BRAIN➡WORLD

ノベルゲーム感想と思考出力

『音無き世界その代わり』感想

目次


はじめに


 ちゃすちゃす✋
 どーも、永澄拓夢です。

 てなわけで、今回の感想対象作品はこちら!

『音無き世界その代わり』


 私のお気に入り同人サークルが一つ『羊おじさん倶楽部』さんの3作目です。
 羊おじさん俱楽部作品といえば『灰色』な雰囲気が魅力ですが、本作ではどのような物語を魅せてくれるのでしょうか。

 というワケで、さぁ蓋を開けますわよ!

あらすじ


 少女に言葉を与えて欲しい

 聴覚障害を持つ妹は一家心中をただ一人生き残りました。姉を下敷きにして
 生まれた時から監禁され続けていた彼女は言葉を知りません。罪も知りません
 真実に固執する死神は聾唖の少女を旧知の道化に託しました。その場所は養護施設です
 道化は少女に言いました。さて、君に『言葉』という『魔法』を教えてやろう。

 私たちの魔法です。下の呪文を何度でも唱えてください

 世界からすべての悲しみが消えますように

 引用元

所感


 展開的に突出した面白さはありませんが、他に類を見ないテーマで綴られた作品となっており、非常に興味深かったです。
 正直、まだ頭の中で整理しきれているとは言えませんがね……。今後も考察したいと思える内容でした。

 ただまぁ、スッキリとした終わり方を望む方は避けた方が良いかもしれませんね……。ある意味、"羊おじさん俱楽部作品だからこそ"許せる終わり方だったのかもしれません。それほどまでに釈然としないというか、モヤモヤするエンディングとなっておりました。

~以下ネタバレ有~











総評


●シナリオについて
 展開的な面白さよりもテーマ的な面白さに寄せられた作品であったのかなぁという印象です。まさしく「タイトル通りの作品」だったという感じでしょうか。
 羊おじさん俱楽部作品の持ち味である『灰色』の雰囲気は健在でありながら、『魔女魔少魔法魔』の際に感じたような明るさも兼ね備えており、より日常の中の非日常感を覚えられました。

 正直ミステリーとしての面白味は薄いです。わりかしスパッと真相には思い至ってしまったのでね……。それ故に驚きも無かったあたり、作中の言葉を借りると本作はミステリーとしては『二流』ということになってしまうのでしょうか? ……まぁ、そこいらは正直、読む側の思考力に左右されるような気もしますが……(自分も大して頭が良い方ではありませんがね)。

 結末に関しては……うーん……。何とも潔くぶん投げたというか、ぶん投げることを前提として最初から作られていたというか……。個人的な好みとして見たかったのは『戦い続ける未来』でありながらも、羊おじさん俱楽部作品としてはこういう結末が正しいと納得出来てしまうというか……。とにかく何とも評価しづらい結末となっておりました。この点、同人作品だからこそ出来ることって感じですよね。商業作品でこんなことすると絶対に炎上する……。

 個人的には、難聴者への言葉を教える過程が何とも興味深かったです。素直に勉強になりました。滅多に目にすることの無い領域の話ですからね。

●キャラクターについて
■『小澄』について。主人公。魔法使い。道化。
 愛する人を自らの手で殺してしまったという重い過去を背負っています。『道化』と呼ばれていたのは過去のこととのことですが、どこか無理して明るく振る舞う彼はまさしく『道化』であったと感じました。
 物語中盤では角樹を殺すために魔法を使用し、その代償として罪悪感を失ったワケですが……。罪悪感を有した状態での彼であれば、また結末は違っていたのでしょうかね。

■『音無 鈴音』について。本名:音無世界。難聴者の妹を犠牲にしてすり替わった姉。
 『言葉』の犠牲者であり、『言葉』に救われた存在でもある存在です。本作の中で最も中心にいた人物といって良いでしょう。
 取り巻く環境からして詰んでおり、彼女が世間から赦される道は『妹を庇って死ぬ道』しかありませんでした。だからこそ彼女は難聴の妹に成り代わり、”音無き世界へと至る代わり”として『自身の生』を手に入れたワケですね。
 確かに私自身も、裏事情を知らない野次馬サイドであれば、『可哀想な方』である妹に肩入れしていたかもしれません。そういう意味では、私もまた、彼女を取り巻く環境(責め立てる野次馬)や彼女の選択(自らを鈴音と偽ったこと)を責めることは出来ませんね……。

■『カナエ』について。作曲家。両足不随。
 遺された二人のうちの片方。
 小澄陣営でも珍しく"戦い続けていた存在"ですね。個人的な好みとしては、彼女が本作で最も好きなキャラクターになります。
 この先に待ち受ける彼女の物語と、そして彼女が幸福へと至る結末を読んでみたいです。

