもう片側というよりは、あくまでも設定補完のためのルートという印象が強かったですね。
 このルート、ホントなんとも評価が難しいんですよねぇ……。『しゅぷれ~むキャンディ』という作品として見たこのルートは、あまりにも毛色が違いすぎて、果たして必要だったのかよく分からないルートと化していました。たしかに魔道大戦とかフォスフォラス・ヘスペラスとか片鱗は今までもありましたが、外宇宙の旧支配者が出て来て大戦勃発の話とか、旧支配者との規格外バトルとか、少なくとも他のルートをプレイしている際にこんなスケールのデカい展開になるとは予想だにしていなかったワケですよ。
 しかし、少なくともこのルート単品で見れば、個人的には好きな部類でした。終ノ空シリーズでも用いられるクトゥルフ設定がより鮮明に盛り込まれていましたし、バトルは概念系の技の押収で規格外でしたし、こういう厨二厨二したの好きなんですよね。あと普通に、終ノ空シリーズの■■■■との関連性とか妄想することも楽しかったですね。ケロ枕作品最強の座揺るぐやんて思いました。

 とまぁ色々と言いましたが、あれだけ風呂敷を広げたにも関わらず、最後は丸く綺麗に収まったのかなという印象を受けております。
 タイトルにもなっている『しゅぷれ~むキャンディ』がこのルートでも決め手になりましたし、その点も良かったかと。
 あと個人的には、終盤に宇宙の真理の階層で優とジャックが対面して語り合うシーンが好きです。『愛せないながらも人間を愛そうと努める存在』である優は、転生体でこそありますがきっと、ジャックの追い求めていた『飛べないのに飛ぼうとする魔法使い』だったのだろうな、と。だから、自分自身が鍵化から逃れることを放棄してまで、優と会うために鍵化の間際にこの階層へ立ち寄ったのだと考えられます。

 ……それにしても、マジでセンターヒロインかと思われた羽依は蚊帳の外だったな……。

●ヒロインについて
 『ヘスペラス』について。旧支配者の一人。闇を愛する者。時空間を操る邪神。露雪悠莉。
 とまぁ、正直実際は悠莉なので、あまり語ることもないです。悠莉√感想の『ヒロインについて』欄を見ていただければ。
 まぁでも、旧知兼犬猿の仲であるジャコと接する時だけは大分強気且つ毒舌で、見ていてほっこりとしました。

 ……それにしても、フォスフォラス・ヘスペラスがヨグ=ソトースと同一存在ということは、彼女を終ノ空素晴らしき日々に登場する■■■■と同じように考えてしまって良いということなのでしょうかね……?

●テーマ・メッセージについて
「人は意志と選択によって進んでいく。それがより良い未来でないとしても。それが不幸につながる道であったとしても。人は意志により一つの道を選ぶ。お前が選んだ未来は、他の多数ある可能性よりも価値がある。なぜならば、お前が選んだ道であるから」
 宇宙の真理の階層にて、ジャックが優に語って聞かせたメッセージです。人間は選択をします。選択をする際、そこには意志が介在します。選んだ道────無数の可能性の中の一つは、その意志によって選ばれたからこそ、良し悪し関係なく価値があるのだと。だから、胸を張って人生を送れと。そういうことを言っているのだと考えております。

総評


●シナリオについて
 正直、満足にはなかなか程遠いですね。突出して面白い部分があったワケでもなく、悪い部分ばかりは目につく感じ。
 さすがに本筋に近しいジャコ√と悠莉√はそれなりの面白さを維持していましたが、他ルートがあまり……という感じでしたし、ヘスペラス√に関しては個人的には好きでしたけど本作でやる内容ではないよなと思いました。逆に最も本筋から遠い朱里√が一番面白かったまであるのではないか、と。
 枕作品だったこともあって期待が大きかったため、残念感は大きいですね……。

●キャラクターについて
 『斗南優』について。主人公。世界を滅ぼす鍵を持つ存在。超ネガティブ人間。二重人格。神をも超越した魔法使いの転生者。
 正直、ルートによってはネガティブ思考があまりにもしつこすぎて、嫌いになったことも多々。
 しかしその実、「人間を愛してしまったら、その人が他の人間に危害を加えられてしまった場合にきっとその人間を殺してしまう。人間を既に愛しているからこそ、そうなることが怖い」という葛藤を抱えたキャラクターとなっており、掘れば掘るほどに深みは増す主人公となっていたのかなと思います。

 『斗南修』について。主人公の父親。若々しすぎる。ノリが完全なニコ■コ全盛期オタクで、こんな人が父親だったら恥ずかしい一方で楽しいのだろうなぁと。

 『斗南百合子』について。主人公の母親。こちらも若々しい。父親同様ノリはよいが、その裏では常に優のことを第一に考えてくれている様子が伺えるあたり、とても良いお母さんだなぁ、と。

●テーマ・メッセージについて
「他者を愛すること、傷つき傷つけられることを恐れないこと」
 一貫して、これに近しいテーマで本作は作られていたようにも思います。臆病になりすぎず、ある程度の覚悟を持ってこそ、人の輪の中で生きることや他者を愛することが出来るのだろうなと。

ここ好きポイント


■らんらんるー。他にもニコニコネタは溢れていましたが、最も懐かしさを感じたのはコレでした。本作発売当時の時代背景が垣間見えますねぇ!
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■朝から息子の部屋にコスプレで押し寄せる両親。愉快そうですが、ド■ルドのコスは最初見た時困惑しました。
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■ジャコのあれこれ。かわいい。
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■悠莉も混ざると尚且つかわいい。この二人が本作ヒロインの中ではトップですね。
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■シーンというよりは背景がサクラノ詩で主に使われた背景だったことに興奮しました。他にも背景使い回しは多かったですし、ケロQ枕の背景使い回しは珍しいことではありませんが、このシーンのようにあたかも他作品と繋がりがあるかのような記述がされることもあるので、『ただの背景の使い回し』では終わらないんですよね。
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おわりに


 『しゅぷれ~むキャンディ ~王道には王道たる理由があるんです!~』感想、いかかだったでしょうか。

 個人的にはあまり満足出来なくて残念でした……。
 ただまぁこれで、プレイしていない枕作品は残すところ『いきなりあなたに恋してる』だけになりましたので、そちらも近々手にとって参りたいと考えております。

 次にプレイする作品は、今月発売された『流星ワールドアクターBadge&Dagger』を予定しております。

 それでは✋