■『福井』について。新任看護師。小澄の相棒。ミステリーファン。
 遺された二人のうちのもう片方。カナエをバックアップするために魔法使いとなることを選んだ者。
 鈴音(世界)の秘密に真っ先に気付いて距離を取ったことに関しては一見冷たく見えますが、彼女のバックグラウンドが掘り下げられていない以上はむしろその選択こそが好ましかったと思えます。逆にあの場面で世界に寄り添っていたら、それこそ頭の中に疑問符が浮かんでいたでしょうね。どんな行動原理と覚悟で動いているんだろうと。
 一度逃げるという展開があったからこそ、エピローグにおける選択にも厚みが出たのかなと。

■『青木』について。検察官。死神。絶対正義に囚われた者。
 癖の強いキャラクターです。彼の求める正義が完遂される日は来るのか否か……。彼が主人公の物語も読んでみたいですね。
 曇りの無い真実を追い求める彼にとって、本作の真相は最初からお見通しだったのでしょうか。

■『こころ』について。魔法使い。小澄の師匠。
 身体機能という多大な代償を払いながらも、自身の犠牲を顧みずに他者を救ってきた魔法使い。作中ではイロモノ扱いされていましたが、間違いなくその在り方は普遍的な正義の味方に近しかったでしょう。

■『院長』について。楽園の長。子供のような容姿でありながら40年以上生きる存在。
 弱い者が弱いままで生きていける施設(楽園)を守るという芯があり、サブキャラながらも魅力的に映りました。
 結局容姿が子供な理由は明かされませんでしたね。エピローグのセリフ的に彼自身は魔法使いじゃないようですし……。

■『角樹』について。記者。
 ……結局小澄が逃げた以上、彼は犬死にだったのでは……?

●テーマ・メッセージについて
言葉は魔法
 シンプルですが、まぁテーマはこれでしょう。作中でも何度か登場したフレーズです。本作は紛れもなく、良くも悪くも『言葉』という概念に雁字搦めにされたキャラクターたちの物語であったと認識しています。
 本作で描かれるアレコレには、ほぼほぼ『言葉』という概念が紐付けられていました。『言葉による”救い”』、『言葉による”悲しみ”』、『事象・事物────ひいては世界を把握する上での言葉の”重要性”』、etc……。作中に散りばめられたそれら言葉にまつわる題材を総括した表現としても、「言葉は魔法」というフレーズはしっくりと当てはまりますね。

 主人公────小澄は、外野から鈴音に向けられる感情・思想を、「欠片も本質的ではない、言葉の上だけに存在する力学だ」と称しました。また、楽園の院長は「言葉は罪深い。何かを説明するということは本質的に嘘を騙ることに等しい」という思想を口にしています。これらから解釈出来るのは、『言葉は世界の解像度を上げてくれるが、その代わりに人々を窮屈な場所(制限だとか思想だとかにより縛られた世界)に閉じ込める』ということ。たしかに言葉は魔法だけれど、一長一短でもあるのだと。
 そういえば、どこかしらで読んだ言語学の文書の中に、『人は分類する必要性があると判断した”モノ”に名前を付ける』という話があったことを思い出しました(正式な学術的文書だったかどうかは思い出せませんが……)。曰く、故にこそとある言語圏においては名前が小分けされている”モノ”であっても、別の言語圏では小分けされずに一つの名前として纏められているという事態が発生するのだとか。本作では世界の解像度を上げるための手法として『言葉』が説明されましたが、そういう考え方を念頭に考えると、少し面白いですよね。
 ただ、その観点から考えると、本作で焦点の当たっている『言葉』という概念は、なにも体系化された言語(日本語だとか英語だとか)でなくとも良いのだろうなと思いました。本作では展開的なこともあってか高度化された言語学を教材として取り扱っていましたが、本作で言いたかったことっておそらく原始的な言語(”人間が知性を持ち始めた頃に用いられていたであろうシンプルな言語”や”動物が同種の間で交わしているような言語”)でも当てはまるのだろうなと。世界の事物を分類し、本質的なアレコレを表現しようとして生まれたモノが『言葉』であると考えられるワケですから。その時点で、人は『音の無い場所』から外れた存在と言えるのだろうと。

 

おわりに


 『音無き世界その代わり』感想、いかかだったでしょうか。

 羊おじさん俱楽部作品も残すところ『さよなら、うつつ』のみとなりました。有料版を購入済みではあるので、近々プレイしようと考えております。

 次にプレイする作品は、『3on10作品』を予定しております。感想記事は残すか分かりませんがね……。

 それでは✋